第49話 情報を制する者が戦争を制する。戦いの根底を変えるのはいつも地上戦ではなく、情報戦であり、時代を底上げした話

 皆、それぞれの思いを胸に、いつの日かと恐れていたその日はゆっくりとやってくる。一番遠くに設置した魔法トラップの発動。そこからサニアが作った携帯通信宝玉へトラップ破壊の瞬間が映し出された。


「諸君、彼らが自称勇者パーティーだそうだ! そして私たち学園を狙う俗物達という事だ」


 サニアの開発した装置は恐るべきことにシノノメ会長の希望通り、学園の巨大な水晶へのアクセスを行いそこに映像を映し出す事ができるように改良していた。シノノメ会長が以前言った通りに五人がそこに映し出され……


「さて、私の魔力を込めた迎撃装置をサニアくん、起動したまえ!」


 腕を組んでシノノメ会長はそう言う。まぁこれも揉めた揉めた。わざわざシノノメ会長の手を煩わすなというクレア副会長に勇者に一撃で止められては困るという余達の話を全然聞いてくれず。結局シノノメ会長の鶴の一声というわけであった。

 主力の迎撃装置はシノノメ会長。そして補助迎撃装置は余とコロナという女。ミカエリスとパーティーを組んで対剣士を行う高等部の生徒らしいが、此奴は強い。サニアは準備を完了して言った。


「はい! 迎撃装置起動!」


 勇者パーティーは勇者に、マオ。そして大剣を背負った……もう話す必要もないくらい痛い女。眼帯に包帯までしておる。あれ絶対怪我して無かろう。そして、両腕に刺青のように魔法術式を刻み込んでおる魔法使いの男。最後は優しそうな女。おそらく僧侶か? 目を隠しておるのが腑に落ちんが……

 シノノメ会長の攻撃魔法を込めた迎撃装置に勇者が手を掲げる。


 当然防ぎよるか……が、この迎撃装置は貴様らを屠るものではない。余とシノノメ会長とコロナ、クレア、そしてリリスを勇者パーティーに見立てて何度も繰り返した。どうすれば、此奴らを分断できるか……

 それはミカエリスとサニア、ヒトミ、そして別の国の魔法を使えるイーファ達の考察で完成した。退避したところに強制的に転移するポータルを設置・勇者パーティーの分断。


 学園内に侵入されれば手がつけられなくなる。五角形の学園における五つの入り口にて転移された映像を見て、ここから専用のパーティーが撃破に向かう。お互いの戦況報告はサニアが作った小型の魔法通信宝玉カスタマイズ2にて逐一行う。そしてこの場でサニアは助っ人が必要な場所への指示と魔法道具等の補給補助を行う。


 これは魔法戦である以前に完全なる情報戦になるのだ。余は驚いた。こんな戦い方があるという事。実際に予測と結果を導き出す戦いは余が魔王であった頃も行われていたが、その報告が瞬時に行えるこの状況。これは能力差をひっくり返すジャイアントキリングができるの!

 そして余は口にしてしまった。


「すごい……感動だ」


 皆が余に注目する。そしてどっと笑いが巻き起こった。確かに皆すごい事は感じていたが、驚異が向かってきているのだ。不謹慎であったか?


「さすがはエルね。こんな時まで、魔法技術について考えてるなんて」

「でも、これはすごい。戦いなんてくだらない事に使うのが勿体ない」


 かつて……人間と魔物が恋仲に落ちた事があった。それは人間からも非難され、当然魔物側からも同様に……それでも二人は人間とガーゴイルという垣根を超えて生きる事ができると証明した。結局、人間は殺され、それに怒ったガーゴイルは人間を襲い、討伐された。そのガーゴイルは勇者に願ったそうだ。魔物と人間が仲良く暮らせる世界を作ってくれと……ガーゴイルは魔王である余にはそれを言えなんだ……余は破滅というアイデンティティの素に生まれた魔物故仕方がないと言えばそうだが……今回はしくじらん。


「エルちゃんの迎撃装置全弾起動。予想通りの位置にモンクファイター、魔法使い回避。ポータル発動します。マイン先輩、イーファさん、リリスさん。モンクファイター撃破に頭頂門方面へお願いします。またヒトミ書記、イグナシオ先輩、クレアさんは魔法使い撃破に左翼門方面へお願いします。到着しましたら携帯通信宝玉、インカメラで報告をお願いします」


 各チームのリーダーである三年生。ヒトミとマインは「了解」と中等部のサニアの指示に従いパーティーを連れて現地へと向かう。

 そして当然、残りの二組もポータルにハマった。


「僧侶、予定位置からわずかにズレた場所のポータル発動。クレア副会長、サザナミ先輩、プリシラ先輩。左翼下の門方面へお願いします。同時に剣士予定位置ポータルに到達。アレクシア風紀委員長。コロナ先輩、ミカエリス姫、右翼門方面へお願いします」

「サニアさん、姫は余計よ」

「すみません、以後気をつけます」


 こんな時まで貴様はそれを言うのか……だが、ミカエリスの顔はコロナとアレクシアに指示されいい顔をしておる。そしてシノノメ会長が言った。


「サニア君。全てのポータルの破棄。勇者がポータルを使う前に私とエルシファー君で迎えに行く」


 そう、この作戦の大きな問題は一つ。ポータルを勇者がわざと踏んで他メンバーと合流する事。


「了解、すでに全てのポータルの破棄は完了しています。勇者がいる場所へのワンウェイポータル(一方通行)開きます。シノノメ会長、そしてエルシファーさんは勇者迎撃準備をお願いします」


 サニアは最初あった時は根暗な感じがしたが、ハキハキと喋るし、ものすごいこいつ有能だな。


「了解サニア司令、じゃああとの戦術分析と各種、サポートをお願いね」

「了解しましたシノノメ会長。それにエルシファーさん。ご武運を」


 この戦、要するにいかに早く、他勇者パーティーを沈めて、余とシノノメ会長が勇者を無力化するかという作戦である。おそらくは現状の余よりも強いシノノメ会長の能力次第というところなのだが……


「いやぁ、ダメですねぇ……エルシファーさん、遠足は行く前が楽しみという事を知っていますか? おやつを買いにい行ったり、現地で何をしようかなんて想像するんです。でも実際は経験に勝る学びと喜びなしです。わたし、すこぶる気分がいいんですよ」


 だろうの……黒い魔力が滲み出ておるぞ……ひっこめろ! シノノメ会長はあれから何度か余と手合わせをしてお互いの持っている割と普通のやつには使えない魔法も使いあった。

 それでも余もシノノメ会長もお互いの切り札は見せてはおらん。シノノメ会長の強さは余の世界でも十分に通用する。

 だが、此奴死場所を求めておったのが腑におちん。


「シノノメ会長。死んじゃダメ」

「それはエルシファーさんですよ? 私は全ての生徒を守る生徒会長ですから、そこはなんとか頑張って見ます」

「ダメ、全ての生徒ならシノノメ会長も入っている。だから死んじゃダメ」


 本当に、人間という奴らはどうしてこう余を泣かせるような事を平気で言うのか……まぁ、それが余がなりたかった人間というものの本質なのかもな。


「ふむ、皆がエルシファーさんを好きになるのがようやくわかりました。善処しましょう。ではいきましょうか? エルシファーさん」

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