ラブ de ニューデイ
けたたましいアラーム音がスマホから鳴る。電源ボタンを気持ち強めに押して、スマホに八つ当たりした。
うっすら輝くブルーライトの明かりに顔をしかめながら、スマホを開く。スグとのトーク履歴が映った。
『通話時間:6時間47分』
寝落ち通話なんて意味のないもんだと思っていたのに、こんな数字にニヤける俺は我ながらチョロいもんだと思った。
「そーつん、おはよ〜」
「おはよう」
「昨日はごめんね。声聞いてたら、ずっと聞いてたくなっちゃった〜」
「ありがとう?」
朝イチで褒められるとは思わなんだ。というか褒められてるのか、これ。
いつもより二割増しくらいの笑顔で、スグは腕を広げる。なんだそれ、急にペンギンのポーズを取るのは予想外だな。
「ぎゅーしよ、ぎゅー」
「いや、親出てくるかも……」
なんで俺ん家まで来てるのかも思えば、それが狙いか。ちょうど朝ごはん食べてる時に、『迎えにいくよ』なんてメッセージ飛ばしてきて、トドメと言わんばかりの好きだよスタンプを送ってきた。
おかげさまで、俺の口は三日月形になった。とはいえ、そうやすやすとハグなんてさせるわけないだろ。心の準備すらできてないのに。
「ちょろっとなら大丈夫だよ」
「昨日の今日でハグなんてしていいのか?」
「私がいいって言ってるんだからしてよ〜」
……ま、本人がそういうなら。
ぎこちない動作で腕を背中に回して、恐る恐る抱きしめ……ようとした。
「えへっ、あったか〜」
待ってられんと言わんばかりにスグは飛び込んで、俺をぎゅむっと抱きしめた。
押し付けられるでっかい胸、鼻が頭へ突き抜ける良い匂い、髪の毛が鼻先をくすぐる。
昨日の今日で、こんなことしていいのか。ていうかハグなんて挨拶みたいなもんで、別にしてもいいのか?
パニックになる頭、どんどん締めつけが強くなるスグの腕。男子高校生の朝にしては刺激的すぎて、ぶっ倒れそうになった。
「お昼、お昼だよ。そーつん」
「はいはい」
はしゃぐ姿は変わらず微笑ましい。お昼の時間をこんなに待ち望んでるの、小学生とスグくらいじゃないか?
勝手にほっこりしていると、スグはお弁当を開けて俺に渡してきた。
「……これはどういう?」
まさか、俺のために作ってきたとか? そんな漫画かアニメの話、現実で味わえるなんて。こりゃまだ夢を見てるのかもしれないな。こんな夢なら、もうちょっと見ときたいな……。
スグは俺に箸を渡して、にぱっとした笑顔で俺に言ってきた。
「私に食べさせて!」
自分が恥ずかしいや、夢なら覚めてくれ。
「あっ、急にイチャイチャ見せつけてきてる」
「おいひ〜」
周りの視線にダメージを受けつつも食べさせてあげていると、スグといつも一緒にいる子が呆れたような顔でそう言ってきた。
急にも何も、俺たちは今まで付き合ってたわけでもない。ていうか、スグのあまりのスピード感にこっちが困惑してるくらいだ。
「ようやく彼氏さんもお預けをやめたんだ」
「お預け?」
「ん? ずっと恋人らしいことしてくれないってスグが愚痴って……」
「そ、それ以上は言っちゃダメだってば〜」
困った顔で口を塞ぎに行くスグだったが、それをスルリと避けて、からかうように笑いながら教室を出て行った。
「末永くお幸せに〜」
「もう、そーつんに嫌われたらどうすんのさ」
そんくらいで嫌わんわ、とツッコミを入れたいけど入れたら面倒なことになりそうだからやめた。周りで飯食ってる奴らに口笛とか吹かれそうな気がする。
「なぁ、さっきあの子が言ってたのって……」
「……最近してくれるからいいの」
いや、気になってんのはそういうことじゃない。
ずっと恋人らしいことをしてない? そもそも恋人ですらなかったのに?
何かがおかしい。なんというか、盛大なすれ違いが起きてるような……。
「なぁ、俺たちっていつから付き合ってたっけ?」
スグはキョトンとしながら、スマホをいじり始める。しばらくしてから、ニコッと笑いながら教えてくれた。
「んとね、友達になってから一ヶ月後くらいだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます