11日目「一人の時間、二人の夜(甘菜ルート前編)」
泣き疲れた。もうしばらく涙が出ないと思う。それくらい泣いた。
優くんの服、私の涙で濡れちゃったな……風邪引かなきゃいいけど。
「――って、それは
はは……と苦笑いをしながら立ち上がり、歩き始めた。一人寂しく家に帰った。
「ただいま〜……」
言ってすぐに反応が無い事から気づく。今日は家族全員がいないのだ。何の用事かは聞かされていないがそれだけは伝えられている。
「はぁ、寂しいな……」
会いたい。優くんに会いたい。今会いに行ってもいいかな……でも、ご両親に迷惑かけちゃったらどうしよう……
「でも、昔から私のこと知ってるしいいよね……」
前には何度かお泊りしたことだってあるのだ。それもあってか私は優くんのご両親とも仲がいい。それを利用して今日は泊めてもらえないだろうか……
「うん、そうしよう」
このまま寂しいまま眠るなんて出来ない。
「はぁ、はぁ……」
昔から通ってた道なのに何故か今日という日に限って遠く感じる。永遠に進まないような気がしてきた。このまま雨に濡れて、優くんの家に着かないまま道端で倒れちゃうのかもしれない。
寒い。身体が震えてきた。優くんの家に着いてご両親に許可を得たらまずお風呂借りないといけなくなったな……でも、優くん家のお風呂に入れるんだ。だったら頑張って走らないと。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
走り始めてから約10分後、優くんの家に着いた。
「あ、甘菜ちゃん! 久しぶり〜! こんな時間にどうしたの?」
「あ、こんな時間にすみません……その、今日私のご両親がいなくて、その……」
どうしよう。なんて理由をつけて入れてもらおうか。いや、今はそんな事考えてる暇はない。
「その、家の鍵を置き忘れてしまって……家に入れなくなったんです! お願いです、今日だけでいいので泊めてもらえませんか!」
インターホン越しだけど、私は頭を下げた。その姿を見たであろう優くんのお母さんは笑いながら許可してくれた。
「そんな、頭を下げなくてもいいわよ。昔からの仲だし、それくらいは全然してもいいわよ。うちの優里も、きっと貴方がいなくて寂しくしてるだろうしね」
「あ、ありがとうございます!」
「今開けといたから入ってもいいわよ」
「はい! お、おじゃまします……」
すぐに私は優くんの家に入り、玄関で靴を脱ぐ。それと同時にお母さんが私にバスタオルを渡してくれた。
「この雨の中走って来たんでしょ? 今お湯を沸かしてるから先にお風呂入っといで」
「ありがとうございます! とても助かります!!」
「その濡れた服も洗濯かごの中に入れていいからね〜」
心優しいお母さんに頭を下げ、私はすぐに風呂場へと向かった。雨で濡れた制服を脱いでは扉を開け、温かいシャワーを全身で浴びた。
今までの疲労や寂しさが全部シャワーのお湯と共に流れ落ちていく。雨で濡れた髪も上書きされる。とても温かい。癒やされる。
……優くん、こんなシャワーを毎日浴びれて羨ましいな。私のと変わらないけど、それでも羨ましいんだ。これが今の優くんの唯一の癒やしなのかもしれないから。
「はぁ〜……」
思わず声が漏れてしまう。でも、今この時間帯はまだ優くんは帰ってきてないと思う。お母さん曰く、放課後にいつも読んでる漫画の新刊を買いに行くと言っていたらしい。
……私、悪い子だな。だってこれから優くんもこのお風呂に入るんだし、先に私が入ったって言ったら意識して入りづらくなるかもしれないし。
「……ふふっ」
そんな優くんを想像しては笑いながら、私は湯船で全身を癒やし尽くした。
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