第34話 必ず、図書委員に入ると図書室に趣味のラノベを入れる奴がいる話

 ヒトミの人体実験により効果が保証されたアクセサリー型のアイテムを学園の生徒達に配り終える。生徒達はそのアイテムの簡単な用途を知ると驚きながらも喜んで受け取った。 

 シノノメ会長劇場第二幕のはじまりでもあるの……ミカエリスはまだ魔法力回復の為に寮の部屋で療養中だからの、あとでリンゴでもすって持って行ってやるかの。

 生徒会の工房とミカエリスの工房も使える事だし余の実験もはかどること、はかどる事。 

 そんな余の工房ライフなのだが、本日はミカエリスがおらんという事でリリスがやけにくっついてくるかと思ったが、そんな事も無かったの……

 という事はあのバトルマニアのシノノメ会長が……


「来る事もないの」


 今回はなんというか学園が広く感じるの……そしてやけに静かだ。まぁこういう日も悪くない。ミカエリスの工房で量産体制に入る強化した魔法の杖を生徒会の工房で個人用に調整をかけていく。まぁ手先が器用な連中が好きでその辺りは手伝ってくれるから余はお払い箱になってしまったわ。

 まぁまた魔力調整が必要な時には呼ぶように言っておるし、たまには一人で学校内をうろついてみるのもよかろう。

 よくよく考えてみると余は授業の教室、そして食堂、魔法実験場、そして工房に寮の部屋しか使った事がないの……


「たまには散歩でもしてみるかの」


 この学園は魔法の勉強以外にもいろいろと学び物が出来るとそういえばリリスが言っておったの。余やリリス等特別に魔法力が高い者を除けばここは貴族など身分の高い者が通う学校だからの、それなりに部活という物も盛んだと聞いておったな。その見学でもしてみるかの。

 まずは……裁縫部。魔法とは別の分野となるが、手先の器用さは魔法をくみ上げる事にも一躍買う時がある。

 ほう、首巻を作っておるのか……ん? 目が合ってしまった。


「エルシファーちゃんが覗いてる! 入っておいでよ!」

「ヤダ、可愛い!」


 しまったの……獣の巣にでも入ってしまったかのようだの。こやつらが作った毛糸の着用物を色々と着せ替えられもみくちゃにされる。

 まぁしかし少し懐かしいの……


「どうしたのエルシファーちゃん? 嫌だった?」


 嫌なものか……


「母に昔こうして服を作ってもらったのを思い出した」


 貴様等は余が強力な魔法を使うおっかないガキに見えたかもしれんが、このように余にも弱さのようなものがあるという事を知られてしまったの……ん?

 きゃあああ! と裁縫部の生徒達が叫ぶ。なんだなんだ? 全員に抱き着かれたり頬ずりされたりなんだか面倒だの。何がこやつらの中で起きた?


「少し痛い、離れて」


 何やら茶菓子やら毛糸の着用物を沢山もらいながらなんとか部室から出る事が出来た余は図書室によることにした。

 そこの司書はヒトミも行っているのを聞いていたがヒトミはおらず本の端から余を舐めるように見る不気味な女がおるの……

 こやつには関わらんようにしよう。


「ほう、魔術書以外も色々と扱っておるのだな」


 魔法学園というくらいだから、魔術書だらけだと思っておったが、若い女子に人気の雑誌やら、おぉ! 余が魔王だった頃に好き好んで読み散らかしておった冒険譚等の物語ではないか。

 ちらっと……魔術書を読んで覚えてこの図書室からはおさらばしようと思っておったのだが……これはじっくりと部屋でチョコレートでも食べながらゆっくりと読みたいのぉ……だが、あの変な女のところに行くのは嫌だのぉ……

 がしかし読みたい。読みたいがあそこに行くのは嫌だのぉ。どうしたものか……これは諦めて……くそうやはり読みたい。


「のぉ……これ、借りたいのだがの? どうすれば」

「魔王、異世界に行くですか……良い本を選びましたね。ですがこれは三巻ですから最初魔王がどうして異世界に行ったかを知ってからの方が……より楽しめますよ」


 な……なんだと。まさかこれが三巻。そしてそれを余に教えてくれたというのか? この不気味な女は……


「本、好きなの?」


 余の質問に不気味な女は頷く。そしてそこに住んでいるんじゃないかと思えるような貸出場所から出ると余が借りようと思った作品以外も数冊持ってきた。


「一人五巻まで貸出できるから、これ全部読むといいよ」

「えっ! いいの?」

「うん。大丈夫」

「そう。なんか不気味だけどいい人ありがと……それって」


 余達が配った魔法のアイテムを持っておるがこやつ余達が配った物が少し変わっておる。これはもしや……


「このアイテム、貴女がやったの? 見せて」

「その、勝手にアレンジしてごめんなさい」


 なんだこれは……余が考えた魔法理論に対してヒトミが勝手に解釈した魔法アイテム。それでもそれなりの効果を見せていたのだが、この不気味な女がカスタムしたであろうアイテムはどう考えでも余達が配った物より効果的だ。


「すごい。貴女。名前は?」

「サニア……シュバルツ・サニア」

「サニア、これどのくらいで作れるの?」


 俯いたままサニアは余の質問に答えた。


「二時間くらいかな……」

「凄い! 凄すぎる。サニア」


 余達を手伝ってくれる内職の連中も中々に手先が器用だが、このサニアの作る物と比べると玩具と言わざるおえん。


「ほんとに、ごめんなさい」

「サニア、余の工房を手伝って、貴女の力が必要」


 余の申し出にサニアは嬉しそうな顔をしてから、そして俯いた。


「ダメ……だよ」


 は? 完全に今余について工房で働くターンだったのではないのか? えっ? どういう事なのだ……


「なんで?」

「私、呪いの魔法の素質があって、不運な事がよく起きるから……私にはあまり深く関わらない方がいい」


 成程、実につまらん悩みだの。呪いは必然だが不運は偶然だ。そんなどうでもいい事にの。これが人間か、余が魔王だった頃は強ければどんな魔物であろうと人間であろうと余の配下にしたものであった。


「構わん。その不運。余に貸せ! サニアの不運は余の幸運」


 そう言って余が手を差し出すとサニアは余を見て泣いた。そして余の手を取る。よし、こんな図書室に逸材がおるとは思わなんだ。


「サニア、ミカエリスの工房に行っていますぐに作っている物を壊し、サニアの考える方法で作り直して、これ鍵」


 サニアに渡された文庫本を持ちながら余はサニアを別れて次の場所を散歩した。よく考えるとここは人員の宝庫だよの。

 他にも隠れた逸材を集めて余の完全なる魔王城を作り、そして余は最高の冒険の旅に出るのがよしだの。

 普段はあまり買わぬのだが、この前の爆発事件での手伝いで金一封をもらったから少し金に余裕があるので砂糖菓子でも買いながら中庭でのんびりとするかの……

 サクサクして色んな豆が入っていてうまいの。

 さて、ここで人間観察をしながら、工房の知らせがくるのを待っておくかの。


「ん? 何やら余を見つめる女子生徒」

「それ、うまい?」

「これ? うまいよ。食べる?」


 余がくれてやった菓子をサクサクと食べながら獣の耳が生えた女子生徒は余の隣に座った。


「君、もしかしてエルシファー? あの魔王の末裔。シノノメ会長に気に入られている」


 余も有名人になったの。そりゃそうか。あのミカエリスとの試合の時に飛び入りで邪魔をしたからの。


「うん、たぶんそう」


 成程、シノノメ会長が気にしていたのはこういう事もあったのかもしれんな。こやつ、この学園の生徒ではない。


「じゃあ、エルシファー。死んで」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る