第52話 拗らせたお姫様は考えを改めて今やるべき事に取り組もうとする話

 エルシファーはどうしているんだろう? 私は……そんなことを考えながら……二人の優秀な先輩の後ろについて歩いている自分がどこか、自分ではないような気がしていた。


「さん? ミカエリスさん」

「は、はい!」


 しまった。アレクシア風紀委員長の声を聞き流してしまっていた。私たちは勇者パーティーの剣士がポータルにて転送された場所に向かっている。このメンバーのリーダーである。

 コロナ・ウィザード先輩。彼女のことは知っている。私の国の聖騎士団団長の一人娘。


「姫はねぼすけか? もし何か躊躇があるなら外れてくれて構わない」

「いえ、大丈夫です。すみません」


 恥ずかしい……そうだ。シノノメ会長とエルシファーが一番厄介な勇者の足止めをしてくれているんだ……私は私で今するべきことをしなきゃ。


「アレクシア先輩、コロナ先輩。剣士と会合した瞬間、お二人に戦乙女の加護をかけます。最速で仕留めましょう」


 ブーン、ブーンと先ほどからコロナ先輩が腕力、筋力の強化を何重にもかけているのは私もアレクシア先輩も気付いている。元々、実戦経験なんてない学生である私たちが突然現れた侵略者と戦わなければならない。これには時間も経験も足りなさすぎる。

 コロナ先輩は後輩である私の戦意喪失させない為に気丈に振る舞ってくれているんだろう。


「姫、頼むよ。アレクシア。牽制の一撃期待している」

「はい! 任せてください」


 私たちは警戒しながら剣士の位置を確認。短いスカートに手足のガード。薄い緑の髪を靡かせた綺麗な人。あれが敵剣士。


「姫、補助魔法!」

「はい! 戦乙女の加護よ! かのものに神力の口づけを! バルキリ・ディバイン!」


 私はアレクシア先輩とコロナ先輩の背中に触れるとありったけの強化魔法をかけた。それにコロナ先輩とアレクシア先輩は遠く離れた剣士に向かって突進をかける。速い。アレクシア先輩は風の精霊シルフィードの加護をかけ、そしてコロナ先輩を引っ張るような形で先制攻撃を完璧なタイミング。完璧な角度で……決まった!


「やった」


 私がそう呟いた時、それは速度が遅くなるスローの魔法で見ているようだった。コロナ先輩が腰の剣を抜いた瞬間、吹っ飛び、そしてアレクシア先輩の身体の至るところから流血。


「な、何が?」

「ごきげん麗しゅう。魔王軍の可愛い少女達」


 いつの間に? 私の横にいるのは緑の髪の敵剣士。腰に彼女が差している剣は見たこともない握り。そしてカトラスよりも細い。


「……どうやって先輩達を?」

「先輩? あぁ、あの二人の事です? 簡単です。ゆっくり迫ってきたので、ゆっくりと某の刀を抜いて切り捨てて候?」


 あの最速の二人が遅いですって? これが勇者パーティー、二人の先輩が倒れた今。もうここには私しかいない。


「光の精霊よ。その強き、尊き力を集め、闇を撃て! ランサー・ノヴァ!」


 光の上級魔法。これでも剣士にダメージを与える事はできないと思うけど、まずは距離を取らないと……


「魔法、いつ見ても不思議です」


 ?????

 嘘でしょ? 無数の光の矢を前に回避することもなく、私との距離を保っている。


「私を殺すのは簡単、という事?」

「さぁて、お互い自己紹介もしていないじゃないです? それではいさようならで斬り捨てるのは風流じゃないです。申し遅れたのです。勇者サマのパーティーで剣士という役職を頂いている。ムラサメ・エヴァです。お嬢さん」


 作法は違えど、どこか品を感じさせる物腰とポーズでそう言う剣士。これが戦場でなければ少しばかりお茶の時間でもとってお話でもできたかもしれないけど、このムラサメ・エヴァは危険すぎる。私の大槍でどこまでついていけるか……


「ミカエリス。ミカエリス・ヴァルキュリア。第三皇女」

「へぇ、お姫様なんです? どうりで可愛いわけです」

「近寄らないで!」


 私は家宝の槍を構え、ムラサメの攻撃に備えていると、ムラサメは剣を鞘に戻した。


「いい槍です。でも貴女には槍よりももっと他の物の方がお似合いです」


 そう言ってムラサメは剣を抜かずに私に向かってくる。私のこれまで血の滲むような努力をしてきた槍術を……素手で……流石にこれは頭にきた。

 私の事を舐めるのも大概にしてもらうわ。私は、こんなところで止まれないの……目標にしている人が近いのに、ずっと遠いところにいる。


「本当なら、私がエルと並んで勇者と戦いたかったのに……」

「ほぅ、まだ上があると?」


 その上を使っても勝つ自信満々なのでしょうね……いいわ。とっておきよ! これがダメなら潔く……


「ファンタジア・ヴァルキューレ!」


 この状態になると、私は魔法が大幅に広がる。元々得意だった光属性と氷属性の魔法以外に、神性系の魔法も解除される事。シノノメ会長やエルといつか並べるように……ずっと研鑽してきたその魔法をとくと受けなさい!

 私の突き、からそれを振り薙ぎ払う。槍と剣であれば距離を取れる私の槍の方が優位。


「いい力と速さだ……が、足りない。ミカエリス姫は足りない」


 足りない? 私に何が足りないと言うのかしら!


「私に足りない物なんて……ないっ!」


 手が届く範囲で、エルをまだ見ていたいの!

 戦乙女化した私の魔法力と、身体能力は通常の私の数倍。そしてその力でムラサメ・エヴァの胴を打てば、あばらの二、三本は持っていける。


「そう、それが甘いのです。今の不意の一撃で私を殺して見せれば、勝てたのに、殺せない。それがお姫様に足りないものですよ。あの二人と同じ場所に送って差し上げます」


 そう言うと共にエヴァは私に細く斬ることに特化した剣で私を……

 これは……助からない。確かに私はこの剣士、エヴァと戦うつもりではあったけど、殺す覚悟はなかった。ごめんなさいエル、私は先輩達と一緒に……

 私に最期の時はやってこなかった。

 何故なら、エヴァの剣をコロナ先輩の宝剣がとめて、そしてそのコロナ先輩に最上級補助魔法をかけているのはアレクシア先輩。


「先輩達、生きていたのですね!」

「すまなかったなミカエリス姫。我々の中でこの剣士をしばらく引きつけておけるのは姫しかいないと賭けさせてもらった。申し訳ない。本来守るべき貴女を危険に晒した事。後でいかような罰でも受けよう。が、今はこの剣士討伐に全力を尽くす所存」


 コロナ先輩はあの最初の戦闘で、ムラサメには勝ち目がないとふみ、やられた後に延々と魔法補助をかけ続けいていた。コロナ先輩はこの一瞬に全てをかけて勝負を決めるつもりなのだろう。凄い先輩達だった。ここから勇者パーティーの剣士へのリベンジタイムということかしら?


「ミカエリスさん、本当に助かりました。あとは休んでいてください! 私とコロナさんで剣士を倒します」


 アレクシア先輩も本当に凄い。学園対抗戦の時のアレクシア先輩は本気じゃなかったんだ。学園内では使えない魔法。そんなものをアレクシア先輩は今使うのだ。


「第三階層級強化魔法。バーサーカースタイル!」


 私のワルキューレ化にそっくりな魔法。身体能力、いえ身体強化そのものだけなら私のそれよりも強力かもしれない先輩。


「コロナさん……イキマスヨ?」

「あぁ、ミカエリス姫、離れていなさい。あまり姫には見せたくないものです」


 二人は私にできなかった相手を殺す覚悟を決めたという事なんでしょう。そんな中、私は黙って?


「有り得ません……ちょうど準備運動が終わったところです。必ず剣士を生捕にしますよ! 先輩達!」

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