1日目「亀裂と決意」
放課後を告げるチャイムが鳴る。全員がそれぞれ席を立っては教室から去っていく。中には端で友達と話している人達もいる。
そんな中、僕はただ荷物を鞄に入れて人混みに紛れて帰宅する。そしていつの間にか一人で歩いて……それが高校での日常だ。いつもと変わらない。
でも、少しだけ変わったところがある。いつも一人で歩いている道でお互い手を繋いでいる男女の姿を見かける。
「ねぇ、甘いもの飲みた〜い♡ あ、いちごミルク飲みたいかも!」
「いいよ、じゃあ今から行くか」
「うん! ありがと〜大好き♡」
……吐き気がする。ましてや普段一人だけの道だからこそあれが嫌になる。急いで通り抜けよう。
――と、走ろうとした時だった。
「お〜い、優く〜ん!」
後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。とっさに振り向くと、大きく手を振りながら同じ制服の女子がこちらに向かってくる。
「はぁ、はぁ……もう、置いてかないでよ〜っ!」
黒っぽい茶髪に同じ色の瞳。底抜けに明るいのが取り柄のこの人は
「……何の事?」
「さっき言ったじゃん……今日は一緒に帰ろうって!」
「……」
そんな事……言われたっけ。忘れた。覚えていても僕に何かあるわけじゃない。
「でも早く気付けて良かった〜! こっからじゃまだ家まで遠いから一緒に帰れるね♪」
「……楽しそうだね」
「じゃあ優くんは楽しくないの?」
「……ただ二人で帰るだけでしょ」
「それが楽しいんでしょ! 寄り道したり色んな話をして笑い合ったりしてさ! 私はそういうの優くんと一緒にしたいな♪」
……あぁ、この人とは合わないな。自分のありったけの幸せを不幸に見える僕に分け与えているだけなんだ。この行為も結局慈悲でしか無いんだ。そんな事、ほんとはこれっぽっちも思ってないんだ。
「……そういうの、いいよ」
「優くん……?」
「そういう心にも思ってない事言わなくていいから。僕なんかといても楽しくないくせによく平気でそんな事言えるよね」
「――!」
……そんな。私は本心なのに。昔から優くんと過ごしてきて楽しいのに。優くんは昔から私といても楽しく無かったってことなの……!?
「ほんとは君も辛いでしょ……僕なんかといて。騒がしい仲間達ともっと一緒にいたいでしょ。そういう楽しみは僕じゃなくて友達とやりなよ」
「そんな……私は昔から優くんの事――」
「そういうのいいって言ったよね」
「……」
「もう僕に構わないで。馴れ馴れしくするのももうやめて」
……何で。どうしちゃったの優くん。昔はこんなんじゃ無かったのに。あの時の優しい優くんはどこに行ったの?
優くんが遠くなっていく。視界が
「うっ……優ぐぅん……っ!!」
その場で泣き崩れた。次第に雨が降ってきて溢れ出る涙が雨と同化して泣いてるのかどうかも分からなくなる。
「やだよぉ……! もう優くんと話せないのやだよぉっ……!!」
昔みたいに優しくしてよ。あの時いじめられてた私に手を差し伸べた時みたいに……その温かい手で私の手を握ってよ。
お願い、戻ってきて。このままじゃ私、風邪ひいちゃうよ……!
――なら早く家に帰りなよ。僕なんかのために泣いてる暇があるなら早く帰りなよ。
――昔から鬱陶しいんだよ、君は。こうなるくらいなら助けない方が良かったよ。だからもう僕に近づかないで。
そんな幻聴が鮮明に聞こえてくる。それを聞く度涙が止まらなくなる。
「私……嫌われちゃった……大好きな人に嫌われちゃったよぉ……っ!!」
もうこの通り道に優くんはいない。ただ横殴りの雨が私の涙を乱暴に拭うだけ。今日はもうこのまま帰ろう。そして、明日優くんに謝ろう。
あと、優くんにもう一度分からせるんだ。私がどれほど優くんの事が好きなのか。
――この愛は、嘘偽りじゃないって信じてもらうんだ。
そう心に決めつけ、私はさっき優くんが通った道を歩いていった。傘が無いからか、それとも優くんに嫌われたからか、今日の雨はとても冷たくて、痛かった。
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