6日目「新しい一日(甘菜ルート)」

 これからが始まる。昔からの友達と、新しく仲間になるクラスメイトと、そして私の昔から恋心を抱く……今はもう氷のように冷たくなっちゃったあの人と共に。


 ――でも、もう私は決めた。この想いを常日頃からあの人……遠野優里とおのゆうり君にぶつけるって。どんなに拒否されようとも、優くんに拒否権なんて与えてあげないんだから。


「行ってきま〜す!」

「お姉ちゃんいってらっしゃーい」


 そして今日も私――飯島甘菜いいじまあまなは元気に学校へ登校する。これから始まる日々に勢いよくスタートダッシュをしたのだ。




 学校の門を潜り、上靴に履き替えては階段を上り、一年の教室のある4階へと向かった。廊下を歩いていると、中に一人本を読んでいる男の姿が見受けられた。間違いない、優くんだ。


 ――ふふっ……そんな油断しちゃっていいのかな〜♪

 今日から私、とことん君にとびっきりの好きを見せつけるんだから。


「優くんを私でメロメロにしてあげるんだからっ♪」


 にししと悪戯っぽい笑みを浮かべながら、私は教室へと入っていった。

 偶然なのか、はたまた運命なのか。私の席の隣は優くんなのだ。だから積極的に話しかけやすい。


「おはよ、優くんっ」

「……うん」


 しかし、返ってくるのは素っ気ない返事。きっと照れ隠しのつもりで言っている。そうやって私の辛い気持ちを押し殺していた。


「もぅ、相変わらず冷たいんだから……ねぇ、今日の授業何か分かる?」

「……時間割配られたでしょ」


 正論を突かれて思わずドキッとする。というか、そんな素っ気なく言わなくたっていいじゃん。普通に『これから数学だよ〜』とかって言えばいいのに。


 でも……これでも優くんは昔私をいじめから助けてくれた優しい人である事には変わりない。たとえこれから『絶対零度』だなんていう二つ名をつけられることになろうとも――


「よし、皆来たな。それじゃあ授業始めるから教科書とノート用意してね!」


 1時間目は国語だった。咄嗟とっさにリュックの中から国語の教科書とノートを取り出そうとした時だった。


「あれ……?」


 無い。教科書が無い。ノートはルーズリーフなので何とかなるが、教科書はどうしようもない。


 ――隣の心やさしい優くんに見せてもらうしかない。


「ごめ〜ん! 国語の教科書忘れちゃった〜! 優くんお願い! 見せて!!」


 明るく、だけど本気で謝りながら優くんに話しかける。でも大丈夫かな……余計に嫌われないかな……

 

 でも、私の事を好きになってもらうリスクとして嫌われる覚悟で明るく振る舞ってるんだ。この際嫌われても何も言えない。


 しかし、優くんの口から意外な言葉が返ってきた。


「……今日だけ」


 そう言いながら先生に指定された教科書のページを開き、机をくっつけては間に教科書を置いて見せてくれた。優くんは少しため息をついていたが、私は嬉しくてたまらなかった。


「……!! ありがとう優くん!」

「……次は気をつけて」


 えへへ、やっぱり優くんは優しいままじゃん。口では素っ気ないこと言ってるけど、何やかんや私に優しいじゃん。何それ、可愛いんだけど。


 ――優くん、もしかしてツンデレなのかな?


「……えへへ」

「……何笑ってるの?」

「優くんには内緒♪」


 この時間、ずっと続くといいな――

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