第42話 聞き上手は話上手、自分語りを始める奴は大概老害な話

 今日、生徒会室に集められたのは他でもない対、勇者パーティー迎撃用のメンツの顔合わせというわけだの。


「やぁ、みんなよく集まってくれたね。学園でも何度か手合わせをしたり顔なじみの人もいるんじゃないだろうか? 最も実践向きで我が校における最高のメンバーを招集させてもらったと思っている」

 

 余達、中等部3人を除くと、高等部の一年生が一人、二年生が三人、三年生も三人。計七人の選抜との初顔合わせだの。


 よく考えたら、生徒会も高等部。余達より年上だったの。


 ヒトミの話によると、ヴァンガードとサポーターとリアガードのスリーマンセルで各個撃破していくという事になるらしいの。対・勇者パーティー迎撃メンバーがシノノメ会長から発表があった。


「まず、勇者。あのとんでもないパラメーターのチートは生徒会長である私と、エルシファー君の二人であたる。正直、我が校に入ったばかりのエルシファー君が大役を任命されたことに思うところがある生徒もいるだろう。だが、生存する為だ。理解して欲しい。続いて......」


 余達はチームに分かれての模擬戦を繰り返す事になった。対剣士戦として、シノノメ会長が剣を用意すると、今回はミカエリス、当初モンクファイターを相手にするハズだったアレクシア。そして、学園の高等部三年生。


「コロナ・ウィザードだ。王国騎士団の家系でな。魔法より剣の方が得意だったりする。学園では魔法剣の研究をしている。剣にも精通されているというシノノメ会長と剣を合わせる事ができるなんて、この戦参加できる事に感謝する」


 ほう、赤い剣。それなりに名のある魔剣のようだの。

 アレクシアがリアガード、ミカエリスがサポーター、そしてこのコロナがヴァンガードという事なんだろう。


 シノノメ会長は武器屋で格安で売られている鉄の剣を片手で構えると三人を見据える。


「さぁ、練習だ。どこからでも殺すつもりできたまえ、全力でね。肉体強化、武器強化系の魔法しか私は使わない。このなまくらを......私なら、六式魔道。ヴァル・ディエル・ヴァイン神力強化!」


 おいおい、信じられんの。ただの鉄の剣が伝説級の剣に化けよった。

 シノノメ会長が魔法強化をした剣を振る。それにコロナが赤い剣を持って突進する。


「アレクシアさん、ミカエリス様。合わせてください」


 見事だな。自分がヴァンガードであるから、自分よりも上位の存在である二人でもしっかりと指示をする。そのおかげで、ミカエリスがシノノメ会長の手足に拘束魔法をかけた。


「むっ?」


 アレクシアの魔法はシノノメ会長に刃のように襲いかかる。


”敵を討つ風刃、我が風の加護と共に”


 魔法と共に突進してくる。コロナの突き、三人の連係攻撃は見事といえる。が、この程度がシノノメ会長に通じるわけもないだろう。


 ぐっと力を入れたシノノメ会長はミカエリスの魔法を軽々と引きちぎり、アレクシアの魔法にふっと息をかけてアレクシアの足下を蹴ってころばせる。


「ばかな……」


 最後は……チンと、コロナの突きを、自分の剣の切っ先で受け止めた。そしてシノノメ会長はにっこりと笑い。


 こう言った。


「君達、舐めてるんですか? もしかして、今のが殺すつもりなのでしょうか?」

「会長しかし」

「しかしじゃないんだよ。私を殺すつもりで来なさいと言っているのです。はっきりいって貴女達三人が全力で殺しに来たとしても私が殺される事はまずありえません。なぜなら、貴女達を目を瞑っていても殺せます。同じ次元にいると思わないでください」


 さすがにいいすぎだろうと思ったが、ミカエリスとコロナはこの言葉に火をつけられた。 


 コロナは呟く。


「イフリートの加護よ。我が剣に爆炎の祝福を! かわりに太陽ほどの祈りをささげん事を! ファイアー・バスター・ソードぉおお!」


 次はミカエリスは声を出さない。


 が、アレクシアは魔力詠唱を始め、そしてミカエリスはヴァルキリー化している。本当に全力でシノノメ会長をくだしにきた。


 アレクシアは限界まで魔法強化を重ね、そして声を出す事もなく、シノノメ会長に魔法強化の徒手。


 これは攻めのコロナ、補助のミカエリス、そして援護のアレクシアという形だったはずだが、コロナとアレクシアは完全に囮。


 ミカエリスのヴァルキリー化した最大の一撃を放つ時間を稼いでいるのだ。


「もう少しだけ……もう少しだけ二人とも時間を稼いでください」


 無茶を言う。そう思っていただろうが、コロナもアレクシアもシノノメ会長に余力無視の攻撃。そして……


「アレクシアさん」

「了解だ!」

「なっ……まじですか」


 アレクシアとコロナは攻撃をしながらシノノメ会長に何重にもかけて拘束魔法とその魔法を変異させる呪い。簡単にはシノノメ会長も解けないだろうろ、二人は回避する。

 そしてミカエリスが、最大・最強の魔法を練り込んでいた。


"悪を滅ぼす神々に造られし、戦乙女に天撃の矛を"


「正槍・ブリュナーク!」


 さすがにシノノメ会長にですら、それなりのダメージを与えうるだろうと皆が思っていたが……


 バシッ……しかし空気をよまんな。シノノメ会長。


二人の拘束魔法を軽々と突き破りミカエリスの全身全霊の魔法攻撃を少しだけ手を焦がして受け止めた。

 それに落胆する三人。かたやシノノメ会長は……


「みなさん、やればできるじゃないですか! このくらいやらないといきなり瞬殺されますよ? ですが、もう少し連携と出力を上げてください」


 そしてシノノメ会長は他のチームに対しても手厚いというか、余が引くくらいマジでやばいレベルのスパルタで指導を繰り返していく。それを二周程繰り返したところで、十三人の生徒たちは皆倒れた。


 余はミカエリスとリリスにネクタールを飲ませて休ませてやっていると、余の番が回ってきた。


「じゃあ、そろそろ私たちの訓練はじめましょうか? エルシファーさん」


 まぁ、そういう事になるのであろうな……

 さて、シノノメ会長の力とはどの程度の物か……余も本気を出せるものか……実にたのしみだ。


「エルシファーさん、分ると思うけど。本気の魔法でお願いしますね? じゃないと私の訓練になり得ませんので」


 さてと、どこまで高めればシノノメ会長の練習に足る魔法になるか分らんが、とりあえずは雷系の呪文で様子見をしてみるかの


”終わりなき痛み、それは神の慟哭。こぞりて芥と化さん”


「ギガ・ブレイズ・サンダリオン!」


 いやぁ、これノリで出したけど大丈夫かな? この学園くらい吹き飛ぶんじゃなかろうか? というかシノノメ会長死なないかな? なんかダジャレみたいになったけど……シノノメ会長も本気らしい。


”世界を滅亡させた一つの痛み、二つの怒り。三つの狂気。それは神の怒り”


「さぁ、いきますよ?エルフシファーさん! 最果ての魔術王、超魔道士ドロテアの魔法のレプリカです。ボルテックス・サンダー・ロメロぉ!」


 お互いの雷の術式。余の知らぬ魔法形態で構成されたその魔法に、余の至高の雷魔法は一歩至らなかった。


「エルフシファーさん、どうせだからさ、少しお話をしましょうか?」

「お話?」

 何を言っておるのか、いまいち分らんが、耳を傾けてやる。シノノメ会長は余とこの学園では本来使用禁止レベルの魔法を放ち合いながら、ゆっくりと語り出した。


「私がシノノメ会長ではなく、東雲あかりだった頃のお話ですよ。そう、影で魔王と揶揄されていた時の私……酷くつまらなく、かわいげがなかった私ですね」


 成る程、死ぬ前の自分の話をしようとしているのか、中々にシノノメ会長はオセンチなのだな。


「いいよ。聞いてあげる」

「ありがとうございます。エルシファーさんは聞き上手ですね」


 そりゃ、何千年も腹心や眷属達のくだらない愚痴を聞いていれば聞き上手にもなるであろう。


「そうね。私が死んだ時、それはとても日差しが暑い。こことは真逆の気候で生きていた女の子お話ね」


 うん、なんか滅茶苦茶面倒くさそうで眠くなりそうなお話である可能性が極めて高いな。


 眠気止めでも用意せねばならんか?

 そう余とシノノメ会長は世間話でもするように、自分が死んで生徒会長になるまでのお話をはじめた。


 余はこの時ばかりは知らなかったのである。異世界転生に必要なスキルはその地域で魔王として活躍する事。


「……まぁ、余も魔王ではあったのだがな……」


 誰も聞いていないシャレを飛ばす空気ではなかったので、余は黙って話を聞くことにした。

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