12日目「一人の時間、二人の夜(甘菜ルート後編)」

 優くんより一足先にお風呂で癒やされた私は、ドライヤーで髪を乾かしながら着替えを探していた。


「えっと……着替え着替え……」


 ……って、そうだよね。そもそもお風呂に入れてもらえる事になるだなんて思わなかったし、着替えなんて用意してなくて当然だよね。


「どうしよう……」


 バスタオル一枚で身体を覆っている状態で困っている私に扉越しから優くんのお母さんの声が聞こえた。


「甘菜ちゃん、ここに一応着替え置いておくからね。……とは言っても優里のものだから少し大きめだけど、そこは我慢してね」

「いえ! わざわざ用意してくださってありがとうございます!!」


 助かった。これで着替えを確保出来た。しかも優くんが普段着てるもの。これだけでドキドキが止まらないな……


「……えへへっ」


 思わずにやけてしまう。仕方ないはず、人生初の彼シャツなのだから。優くんがどんな反応をするかとても楽しみで仕方が無い。


「一体どんな感じのやつかな〜♪」


 髪を乾かし終え、扉を開けてすぐ下にお母さんが用意してくれた着替えが綺麗に畳まれた状態で置いてあった。それを手に取った時だった。


「えっ…………!!??」


 私は思わず声を上げて驚いた。何故なら置いてあったのは今この両手にあるTシャツのみなのだ。下が無いのだ。だからなのか、シャツ自体がかなり大きい。


「と、とりあえず着てみようかな……」


 扉を閉め、バスタオルを外してすぐにシャツを着る。


「やっぱり大きいな……」


 お尻がしっかり隠れる程まで丈が長く、そしてブカブカだ。でも着替えが無いよりはまだ良い。


「まぁいっか……」


 今は少し疲れた。勝手だけど優くんの部屋のベッドを借りて休もう。


 





「あぅ……」


 しまった。つい寝すぎてしまった。もう優くん帰ってきてるよね……?


「あっ……」


 よく見るとソファーの上に雑に置かれた制服がある。ということは優くんは今帰ってきたばかりなのだろうか。


「ふぅ……」


 バスルームから優くんが出てきた。まさか私がベッドにいるだなんて思っても無いんだろうな……なんか悪い事してるみたい。


 その時、二人の目があった。あまりに予想外な出来事だったのか、優くんは目を丸くして口をポカンと開けていた。


「あ、お風呂入ってたんだ。気持ちよかった?」

「は……? な、何で……」

「そんなの決まってるじゃん! 明日は休みだし、優くんと一緒に寝たいの!」

「い、いや……何で僕の部屋に……」


 まぁ、そうだよね。いきなり私がベッドにTシャツ一枚で入ってたら驚くのも無理ないよね。でも、お母さんから許可を貰ったしいいよね。

 でも寂しいと素直に言うのもあれなので、私はたまたまポケットの中にあった合鍵を優くんに見せつけた。


「小さい頃にね、よくここに遊びに来てたからお母さんから貰っちゃったんだ〜♪」

「嘘だろ……」

「という事で〜、一緒に寝よ〜?」

「や、やめろ……」

「ダメだよ逃げちゃ〜♪ 絶対逃さないからね〜!」

 

 ……あれ、私もしかしてのぼせちゃったのかな。でも本心を言っているから違うのかな。いや、それにしても私……積極的すぎない!?


 頭では微かに思っているものの身体は正直だった。赤面しながら必死に両足を踏ん張ってとどまる優くんを見て、理性より本能の方がより勝ってしまう。


「ねぇ、何で入らないの?」

「……それは1人用だ。2人で入るにはその、狭すぎるから僕はソファーで……」


 あぁ、可愛い。必死に言い訳考えてる。本当は嬉しいくせにあえてそれを隠している優くんが本当に可愛い。


「別に狭くてもくっつけばあったかいし狭くならないよ?」

「そういう事じゃなくて……」

「あと、ソファーで寝ると身体痛めちゃうよ! 優くんにそんな思いさせたくないし、今日は優くんと一緒に寝るために来てるんだから、ほら……おいで?」


 これが母性本能というものなのかな。今本当に優くんが可愛くてでたい。

 もう耳まで真っ赤にしちゃって。隠してるつもりなんだろうけど、照れてるのバレバレだよ。

『絶対零度』って呼ばれてる優くんにも、ちゃんと可愛い一面がある。でも、それを見れるのは私だけ。何だか特別な気分に浸れてしまる。


「ほら〜っ、照れてないでこっちおいでよ〜♪ さぁさぁ〜」

「……」


 きっと優くんは今、本能と戦ってる。この誘惑に理性が勝ろうとしている。でも、私としては負けてほしいな。


 ……なんて、勝たせるつもりも無いけどね〜!


「っ――!?」

「えへへっ、つ〜かま〜えた♡」


 隙をついて優くんのシャツを引っ張り、右腕をがっしり掴む。これでもう逃げられまい。


「そろそろ観念して、私と寝ようよ〜♪」

「や……め…………ろ……!」

「口ではそう言ってても、満更でもない顔しちゃって〜♪ 優くんはツンデレで可愛いなっ♡」


 本能のままに、私は優くんの腕を引っ張ってベッドに引きずり込んだ。


「やっと来てくれた〜」

「何で……こんな目に…………」


 突然の事で優くんはわけも分からない表情を浮かべた。その顔が面白くてつい口元が緩んでしまう。


 ……じゃあ、そろそろ始めようかな。強引なるイチャイチャの時間を――

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