第47話 人から聞く過去の話に出てくる奴って、本当にそんな奴いたの? みたいなやばいやつがわんさかいる話

 それまだ続くの? という顔をしていた余にシノノメ会長は微笑んでみせた。


「まぁ、今の私はこんな感じに落ち着いたというお話です。次はエルシファーさんの話を聞かせてはくれませんか? 同じ魔王ならどんな感じなのか、また先輩魔王の事も知りたいですしね」

「……そんなに面白い話でもない」


 そう、余は生まれながらの魔王。故に、何も面白くはない。されど、シノノメ会長は話せオーラを出してくる。

 それも、高度な魔法を練り上げながら……この会話もまた修行的な意味があるのであれば……余とてやぶさかではない。


「じゃあ少しだけ」



 ……いつだったか?

 

「魔王様! 魔王さまぁ!」


 五月蝿い。此奴は、余の腹心にして余の教育係である。魔王軍最強にして我が幼馴染。そして現在、ミカエリスの姉、これはややこしそうなのでシノノメ会長には黙っておこう。


「ゼラヴァサゴ、何事だ? やかましぃ。お前の甲高い声を聞いておると、酒がまずくなる」


 そう言って余はたいして飲めもしないワインをゆらゆらと揺らす。

 そして、魔力の素が詰まった結晶を一粒口にする。魔王の嗜みである。


「あのイカれた人間の女が、南西の要塞にやってきて、聖なる魔法をぶっ放しては魔王を出せと暴れ叫んで……現在、魔物の増援を向かわせていますが、どの程度持つか」


 そう、余はこの時、対勇者の事ばかり考えてワクワクしていた反面、絶望的に最悪な敵とも会合していた。

 ファナリル聖教会。最高聖職者。聖女……アラモード。


「あやつ、また来よったか……この前、余の力を6割ほどまで高めて、叩き潰してやったハズなのだが……生きておったのか?」


 そう、余の記憶が正しければ……あれはかれこれ二週間程前、他の地域を侵攻する魔王アズリタンとどちらの腹心が優れているかを語り合っていた時だった。


「魔王様、御寛ぎのところ申し訳ございません。死の森が、広域の炎の魔法により焼き尽くされました」


 それを聞いた時、余は両手を上げてこう笑った。


「はっはっは! やってくれるわ勇者。ならば余が直々に!」

「勇者ではありません。ファナリル聖教会を名乗る、聖なる魔法で武装した組織です。徹底的なアンチマジックにより、我が軍に多大な損害を出しております」


 そう、勇者ではないという事で、余は適当にあしらっておけと言ったのだが…………事もあろうに聖女とやらは……


「魔王様、コカトリスが今、殺害されたようです」

「なぁあああにぃいいい!」


 コカトリスは、余がまだ幼き魔王であった頃に、親と逸れた雛を育て、いつしか大きく育ち。今や死の森のラストガーディアンであったのだが……それを殺害したと?

 許さん。


「アズリタン。すまぬが離席させてもらう」

「手伝うか?」

「いや、問題なし」


 余は余の偉大なるポータル魔法を使い。死の森へと向かった。そこで見た光景はまさに最悪な情景。

 余の軍に壊滅的被害。そして腕を組んだ短髪、赤髪の女を筆頭に、聖なる魔法で武装した連中。


「貴様が、聖女か?」

「いかにも! いかーにもぉ! 我が名は聖女アラモード。お前が魔王だな?」

「この世界に混沌と破滅をもたらす魔王だ」


 それを聞いた瞬間、このアラモード。すこぶる嬉しそうな顔を見せて、叫んだ。


「敵首魁出現、お前ら、命はれ! 全強化魔法をこの聖女に叩き込め! ぐちゃぐちゃにぶっつぶしてやるよ! 魔王ぉおお!」


 キルザ・魔王! キルザ・魔王! キルザ・魔王!


 アラモードのしもべ達がそう叫んで、聖女に力を送り込んでいく。


 うわっ! 悪の軍団みたいではないか! なんじゃ此奴ら!

 とはいえ、聖女はとんでもない巨大な魔法力を高めておる。しかし、全くそそらないの、この聖女。余と勇者の間柄には、世界を混沌に陥れようとする余、そしてそれを阻止する勇者という決定的な関係があり、日夜余と勇者は切磋琢磨、世界征服を、世界平和をベクトルの矛先は違えどたった一つの目的の為に進んでおる。


 が……この聖女は違う。


「オラオラ! 信者共ぉ! 魔法力足りてねーぞ? もっと死ぬ気で搾り取れ!」


 ありえん……この聖女は連れてきた僧侶どもを道具か何かとして思っておらん。余と戦う為の準備にバタバタと倒れていく仲間を見る事もなく。極限まで魔法力を吸い尽くし、そして目の色まで変えて余の前に対峙した。


「待たせたなぁ、魔王」

「貴様、本当に聖女か? この見るに堪えん状況どう説明する?」

「あ? あぁ? こいつら? この聖女を頼ってきた可愛い信徒達。よくもこの聖女の信徒達をこんな目に逢わせてくれたな? 魔王」


 は? 何こいつ、頭おかしいんじゃないか? 

 今し方この聖女が魔法力を吸い尽くしたからぶっ倒れておるのに、余は何も関係なし……


「聞こえる。仇を取ってくれってよぉ……いてぇ、苦しいぃってよぉ? 魔王。許すまじ、キルザ・魔王」


 いやいやいやいやいやいや!

 は? 本当にこいつなんなの?


「黙って聞いておれば、貴様、頭が腐っておるのではないか? ぶちのめしてやるからはようこい」


 聖女。恐らくは聖なる魔法による余の完全消滅を狙ってくるであろう。

 とりあえずそれに備え……


「死ねぇえええ!」


 聖女は余に向けて、聖なる力を溜め込んだ拳を叩き込んできた。

 ほんとになんなの? 聖女ってこんな感じなん?

 余は聖女に向けて暗黒魔法を放つ。


「失せよ! 滅びの雷!」

「うるせぇ! アンチマジック! 拳で語れやぁ!」


 余の至高の魔法を無効化し、そのまま殴りかかってきよった。が、余に肉弾戦を挑むなど、愚の骨頂。


「魔王流・ダークネースアーツ!」


 カウンターの右ストレート、そして少し脇をしめてから左横腹へのブロー。白目を剥く聖女に、トドメのアッパーカット!

 全てに余の強力な魔力を込めておる。もはや立ち上がれまい。


 が、余の考えを聖女は超えていた。外れた顎を無理やり戻してそして回復魔法。折れた脇腹にもトータルリザレクションをかけて、そしてぺっと折れた歯を吐き出した。


 こわっ!


「いいね。いい、魔王! 消滅させるに値する! いくぜ? 聖なる地母神よ、我にあたたかき守りと、悪しきものを滅ぼす微かな奇跡を! 悪を殺し尽くせぇ! グランドクロス・ノヴァ!」


 究極精霊魔法系の術を本来であれば聖女が拝みながら真摯な表情で放つそれをこの聖女アラモードは悪い顔で、不意打ちでもするように放ってくる。


「それは第三階級の嵐・プルトン・ダーク・ウィンド!」


 余の風による至高の魔法。それに聖女の大魔法が激突する。その間に聖女は自分にありったけの強化魔法をかけて余の前にたった。

 そしてゆっくりと……


 ガガガガガアガガガガ!


 拳を撃ち合う。聖女は、邪悪を殺す聖なる魔法をその手にかけて、ありったけの殺意を込めて……此奴のこのヤバさは魔王軍向きではあるのだが、魔王軍は規律がうるさいからこの空気を読めない聖女は入れぬな。

 確かに勇者級の強さを持ってはいるが……この程度は余の敵ではない。次は腹部にもっと重い一撃を!


「アトモス・スマッシャー!」


 もしかしたら死んだかもしれんな。数十メートル先まで聖女は吹き飛ばされた。死んだか? そう思ったら、聖女は立ち上がった。自分に回復をかけ……それが魔法力が足りない。

 連れてきた僧侶達は皆倒れ、余という魔法との格の違いを知ったであろう。


「魔王、続きだ! 続きをしよう!」


 バトルマニアか……付き合ってられんな。余は聖女の横を通り過ぎると言った。


「貴様は余の敵ではない。消えよ」


 とかいいつつ、関わり合いになりたくないから余がその場から離れていく。

 後ろから聖女の喚き声が聞こえた。


「待てよ! 魔王まて! まだだろ? 今からだろ? オィ! 魔ぉおお!」


 ほんと頭おかしい奴とはかかわりあいになりたくないの……

 

 「っていう感じ」


 余の話を聞いて、シノノメ会長が面白いくらい目を点にして余を見つめていた。


「エルシファー君、聖女ってそんな感じなのかい?」

「どうだろ? アレしか知らないから」


 そう言って、聖女に推薦できたリリスをシノノメ会長と見つめて、訓練中なのに、聖女がどんな人種が聞きたくなったの。

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