第46話【1万PV感謝特別編】まさかとは思ったけど、いやいやそんな事絶対ありえないよねとか思うと大体世の中悪い予感が当たる話

これは勇者達が攻めてくるというほんの少し前、余がまさかの前世の魔王時代の知り合いに出会う事になる話である。

 シノノメ会長に呼び出されたのだ。生徒会室に入るとヒトミ、そしてアレクシアが笑顔で出迎えてくれる反面、副会長のクレアにだけは恨めしそうな顔を向けられての。

 

「エルシファーくん、ダンジョンに行ってみないかい?」

「ダンジョン? いく」

 

 うぉおおお! レアな素材集め放題ではないか! しかしダンジョンって入るのに許可いるのではなかったか? 冒険者とかいう連中の狩場の為、一般人が入るのは容易ではなかったハズだが、

 

「でもどうして?」

「それはですね。一応、私の進路の一つとして魔法騎士団という道がありまして、そこの連中からダンジョン研修に来ないかとの事で、ぶっちゃけエルシファーくんが来ないならいくつもりもなかったんだけどね」

「ミカとリリスも一緒にいけるの?」

「そう言うと思っていたので、魔法騎士団の一人を私の方から指定させてもらっていますので、大丈夫ですよ」

「どういう事?」

 

 最初、意味が分からなかった。余達は遠足気分でシノノメ会長が作ったポータルを使って集合場所に到着した時、ミカエリスの顔が青くなる。

 

「ミカ、知り合い?」

「あ、あ……アザゼリスお姉様!」

 

 そこにはミカエリスとは雰囲気が違う、褐色で銀髪の凛とした女。話に聞くと、ミカエリスの姉らしい。しかし、こいつ……半端ではない魔法力を保有しておるぞ……

 

「ミカエリス、学業の方は疎かになってない?」

「はい、誠心誠意励んでいます」

「それでシノノメ会長に負けたんですか」

「……負けました」

「そうですか、次は勝ちなさい」

 

 怒られるのかと思ったが、ミカエリスの頭を撫でてミカエリスは少しだけ余達の前なので恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに「はい!」と元気よく返事をしておった。そんな様子を見ているとリリスが余の肩にちょんちょんと、

 

「ミカエリスさんのお姉様、第二王女様。凄い強そうじゃない?」

「うん。かなり凄い」

 

 シノノメ会長と他魔法騎士団三人と余達三人とミカエリスの姉ちゃんというバランス悪くないかの? と思える編成でダンジョン攻略が始まった。

 

 余達だけになるとミカエリスの姉ちゃんアザゼリスは話だす。

 

「二人とも、私はミカエリスの姉、ヴァルキュリア王国第二王女、アザゼリスです。妹と仲良くしてくれてありがとうございます」

「いえいえ、アザゼリス様、いつもミカエリスさ、姫にはよくしていただいてます」

「姫は結構って言ってるじゃないリリスさん」

 

 いやいや、学校ならまだしも流石に王族の姉ちゃんの前でいつものテンションで話せるわけなかろう。まぁ、ここは一つ余が、いつも通り。

 

 アザゼリスの前で片膝をついて余は手を前に出す。

 

「エルシファー・クロノス。アザゼリス姫、この度は迷惑をおかけすると思う。一日よろしくお願いします」

 

 どうだ? 余のこの、素晴らしいこの世界では聖王礼とかいうやつである! 驚き慄くが良い! 一村娘がこの礼をとな……

 

「エルシファーさん、膝をもう少し曲げて、腕の角度はあと5度、顎はもう少しひく、そして目線は私と合わせて、考え事をしない!」

「お、お姉様……」

 

 いや、いやいやいやいや……いやいやいやいやいや!

 

 こやつ……いや、ありえん。ありえんぞ。という事で余は頭を下げる。

 

「勉強になった」

 

 一瞬知り合いの顔がよぎったが、多分違うであろう。今回のダンジョンは魔石洞窟。様々な魔石が採取できる反面、その魔石を食べ、強力な魔物と化した者と現れるらしい。余は先ほどから少しずつ魔石を拾っては鞄に入れるフリをして無限とも呼べる余の破滅の剣に喰わせて保管して持って帰るつもりだ。

 

「皆さん、魔物ですよ!」

 

 リリスがダガーを構えてそう言うので、余とミカエリスが魔法を使おうとした時、アザゼリスが、

 

「ふん、雑魚が。ダークネス・ブレイズ・キャノン!」

 

 レミレラの用心棒であるリリムの最強魔法。その強化版を無詠唱で放って魔物の姿が見える前に消し去りよった。

 

「さすがはお姉様!」

「す、凄いです!」

 

 と二人は感心しているのだが、あれ……完全に暗黒系の魔法であるよな? そしてしばらく歩いているとミカエリスが思い出したように、

 

「アザゼリスお姉様は太古の記憶を持っているのよ! お姉様、二人にも話してあげてくださいませ」

「ミカエリスは仕方がない妹ですね。学校でもそうやってお二人に甘えているんじゃありませんか?」

 

 案外、姉妹で仲が良いのだなぁとか思っていたが、余は耳を疑った。

 

「そうですね。魔王様。ではなく魔王に魔法のレクチャーをしていた時の話をしましょうか、当時四つのアイテムがあり、超新星のダイヤ、異世界の魔物の抜け殻、神々の残した地図、亜空間の針、これを取りに行った時なんですが……」

 

 うわぁあああああ。

 余、知ってる。それ知ってる。もうこいつアレだ。余の教育係の……

 

「あの、アザゼリス姫。ちょっと」

「どうしましたか? エルシファーさん? お手洗いですか? ミカエリス、リリスさん。少しここで待っていてください、この子を連れて花を摘んできますので」

 

 余とアザゼリスと少し離れたところまでくると、余は、アザゼリスに……

 

「貴様、余の元腹心。ゼラヴァサゴではないか……いや、余の勘違いかもしれんが……」

 

 余の事をじーっと眺めるアザゼリス……これ勘違いだったら余、かなり無礼でだいぶ痛い奴になってしまうが、その方がいいのだがなぁ。

 睨みつけるように余を見る。勘違いだったと余が言おうとしたところ、アザゼリスの両目から滝のような涙。

 

「ま、魔王様であらせられますかぁああ? はい! 私ですゼラヴァサゴでございますぅ! あぁ、おいたわしや……このようなお姿になられ……はぁ、なんという事でしょう。毎日破壊の神に祈っていたかいがありましたぁ」

「いや、貴様もまさかこの世界に来ていたとは驚いた」

「魔王様! こんなどうでもいいダンジョンなどでて積もる話でも」

「そういうわけにもいくまい。貴様一応、この世界ではミカエリスの姉君で魔法騎士団とかいうのに所属しておるのだろう?」

 

 すっごい不満そうな顔をしているアザゼリス。余との再会した喜びと宴に全振りしたいのはわかるのだが……いや、当時からこの魔王軍のノリ、しんどかったのだの。

 

「余の事はエルシファー、貴様の事はアザゼリス姫と呼ぶ。まぁ、二人で話す機会はどこかで作れば良い、いいな?」

「……承知しましたぁ」

 

 出たよ出た出た。この不貞腐れた態度、余にはあれこれ言うのに余が物もうしたらこれだの。あぁ、なんか懐かしいのと合わせてムカついてきたの。

 

「みっなさーん。戻りましたよー」

 

 あからさまにアザゼリスの奴テンション爆上げしておるな。こやつ、クソ厳しい奴だったが、余の事超好きだったからの。

 

「あれ? なんかアザゼリス様。性格変わってない?」

「お姉様が……さてはエルと魔法理論のお話で盛り上がったのね! ずるい! 私も混ぜてください!」

 

 まぁ、違うのだがな。アザゼリスは鼻歌を歌いながら、いかに古来の魔王が凄かったか熱弁を始めた。いや、お前、今はその魔王討伐する側であろう。この世界の魔王は人畜無害なシノノメ会長ではあるのだがな。

 余達のダンジョン探索も最深部まで到着。それまでにテンションぶち上げのアザゼリスが色々珍しい魔法を教えてくれたのでミカエリスとリリスも勉強になった事だろう。

 

「皆さん、怪我はありませんか?」

 

 シノノメ会長班は先に到着していたようで、余達に食事を配ってくれる。そしてシノノメ会長とアザゼリス、最悪の仲であった。

 

「ふん、魔王を名乗る学生。本当の魔王を知ればその称号、土下座で捨てる事でしょう」

「戦乙女になれないお姫様でしたっけ? 悲しいものですね。才能がないというのは」

 

 キスするんじゃないかというくらい顔を近づけておるが、前々から何かしら因縁でもあるのかの。面倒臭いことになりそうなのできかんがな……余はもう採取した魔石で魔法研究をしに学園に戻りたいのだが、

 

「時に魔王さ……ではなくエルシファーさん。魔法騎士団に推薦します。それも私の部隊です。学園など退学してこちらにきてはいかがでしょうか?」

 

 アザゼリス、めちゃくちゃな事言いよるの。まぁ、絶対嫌だがの。それにミカエリスとリリスが前にでて、

 

「それはダメですよアザゼリス姫」

「アザゼリスお姉様、エルは私たちと一緒に卒業するのでそれは受けられません!」

 

 余の意見フル無視でそう言う二人、まぁ余も同意見ではあるのだがな。そういう時の為のシノノメ会長。

 

「いやぁ、アザゼリスパイセン。エルシファーくんも二人も私の可愛い学園の生徒ですから恥ずかしい真似はよしていただけますかぁ?」

「は? 黙って聞いていればシノノメ・ユニバース。舐めた口を聞くようになりましたね?」

 

 二人の暗黒魔法が漏れ出てくる。おそらく、学園時代は二人は唯一力をぶつけられる関係にあったのだろうの。が、大人気ない。

 余はリリスとミカエリスの肩をちょんちょんと触れると帰りのポータルを指差す。

 

「帰って研究する」

「そだね」

「そ……うしましょうか? アザゼリスお姉様、ごきげんよう」

 

 余達はポータルで学園に戻る。食堂でミカエリスが今日のアザゼリスはなんだか様子がおかしかったと話しておる。もっと冷静沈着でかっこいい姉だと、うん。そう魔王軍でもそうだったの。

 余の前以外ではな。まぁ、この世界風に言うとあやつは余推しのだいぶヤバい追っかけであったからな。

 

 まさかとは思ったが、翌々日、アザゼリスから余宛てに食べ物とか高級素材とかが学園に届いた。ミカエリス宛の間違いではないかと思われたが、ミカエリスとリリスの物も別で届いた。のはいいのだが、余の荷物だけ三倍くらいデカくて、学校の先生にアザゼリスとどういう関係なのかとしつこく聞かれてしまったわ。

 

 前世の部下とは言えないので、この前のダンジョン研修で仲良くなった事を話したのだが、アザゼリスはこの世界で誰の事も興味を持たない性格らしく……余の事しか興味ないからの。

 今後ミカエリスの家の者とは関わらないようにしようと心に決めた。

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