第8話 世間一般にはジャイアントキリングが喜ばれるけど、実際は圧倒的な力で俺TUEEEEする方が好まれる話 前編

 さて、レミレラの屋敷のパーティーに参加することになった余だが、あれよこれよとレミレラの屋敷の女中に色々着せ替えられ今やもうどうとでもなれと言う状況である。

 

「エルシファー様、幼い頃のレミレラ様のドレスが丁度いいサイズですわね!」


「時に、レミレラの事を教えてほしい」


「レミレラ様でございますか? そうですね。昔、と言っても一年程前までは私たちメイドや召使の者へのあたりが酷かったんですが、レミレラ様が熱病に侵されかなり容体がひどくなられた時があり、そこから回復なされてから……人が変わったように私達従者や街の人々にもお優しくなられたんです」

 

 ふむ……レミレラは少し前までは本当にど外道だったわけか、が……おそらくその熱病を発症した時にレミレラは死んだのだろう。で今のレミレラが余のように転生、いやこの場合はレミレラの体に転移したといったところか……。

 

「エルシファーちゃん! 準備できたかしら?」


「レミレラ様、この通り、とーってもエルシファー様もお可愛く」


「お招きいただきありがとうございます。レミレラ様」

 

 という事で余は魔王時代に余の城で働いておった侍女達のようにスカートの端を摘んで軽くお辞儀。

 二人きりになりたいというレミレラに部屋に連れていかれるや否や、レミレラはえらいフランクになる。

 

 

「マナーもパーフェクトじゃん! 私より上手かも」


「それはどうでもいい。悪魔はどこ?」


「それなんだけどねー、このパーティーに呼んだ貴族の中に混じって悪魔が封印された宝石を私に贈り物として渡す人がいるんだけど、それが誰かまでは分からないのよね」

 

 レミレラよ! 誰もおらんからと言って肘をついてケーキを食べるな! あとちゃんと紅茶を飲む時もソーサーを持って飲め! と言ってやりたいが、面倒臭いのでやめておこう。

 

「それでは助けようがない」


「エルシファーちゃんは呪いとか解除できるんだよね?」


「ものにもよるけど、多分大丈夫」


「じゃあ私悪魔に呪われるから助けてくれればいいわ」

 

 は? こいつ、本気で言っておるのか? まぁ、それであれば余が近くにおればなんとでもなるだろうが……なんというか自分を大事にせんの。

 まっ夕食はご馳走らしいし、その分くらいの働きはしてやろうかの。

 

 して、パーティーの為に招待客達が集まってくる。

 貴族という連中は本当にいつの時代もぞろぞろぞろぞろ、無駄に着飾り、無駄に豪勢な物を食べ、見栄を張る種族だの。これは人間も魔物も全然変わらん。

 粗食結構、見栄えよりも効果・効能を優先した方良いのにな。

 

 

「レミレラ様、一段とお美しく! こちら、レミレラ様にお似合いと思ってご用意いたしました! しかし、こちらのお嬢様は?」


「ありがとうございます。バド卿! こちらは私の可愛い騎士様ですわ」

 

 だなんてやりとりを何回繰り返したか分からん。その度余はヒュドラの首くらいコクンコクンとお辞儀をして首を頷いていると、皆の動きが止まった。

 ざわざわと騒がしくなり、屋敷のパーティー会場の道を開ける。そこに二人の従者を連れた一際豪華なドレスを着た娘。

 

「セラフェリス・ヴァルキュリア様だ!」

 

 ヴァルキュリア王国第一姫、確かこの前の祭りにきておったミカエリスとかいう小娘の姉という事か? 確かにかなりの魔力保有量をしておるな。

 

「エルシファーちゃん。ご挨拶にいきましょ!」


「あぁ」

 

 セラフェリスの前に跪く余とレミレラ。

 

「セラフェリス様、この度はこのような場に赴いていただき感謝いたしますわ。本日はお楽しみいただければ恐悦です」

 

 そう言って離れようとしたレミレラをセラフェリスが止める。

 

「レミレラ、少し待て」


「はい?」


「見ないうちに随分雰囲気が変わった。以前のお前は私の周りから離れようとしなかった。が、私を見る目は常に笑っていなかった。妬みと憎悪を感じさせる嫌な目をしていたのに、今のお前は……こういうとアレだが至って普通だ。。何があった? あとそちらの娘は? お前の妹か?」

 

 すごい言われようだの。さぁ、なんと返すレミレラ。

 

「勿体無いお言葉でございます。こちらはエルシファー。私の歳の離れた友人でございます。セラフェリス様をこうして独り占めしていると他ゲストの皆様に申し訳ありません。まだ挨拶回りが終わっておりません故、失礼させていただきますわ。また後ほど」


「あ、あぁ」

 

 離れてもセラフェリスとやら、ずーっとレミレラと余を見ておる。しかし、今回はあやつを悪魔から守るという意味もあったからの。呪われた宝石とやらは何処にあるのやら。

 

「エルシファーちゃん、あれ!」


「ん?」

 

 貴族らしい男がセラフェリスになんらかの宝石を献上しようとしている。余の魔王の眼にはそれは……邪悪なオーラを帯びたまさしく呪われた石。

 

「あれ!」


「セラフェリス様……」

 

 余達が駆けつけた時は時既に遅く。セラフェリスは呪われた石に触れてしまった後だった。

 

「……うぅ、これは……いかん貴様ら、私から離れろ! 意識が」

 

 悪魔が自らの固有の結界を作っておるな。この中におる人間は身動きが取れなくなる。

 が、所詮は悪魔程度の結界。余にはつゆ程の意味もないが、レミレラはダメか? 仕方がない。

 レミレラでも動けるように局所結界内に余の局所結界を上書きしてやろう。

 

“奈落の嘱託をはじめん 並べ、裏切り者の殉教者達よ ここはあらゆる罪許されるところ、始まりの暗澹 祈れ、生ある者に無間の折檻を、罪深き者に永劫の奈落を“


「局所結界魔法! アポカリック・ステージ! レミレラ。余の後ろに隠れてて、悪魔が出てくる」

 

 周りは皆動かなくなった貴族共。おそらく、この自分の領域で人間どもの魂を食らってきたしょーもない悪魔なんだろう。が、そこで動ける余とレミレラ。

 

「あれあれ? おかしいなぁ。動いている人間がいるんだけどぉ?」

 

 2本のひん曲がった角を持った悪魔。槍を魔法の箒がわりに乗って浮かんでおる。

 

「悪魔、ここから尻尾巻いて去れば何もしない。選んで? 余に滅ぼされるか、逃げて生きながらえるか?」

 

「は? はぁああ? こんなちんまい人間の子供がなんで動けるのか知らないけどぉ、ゆくゆくは大悪魔になる中級悪魔のリリムになんて言ったの? 滅ぼすとか言わなかった? 黙って固まってれば痛みもなく死ねたのにお馬鹿さん!」

 

「エルシファーちゃん、自分の知っている流れとちょっと違うわよ。大丈夫? かなり強そうだけど」


「問題ない」

 

 余とレミレラ会話を聞いてバカにされたと思ったリリムとかいう悪魔は、余とレミレラに……

 

 

「本当、立場が分かってないみたいねぇ! セブン・デイズ・デス!」

 

 余とレミレラの頭上に7の刻印が浮かぶ。なんぞこれ?

 

「それは1日経つ毎に数字が小さくなるのぉ、そ・し・て! 0になった時、あんた達は死ぬのよ! 死の恐怖に苦しみなさい!」

 

 くだらん! 余は自分の頭上の数字とレミレラの頭上の数字に触れるとそれを抜き取り、握りつぶした。こんなカス呪い。余の世界ではゾンビでも使わんぞ。

 

「レミレラ解除した。あんな呪いなら余がふれるだけで消せる」

 

 余がそう言って悪魔リリムを見ると、悪魔リリムは大きく口をあんぐりと開けて……

 

「えぇええええええええ!」

 

 こっちがドン引くぐらいリリムは驚いてひっくり返りそうになっていた。では次は余からお仕置きの時間だの。

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