7日目「楽しみの先にある地獄」

 4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り、生徒達が一斉にそれぞれ定位置に集まっては昼食をとる。

 視線が外れる隙を狙って僕は弁当を持って教室から出る。そして静かで人に見られないような場所を探し彷徨さまよう。これが僕のルーティンになっていた。


「……今日はどこもやけに人気ひとけが多いな」


 いつもの定位置である多目的室は何故か多くの人で賑わっていた。その正体は白馬の王子に等しい男子生徒目当てに『一緒に昼食を食べる権』を女子達がキャーキャー言いながら命を賭けて取り合っているのだ。


 ――はぁ、下らない。何が白馬の王子だ。結局僕達と同じ人間ではないか。たかが一人の人間を取り合う事に貴重な昼休みを無駄にするなど馬鹿の極みだ。当然逆もしかり。


「……3階に降りるか」


 女子生徒達の集団から離れ、すぐさま3階に降りた。


 ――しかし、そんな僕に悲劇が訪れた。


「あ、優く〜ん!」


 白馬の王子を心の中で侮辱した天罰なのだろうか。最悪なタイミングで今一番厄介な人……甘菜と遭遇した。すぐに僕は自慢の駆け足で素早く逃げる。


「あ、ちょっと逃げないでよ〜!」


 追いかけてくる。それもそうか。一緒に食べたいんだろうから逃げられたら困るよね。

 でも、この昼休みは唯一僕が一人でいられら貴重な時間なのだ。どれほど甘菜が僕と食べたいと言っても、これだけは譲れない。


 バテる覚悟で僕は1階まで降りることを心に誓い、階段を駆け抜けていく。



「はぁ……はぁ……」


 体力なんてろくにない僕が3階から1階まで走ることになるとは……でも、その割にはもうすぐにでも走れそうだ。過去に運動してたっけか……


 そう思いながら水筒を手に取りゴクゴクと飲む。ぷはぁっと息を吐き、深呼吸をする。


「流石にここまでは追ってこないはず……」


 僕がここまで走って逃げるだなんて甘菜も思っていないだろう。今頃諦めて友達と食べてるってところだろうか。


 一先ひとまず、僕は一人という貴重な時間を奪われずに済んだ。今はじっくりその時間を楽しもう。


「やっと……食べられる」


 今日は僕の好きな唐揚げが入っている。記憶障害を持っているとはいえ、好きな食べ物くらい覚えている。


 それを箸で掴み、口に入れようとしたその時だった。


「ねぇ優く〜ん! 一緒にお昼食べようよ〜!」

「――!!」


 そんな馬鹿な……何で甘菜がここに……!

 流石にこれは予想外だった。まさかここまで追いかけてくるとは。というか、そこまでして僕と食べたい理由は何なんだろうか。


「……嫌なの?」

「……何で僕と?」

「そんなの優くんと食べたいからに決まってるじゃん! ほら、行くよ!!」

「え、あ、ちょっ……」


 僕の言葉なんて聞く耳も持たず、甘菜は強引に僕の手を引っ張ってまた3階へ上っていく。


 しかし、本当の地獄はここからだった――


「優く〜ん、ほら、あ〜ん――」

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