ホントのキモチ

「……誰にでも言ってるわけじゃない、のか」

 シェイクを奢ってあげる代わりに相談に乗ってもらった。どうやらあの子はスグとは幼馴染で、高校まで一緒なんていう仲良しこよしらしい。

 高校まで一緒っていうのはなかなか珍しい気がする。まぁ、俺としては助かったからなんでもいいけど。

「……じゃあ、ホントに俺のことを?」

 ベッドの上で独りごちる。俺のことが好き、あのスグが。

 スグはたぶん、カーストの中じゃ上に入る。本人はそういうの気にしない……というよりは、たぶん分かってないんじゃないかとは思う。

 そんな子と、良くも悪くも目立たない俺。どう考えたって釣り合いはしないし、周りは認めやしない。


『男の子なのに、女の子のキャラクターもってちゃダメなんだよ』


 嫌な記憶が蘇る。あの頃は自分も周りの友達だって幼かった。とはいえ、傷ついたことに変わりはなかった。

 あの頃から周りを気にするようになった。周りから変だとか、変わってるとか思われてるのが怖くて仕方なかった。

 ……だから、スグみたいな子とガルバ繋がりで友達になれて嬉しかった。

「でもなぁ」

 今の関係が変わってしまうくらいなら、このままがいい。

 ……そもそも、アイツは本当に俺のことが好きなのか? スグが本気で好きって言ってるのか? 


『結婚する?』


 ……冗談だよな。


 ─────その時だった。スマホがブルリと震えたのは。


『そーつん、明日は一緒に学校いこ』


 ガルバ以外のことでメッセージが飛んでくるのは珍しかった。今日のこともあって少し気が引けた。あの時、スグの瞳の奥。

 糸目の奥に隠された黒色の何かが、怖かった。

 とりあえず、『いいよ』とだけ返信しておいた。送って数秒とたたず、既読がついて返信が来た。


『やった、そーつん大好き』


 それと、猫がハートを抱きしめてるスタンプ。

 ……違う、好きなのは友達としてだ。勘違いしない方がいい。スグのためにも、俺のためにも。

 明日、うまく話せるかどうかだけが気がかりだった。




「あ、そーつん。おはよ〜」

「おはよ……朝から元気だな」

「大好きなそーつんに会えたから元気になったよ〜」

 またそういうことを……そろそろ、本気で説教してやらないとなぁ。

 とりあえず、学校に着くまでにちゃんと話を……。

「ねねっ、そーつん。シェイク飲みに行こ?」

「はっ?」

 言われたことの内容を理解するのに時間がかかった。今日は学校がある、学校に行かなきゃいけない。なのに、シェイクを飲みに行くだって?

「スグ、学校は……」

「行こっ、そーつん」

「ちょ、スグ!」

 スグは俺の腕を引っ張り、駆け出していく。朝から全力で走り出す女子高生と男子高校生を、周りは流し目で見ていく。

 こんなに注目を浴びるのはごめんだ、嫌なことを思い出してしまうから。

 でも、スグはそんなことを気にせずに楽しそうに走っていく。周りも見ずに、やりたいように。

 眩しくて、引っ張られている腕どころか、なんだか胸まで熱くなってきて。


「えへへ、たのしいねー!」

 

 きらめいて見える顔、弾んだ声のせいで。


 見ないようにしてた気持ちが、引っ張られてきてしまった。

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