第51話 ついに始まった勇者パーティーによる学園襲撃、いや……この字面おかしくない? と誰も突っ込まない話。

「俺たちを分断したのか? 魔王」


 勇者、知らぬ見た目、知らぬ声で余を魔王と呼ぶその雰囲気は紛れもない此奴であった。なんとも言えない気持ちになる。余はもしかすると喜んでおるのかもしれない。


「勇者……お前をここで止める」

「そういうことです! ちなみに、魔王と言うと私も魔王なので、ちゃんとエルシファーさん、シノノメ会長と使い分けてください! そして貴方の名前は? 名乗る必要もない。とか寒い事言わないでくださいね?」


 シノノメ会長は今までにない態度で抗戦的にそう言ってのけた。それに黙っていたハズの勇者だったが……


「ルーク・カルバーン・イマギワ」


 そう言って勇者は何もない場所で手を掲げると……これは、まさか! 大精霊達が余を殺す為だけに鍛えた天上界最強の剣。

 アークエッジ・セルバリア。


「シノノメ会長、あれは危ない」

「みたいですね。あれはやばいです。六式展開。現在保有のスキルポイントを全て魔法防御に振り直します……持てる現在のスタイルで購入可能な魔法を選択……習得と同時に自動化を開始、自動化および発動後。スキルポイントの最振り直しを要求……六式による力場を再展開!」


 何を言っておるのか……そう、今思えばシノノメ会長の魔法に関してはわからないことが多すぎる。予測としてはシノノメ会長の魔法は何かの力を借りるタイプのようだが……詠唱方法がてんでわからん。

 そんな事を言っている間に勇者の奴は呼び出しよるの。あれに対抗するには余の最強武器を呼ぶしかあるまい。


「来よ! アークエッジ・セルバリア」


 きよった。究極魔法神剣。余の破滅の剣を滅ぼしたあれ……あの時は不可能であったが、今回はそう簡単にはやられんぞ!


「来て、破滅の剣レガリア!」


 勇者が星屑とともに全ての魔性を滅ぼす剣の一撃を余は破滅の剣にて受け止めた。


「……なぜ?」

「余は今、魔王であった頃の魔法力と魔法性質を持ちながら、この体は聖なる魔法の特権を持ってる。聖なる加護は余にもある」


 バチんと、余は勇者のその一撃を完全に弾いた。だが、勇者は怒りをその瞳に染めて叫んだ。


「ふざけるなぁああああ! お前が! そんな事をするなああああ! ブリゲートスラッシュうううう!」


 いかん、我が城。最後の門番竜王を屠った勇者の技だ。あんなのこの瞬間には受けきれん!


「六式! オートガード。エレメンタル・アイギス! 大丈夫ですかエルシファーさん」

「シノノメ会長。助かった」


 シノノメ会長は最初から勇者の攻撃を受けるつもりで魔法を練っていたのか……さすがだの。余は気が動転して反応できなかったというのに……


「エルシファーさん、次来ますよ? リセットしたポイントを再振り分け開始。六式展開。補助効果に全振り、同時に取得魔法一覧を自動化。最高ランクバフのみ選択しランダム取得。力場を展開するとともに取得とともに自動発動。スキルポイントのリセットを同時に予約。そして暗黒系の魔法の自動詠唱開始」


 シノノメ会長はおそらく戦闘補助と攻撃を同時に行うらしい。さすがだの。現在余よりも純粋な魔王と言って過言ではない。

 余も精霊魔法の詠唱を……


「魔王。お前がそんな魔法を使ってくれるな!」


 勇者……此奴、ガキの姿なのに速すぎる。余はレガリアをナイフの大きさにすると徒手にて勇者に迎え撃った。


「お前の拳はこんなものか?」


 マオとは比べ物にならん……かつては余が勇者にそう言って何発も痛いのをくれてやったが……いかん、腹に一発、防御した腕から一発。防ぎきれん。


「二人でイチャイチャしないでくださいよ! 古代の邪炎。ファイアー・バグ!」


 おぉ! でかしたシノノメ会長。その強烈な炎の魔法であれば……


「レリーズ(無効)!」


 余とシノノメ会長が固まった瞬間であった。倒せぬとは思っていたが……倒せないどころの話ではない。あの本気でシノノメ会長が使えば砦に直接ダメージでも与えかねない一撃を消して見せよった。

 余は一旦、勇者と距離をとって余も魔法を詠唱する。闇の炎がダメなら……


 “偉大なる地母神よ……まぁ、余が貴様にこれを願うのはどうかと思うが……まぁ力を貸せ、余と偉大なる地母神の力を持ちて、眼前の悪しき勇者を討たん……“


 もはや意味がわからんな。


「アークライト・ノヴァ」


 光の超上級魔法。こんな物で倒せれば楽なのだろうが……


「エルシファーさん、お手柄です。私も続きますよ!」


 はぁ……まぁ嬉しそうに、ご馳走でも前にした子供みたいにシノノメ会長は両手に別々の魔法を練り込んでは走り込んでくる。


「六式展開、第七階層級魔法グラヴィトル・ゼロ! 初級回復魔法・キュア!」


 は? 反発系の超級魔法に対して、擦り傷を癒すような簡単な回復魔法?

 シノノメ会長は、余が理論を提唱して、サニアが作り改良を繰り返した魔法道具。回復魔法に、超級魔法を増幅すると共に、回復魔法に反発作用を持たせる……要するに……

 余のはなった魔法で勇者が少しでもダメージを負えば……


「魔王……こんな光の魔法など使って……貴様、誇りすらもあの時に失ったか?」

「違う」


 まぁ、違わなくもないかもの、わざと負けたし……しかしシノノメ会長もえげつない事をする。シノノメ会長の魔法をシノノメ会長を見ることもなく受け止めた勇者だが……


「……なんだこれは……?」


 勇者の身体、全身に歪みが走る。シノノメ会長は回復の反転、超級強化された壊死の魔法を勇者に叩き込んだ。


「どうです? 一応、回避不可能なレベルの死だと思いますが?」


 確かに、余ですらこの魔法を受けた場合、全力で解除に数日の時間はかかるであろう。勇者はとにかく出鱈目な力は持っていたが、魔法理論に関してはズブの素人……詰みかもしれんな。


「案外あっけなかった」

「さぁ、これで勝てるならいいんですけど、勇者さん。降参ですか?」


 勇者は余達を睨みつけて、そしてこう一言を呟いた。


「レリーズ(無効)」


 身体を壊死させる魔法を無効化させたはいいが、壊死した身体をどうするのか? 降参であればシノノメ会長も……って何をしておるのだこいつは。


「シノノメ会長、何してるの?」

「え? トドメ刺しますよ。当然、敵ですからね。無効化するには四肢をもぐくらいしないと止まらないでしょ? この人」


 今の勇者の身体であればどんな魔法でも確かに通るであろう。これもまた宿命というものか……


「シノノメ会長。余も手伝う」


“神を汚す息吹、邪神すら犯す暗澹、こぞりて沸け、沸き上がれ! その暗黒に名前を与える“


「「エンシェント・デス!」」


 これでさよならだな勇者よ。思えば貴様とは前の世界も今の世界もまともに話す事はなかったな。余は少し、貴様と友になれるのではないかと思っておった時期があったのだがな……


「いやぁ、エルシファーさん……これもダメみたいですね」


 マジか……うそだろ勇者。貴様、一体。人を辞め、転生し、何になってしまったのだ? のぉ? 勇者よ。


「リサイクル(超再生)」


 勇者は一言そう言うと魔法でもなんでもないなんらかの力を使って元に戻った。さて、ここから余とシノノメ会長は本来学業では絶対に見せられぬ魔法を使わねばならなくなったの。


「エルシファーさん、ニイタカヤマ・ノボレ」

「は?」


 何を言っておるのだシノノメ会長は……此奴の言動はいつもわからぬ。

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