第60話 恋人が尋常じゃなく可愛い件

「コウ! アリサ! どこに行ったっすかーー!」


 遠くでサリナが叫んでいる声が聞こえる。

 俺とアリサは気配を消しその場を後にする。


「はぁ、ようやく撒くことができたわね」


「なんでナブラ王国まで来たのにあいつの面倒を見させられるんだか?」


 城から出てしばらくして、俺とアリサは溜息を吐くと、ようやく自由になった実感がわいてきた。

 何せ、俺の正体がバレてからというもの、サリナはどこに行っても俺たちに付きまとうので、アリサとスキンシップをとることができなかった。


 ナブラ王国に着けば、状況が変化すると思ったのだが、国王ではサリナを止められず、明日香さんが押し付けてきたので、最早強硬策に出るしかなかった。


 そんなわけで、俺とアリサは別々に部屋を出ると、サリナを置いて城から逃亡を図ったというわけだ。


「ミナト……その、手を……」


 二人きりになると、アリサはもじもじとしながらじっと俺を見てくる。


「ああ、手を繋ごうか」


「うん!」


 彼女は嬉しそうに俺の手を握り締めると、上機嫌で街を歩き始めた。


「それにしても、この国も結構悪くないところよねー」


 綺麗な街並みに自然豊かな風土、暖かい風が吹き、着込まなくても過ごしやすい環境が整っている。

 住んでいる住人の顔も穏やかで、平和な生活をおくっているのだとわかる。


「取り敢えず、ナブラ王国の会議が終わるまで一週間あるからな、それまでは好きな所に行くとするか」


 現在、俺たちはナブラ王国より勧誘を受けている。

 契約による縛りを受けるつもりはないのだが、グレタ王国でも行った、充魔の仕事や、建設など、福祉に関する仕事については受けようと思っている。


 その辺の条件を取りまとめるのに時間が掛かるということで、城に待機するつもりだったが、アリサが不満を口にしたからだ。


「私だってもっと、ミナトと……い、イチャイチャしたい」


 頬を赤らめ、上目遣いで希望を口にするアリサに、俺は恋人として応えなければならなかった。

 そんなわけで、お邪魔虫のサリナを出し抜いてきたのだ。


「城から南下したところに海があるから、今日はそこで何か美味しい物でも食べて泊まりましょうよ。評判の良い旅館と温泉があるらしいわ」


 アリサの提案に従い、俺たちは城下町を馬車に乗り南下していく。

 馬車の中に他の客はいなく、俺たちの貸し切りということもありとてもリラックスすることができた。


「そう言えば、ミナト。魔法の方はどう?」


 俺の真の能力は、俺だけが使うことができるエリクサーなのだが、サリナやナブラ王国に対してはそれを秘密にしてあるので、無限に近い魔力とちょっとした魔法が使える程度に情報を偽っていた。


 そんなわけで、二人きりの今、魔法の師匠として俺の習得率を把握しようとしてきたようだ。


「だんだん、魔力伝導率も良くなってきたからな。四属性も中級までなら使えるようになっているぞ」


 もっとも、アリサは上級、場合によっては導級まで使うことができるので自慢にはならないのだが……。


「もうそこまでできるようになったのね。うん、偉い偉い」


 アリサは俺の頭を撫で褒めてくれた。彼女の方針は褒めて伸ばすものらしく、たとえそうだと解っていても、このように気分を良くしてもらえればますます頑張ろうという気が起きるものだ。

 しばらくの間、周囲をキョロキョロ見たかと思うと、アリサは俺に抱き着いてきた。


「どうしたんだ?」


「うん、せっかくだから、ミナトを補充しておこうかなと思って」


 嬉しそうに俺に抱き着いてくるアリサ。相変わらず天然で俺のツボを刺激してくる。


「あまりくっつかれると、その……困るというか……」


 アリサの身体の感触がしてしまい、気持ちよいのだが落ち着かない。


「ば……馬鹿。そう言うのは、夜までお預けなんだからね?」


「お、おう……」


 夜になれば手を出しても良いという了承をもらい、ますますそっちの方面を期待してしまう。

 これまで数週間、サリナに生殺しにされ、さりとてアリサと行為に及ぶこともできなかったので、我慢の限界がきていた。


 どうにか、旅館に着くまで、いや……海に着くまで我慢をしようと考えているのだが……。


「その……久しぶりだから……一杯……してね?」


 アリサが手を繋ぎ、可愛らしくおねだりをしてきたので……。


「すみません! 今すぐ馬車を降ります!」


 俺は彼女を御姫様抱っこすると、馬車を降り、街道沿いの宿場まで全力で走ることになった。

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