3日目「自分勝手」
入学式を終え、新しい日々が始まる。
ガラガラと教室の扉が開く音がした。甘菜が入ってくる。しかも席は僕の隣だ。とても気まずそうに席に座る。でも僕はそんな事を覚えていない。
「…………」
互いの目すら見れない。僕は見ようともしてないけど。でも、甘菜は朝だというのに今も泣きそうな顔をしているように見えた。
――それもそうだ。僕なんかといても楽しいはずがない。早く離れたいに違いない。
せめてもの気遣いのつもりで僕はその場から離れようとした、その時だった。
「……いて」
「……?」
突然甘菜が僕の腕をギュッと掴んできた。振りほどこうと後ろに身体を捻った途端、互いの目が合った。
「このままで……いて……!」
「……」
――どういう風の吹き回しだろうか。さっきまで気まずそうな……嫌そうな顔をしていたではないか。なのにこのままいてだなんて……自分勝手な人だな、本当に。
「……離れて」
「私、君に言いたいことが」
「ごちゃごちゃうるさいな……早く離れろよ」
無理矢理手を解き、僕は教室を出た。きっとまたあの人は泣き崩れるのだろう。
「……少し言い過ぎたかな」
でも結局1時間もすれば忘れる。そうすればこれからも平気で冷たいこと言うんだろうな。あの人に。
でもそれでいいんだ。あの人は……とてもいい人だから。僕なんかが関わって良いものではない。僕以外にもっと良い人と楽しく過ごしてほしい。だから冷たい態度をとる。これも全てあの人の幸せのためだ。
――僕なんかじゃ……いじめから助けた程度の僕なんかじゃ、あの人を……甘菜を幸せになんて出来ない。
「……ごめん」
この時初めて謝罪の言葉を口にした。もちろん誰もいない。僕一人で誰もいない空間に謝る。そう思うと少し恥ずかしくなる。
「うぅ……ぐすっ」
あぁ……やっぱり泣いてる。でもごめん……これは君のためにしてるんだ。君が本当の幸せを掴むための試練なんだ。
だから覚えてほしい。君の運命は僕じゃないって。
「……甘菜」
泣いている甘菜を見て胸を締め付けられる。でも慰めなんてしない。
――こんな僕も自分勝手だ。だから僕は僕自身が嫌いだ。
だから、
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