【1万pv感謝】パトロンは悪役令嬢。魔王という生き方に嫌気がさして、勇者にわざと討伐されてみたら片田舎の人間の子供に転生したので、平々凡々な魔法研究生活を望んだ日々の記録
第38話 遠足や旅行は当日よりも準備期間の方が楽しいみたいな話
第38話 遠足や旅行は当日よりも準備期間の方が楽しいみたいな話
「この槍凄い魔力を感じるよ」
確かに、ミカエリスの先祖代々受け継がれてきただけの事はある。この槍そのものが......
「これ、魔道具精霊」
「さすがねエル。そう、これは王国に伝わる最強の矛よ。水竜王が槍となった聖槍ね」
水竜王がどの程度かは知らんが、余の持つ破滅の剣程ではないにせよ。リリスのダガーにいれてやったアークデーモンより遙かに強力な力を感じるの......これ以上の魔物をこの槍に入れるのは骨だし、無駄だの......
「この槍には他の精霊を落とすのは無駄」
「うん、私もそう思うわ。この水竜王はこの世界でも相当名のあるドラゴンだから」
余が考えていた事をリリスが代弁する。
「ちょっと待って、どうしてミカエリス様は、あの生徒会長との戦いでこれを使わなかったんですか?」
確かに、これがあれば勝てぬともあそこまで無様な敗北とはならなかったであろう。あの規模の闘技場からシノノメ会長も魔法をセーブする事を考えればあるいは判定勝ちになったかもしれん。
「対抗戦は、私の魔法力だけで挑戦したかったというのもあるし、この武器は戦争で使うもの、同じ学校の生徒に向けるものじゃない。エルには悪いけど、この槍には魔道具精霊は不要という事が分ったわね」
「そうでもない」
余の申し出にミカエリスは少し驚いただろう。確かにこの槍は強力な武器である事は間違いない。だが、それを使う術者。ミカエリスを守る物を余が用意する事は可能。
「鞘の方に、強力な表皮を持った精霊を落とすの。そうすれば、ミカを守ってくれる」
余の言葉を聞いて、怪訝そうな顔をした。
「剣なら分るけど、槍の鞘なんて......」
「作ればいい。世の中の常識なんて無意味」
そう言って余はリリスとミカエリスを連れて工房に向かうと、道具精製をしている連中に残っている金属片を使ってミカエリスの槍が収まる鞘の工作をお願いした。特に魔法防御もかける必要がない事を伝えると、金属加工だけで2時間程で生徒達はそれをくみ上げた。
「おぉ! すごい」
「この短時間で......やるねみんな」
鞘の工作に入っていた生徒達は鼻高々に余達を見る。
「見た目にはやっぱりこだわらないとね! 我が校の学章と、ミカエリス様をあしらったバラをモチーフにした鞘だよ」
器用な奴らだの......といっても余が招集した連中だ。サニアと目があったので余は手を振ってみせる。すると、今までなら恥ずかしそうにしていたサニアが手を振り返してきよった。
再びミカエリスの部屋に戻ると余は周囲を見渡してから二人に言う。
「ここじゃ狭い。模擬戦ができる闘技場にいこう」
「狭いって......」
確かに、並の食堂くらいの広さはあるのかもしれんが、余が呼び出そうと思っている者を見るとミカとリリスもたまげるぞ。
なんせ、槍のドラゴンに対なすドラゴンを余は呼び出すつもりでおるからの......使用許可を取りにいくと、生徒会長とアレクシアが模擬戦を行っていた。
アレクシアの身体強化魔法。それらをもって生徒会長にはまったく届かんか......そもそも身体強化を使っておる相手に、シノノメ会長は平手で迎え撃っておるあたり、規格外すぎるの......
リリスはドリンクを二つ買ってくると、模擬戦を終えた二人にそれを渡した。
「シノノメ会長、アレクシア先輩お疲れ様です」
「あー、うんありがとう」
「すまんなリリス」
ちゅーっとドリンクを飲みながらシノノメ会長は余達を見てから当然のことを尋ねる。
「君達も模擬戦かい? エルシファー君が稽古をするとか?」
「秘密兵器を用意する」
シノノメ会長は秘密兵器かとつぶやき、余達が持っている槍用の鞘を見て、何かを理解したかのように頷いた。
「悪くないと思うよ。ミカエリス君は自分を大切にしないからね」
「......っ」
「いい仲間を持ったじゃないか、ところでアレクシア君。お茶でもしようか?」
「か、会長と二人っきりでですか?」
「嫌かい?」
「そのような事は! 是非に」
シノノメ会長はこのままだとアレクシアが模擬戦を見学していくと言いそうなので上手いことつれていってくれた。ウィンクをしているあたり、中々に空気を読みよるわ。
邪魔者がいなくなったところで、余はミカエリスの鞘を受け取り呪文を唱える。
「ザーザス......こほん! 余のありまる神力を贄に、世界樹を支える地中竜、その姿を現わしたもう」
と適当な呪文を唱える。
”暗澹と絶望の沼にうずもれし、暗黒と狂喜の泥龍よ、我が命に従い顕現し、術者を守る鋼の鎧たらん事を”
「サモン! グランドドラゴン」
鞘の質量に収まるように余の魔法力コントロールを精密に行う。中々にこの身体だと骨だのぉ......しかし、ここはサニアの作った魔法力調整アイテムが生きてくる。今こそその力を発揮せよ!
一瞬、模擬戦場に召喚された巨大なドラゴンに、ミカエリスとリリスは空いた口がふさがらない。それを限界まで魔法力に変換圧縮して鞘に収める。
「チュポーン! アレクライ!......できた」
余はそれをミカエリスに手渡しする。受け取ったミカエリスは当然驚きを隠せない。リリスもそうだが、これらの魔物を取り憑かせた道具を持っていると恩恵で魔力が底上げされる。
本来こやつらとの契約でなんらかの副作用を持つ事になるのだが、本来の契約者は余で、アークデーモンもグレートドラゴンも余の配下であるから、なんの副作用もなくこれらを行使できる......今更になって気がついたが、あの神が与えたチートの一つはこの余の配下を召喚できる事だの。
「エル、これ。凄い力を感じる」
「感じるだけじゃない。その鞘の力を引き出せば、ミカを守ってくれる。使ってみて」
「鞘の力って? ......どうやって」
使い方は一ヶ月かけてみっちり覚えるとして......どれだけの効果があるか、身を持って知る方がよいだろう。
「リリス、ミカに特大の攻撃魔法使って。ミカは防御魔法を使わないで」
余の指示に驚く二人ではあったが、余が何かを教えようとしている事に理解してくれたようで、リリスは魔法詠唱に入る。もちろんアークデーモンの力もプラスされるわけだから、リリスの魔法はより強くなる。
”雷の精霊よ 君と共に僕は眼前の扉を開く”
「放て! アグニメイス・サンダァー!」
ミカエリスは目を瞑る。
”シュヴァリエルシード(オートガード)”
雷は散らされ、槍の鞘は......ミカエリスに装着型の魔法道具としてこやつを守る。心なしかではあるが......
「ミカ、戦乙女みたい」
「これ、ヴァルキリー化してる時みたいに......」
リリスの特大魔法を受けてもなんともないミカエリスにリリスは面白い事を言った。これは余も考えておらなんだ。
「その状態でさらにヴァルキリー化したらミカエリスさん。シノノメ会長に追いつけるんじゃない?」
まぁ、多分無理だろうが、シノノメ会長を驚かせる程にはなるかもしれんな。が、あの規格外のシノノメ会長や勇者以外の相手であればそうそうミカエリスが破れる事もなかろう。
「ミカ、約束して。これは勇者パーティーと戦う時だけ使って」
うむ。じゃないとこの世界のバランスを壊す程の力を誇るからの......
「約束する。エルありがとう。それにリリスさんも」
「余とミカとリリスは友達。当然」
余の当然すぎる言葉に何故か照れる二人。全く、人間とは自分の思った事もちゃんと口に出せんのかの......これで道具に関してはどうにかなったが、勇者パーティーの残りの連中。
どんな奴らか分らんから、初見でもやりとりが一番命取りになるやもしれん。
残りの時間、余がこの二人にしてやれる事は......
「ミカ、リリス。明日からびっちりしごく。そのつもりでいて」
まさか二人とも余がこんな事言うとはおもわなんだろうな! 驚いておるわぁ! そんな余を見て二人は合わせてこう言った。
「「明日と言わず、今からでいいよ!」」
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