第二十一話 撃沈、躓いた出だし
ティナには二人の姉がいる。
優しくて面倒見が良い出来た長女のシロ姉。
先に生まれたので姉の座を譲る事になってしまった危なっかしい双子の姉、次女のリタ姉。
そして三女のティナ。三人はディーニア三姉妹と呼ばれ、故郷で有名になった。
有名になった理由はいくつかある。
三人は揃って錬金術師となり年齢とは不釣り合いな程の実力を身につけていた事。
珍しい金狐の獣人であった事。
そしてティナ達が美少女である事。
最初のはママから十年間錬金術を教わり、才能もあったのか三人とも大人顔負けの実力を身に付けたから。
当時子供のティナ達が、錬金術師ギルドに登録するための試験や、依頼で渡したアイテムの出来に噂として広がり、いつの間にか有名となった。
錬金術師は物の価値を見極める必要がある職で鑑定のスキルを持つ人は多い。大方、誰かが興味本位で鑑定で盗み見したのだろう。
二つ目はシャンスティルで暮らす獣人が少ない中、さらに少ない狐族からもっと希少な金狐族だという事。ティナ達家族以外の金狐は見た事ない。
そのせいか、邪な気持ちの者どもに狙われた事もあり、幼いティナとリタ姉は一度誘拐の被害に遭った。
その時は本気でキレたシロ姉が、ティナ達を監禁していた家屋の壁を破壊しながら突入してきて、犯人がとっても可哀想な状態になったのは今でも思い出せる。
振り下ろされる鋼鉄の剣を正面から拳で折って、顔面にグーパンを入れたのが一番不味かった。もし剣が業物で折れなかったら、剣を持ち主に押し付ける形になっていたから。シロ姉だって怪我をしたかもしれない。
この事があってティナとリタ姉は、いつか錬金術の腕を上げた時にシロ姉へガントレットのような頑丈で拳を守れる物を贈ろうと決めていたのだ。
そして最後は言わずもがな、三人とも美少女なのである。ふんす。
数え切れないぐらいナンパや告白をされた。
残念ながら錬金術以外に興味がないティナ達は全てお断り。
それでも強引なのは誘拐事件から神経質になったシロ姉が圧を掛ける。ティナとリタ姉に何かありそうになるとやたら交戦的になるシロ姉になってしまった。けれど、一番モテたのはシロ姉だったから暴れるシロ姉の姿を見た事は少ない。
顔はティナより大人びて美人。
スタイル抜群(姉妹揃って背だけ低め)。
誰にでも優しい(ティナとリタ姉に変に絡まなければ)。
そしていつも笑顔を振り撒いているのだから人気者。老若男女問わず距離感が近いものだから勘違いして好意を寄せる異性は多数いた。天然は罪。
そんなこんなで色々と有名になったティナ達は、いつの間にかファンクラブ的な存在があった。シロ姉は自分に向けられる視線の意味をあまり考えないがティナは違う。逆に問い詰めてみたから発見できた。そして話を聞いた。
主に男性で構成され、単純に告白する勇気はない者や、もふもふに惚れ込んだ者が何故か意気投合して横繋がりに見守る会として拡大したそうだ。
あとはシロ姉に無償で助けられてファンになる人もいたが、中にはA級冒険者の人がシロ姉に助けられ、恩義とその強さに惚れ込んで親衛隊を自称する人達のまとめ役になっていたりもした。シロ姉何したの・・・。
ん、けどナイスタイミング。
表には出回ってこない珍しい素材を集めるため、シャンスティルにある闇市場へ行きたいと思っている所に、そこで顔が利くらしい優秀な冒険者と知り合えるとは。
ティナは冒険者ギルドへ向かい、ちゃんと指名依頼で案内兼護衛として雇う事にした。
結果、思っていたより欲しかった素材を手に入れる事ができた。どれもこれも冒険者の人が案内してくれたおかげである。
しっかりと役立ってくれたので追加でお礼をと申し出たけど断られた。シロ姉に返し切れない恩があるからいつでも頼ってくれとの事。
ほんと、シロ姉は何したのだろうか?
まあそんな疑問は置いておこう。欲しい素材は粗方集まったのだ。
これで究極のスライムが錬成できる・・・。
だけど念には念を。やっぱり数体、練習で試験用の子達でも錬成しておこう。
初めはそう・・・スラタロウ。硬化試験として工夫して錬成してみよう。
こうして究極のスライム研究は、大成功の第一歩で始まった。
アンディさんにオリジナル商品を試しに作ってくれないか?というお願いも、この調子なら軽くこなせそう。
その時はそう、こんな気持ちで取り掛かった。
・・・
「悪いがこの二つは買取できない。とても客に出せる物では無いと判断した」
ティナの聞き間違い、では無さそう。
実際に隣にいるリタ姉はショックを受けているようだ。
んー、それにしても客にとても渡せるような物では無いとは酷い評価だ。
評価もだけど、もう少し言葉を選んでくれても良かったのに。
少し不満げな声が出てしまった。
それからアンディの説明は始まった。
まずはリタ姉のゴーレムから。
前に三人で試作品の評価をしたあの日、リタ姉のゴーレムは爆音を発するのに音量調整利かないのは欠点だと思った。
しかし物自体はよく出来てるから、何故全くと言っていいほど評価されないのか、参考にするため話をしっかりと聞く事にする。
・・・・・・・・・ん、すごい言われよう。
こんなにもダメ出しされて、あのリタ姉が言い返さずに押し黙っている。
まあでも、それは仕方ない。聞いていた話しは全部納得できるものばかりで、不当な評価をした訳ではなさそうだ。文句は言えない。
それにしてもあの短時間で客から出てきそうな不満点、クレームになりそうなのをこれだけ見つけ出すアンディはすごい。その能力は長い間、客を相手にして身につけた物だろう。
今のティナ達には無い、これから必要になる能力はきっとこれだと思う。
ママが何故、ティナ達の一人立ちを認めるための課題で、商人との繋がりだけ持たせて完全に放任するようなものにしたのか。
それは客目線の要望と、生産者側にも理解がある優秀な商人から両立場について学び、どこでもティナ達が周りの人達の生活に溶け込めるように、そして新しいものを自然に受け入れて貰えるような協調性のある錬金術師になれるようにと狙ったのかも。
それならアンディのオリジナルアイテムの作製依頼自体、初めはシロ姉のアイテムに興味を持ったからティナとリタ姉にも話しがきたのだと予想したけど、よくよく考えれば実力だってよく知らない相手に素材まで渡して頼むのはおかしい。
実はママがアンディに事前に頼んでいたと考える方が辻褄が合う気がする。
きっと売り出すにあたって悪い点はズバッと伝えても構わないと、そういう言葉も添えてあったに違いない。
ティナも滅茶苦茶ダメ出しせれるのかな(ブルブル)。
「次はティナ、君の用意してくれたこのゼリー状の物体なのだが・・・」
「・・・はい」
ん、けどリタ姉のを見て予想したよりは言われなかった。
ダメ出しされた点は二つ。
感触が慣れないとかなり厳しいのと、自動で洗浄する目的でつけた分解機能。
感触はまあ、ティナのスライムに触れたりしているシロ姉すら慣れないのだ。当然出てくる問題だった。
もう一つは、スライムのような消化を命令で調整できる訳では無く、常に分解しているのが危険だという事だった。
分解と言っても数時間触れ続けてヒリヒリする程度。
菌などを消して再利用できるようにする為のものであったが、それもダメらしい。
錬成したアイテムとはいえ、スライムの捕食を思い起こすような見た目は冒険者にはもちろん、この街だと魔物のスライムによる被害がダンジョンで出ているので受けいられないようだ。
これは盲点だった。ほんとに買い手の事を考えて錬成するのは難しい。
「というわけで、これを商品化するのは厳しいって分かってもらえたか?」
「・・・・・・ん」
「まあ肌に好き好んでスライムを這わせたいって思う奴はいないと思うがな」
「・・・・・・・・・シロ姉、アンディがいじめる」
後ろにいたシロ姉の胸元にダイブ。
ふむ、やはり布越しとはいえこの弾力の差は悔しい。けど落ち着いちゃう。ばいんばいん。
「あーその、ティナはスライムが大好きな、その好き好んで取り扱っている子なので・・・。まあ私も変わっているとは思うけど」
「シロ姉もひどい。変じゃないもん」
シロ姉の顔を見上げながら抗議する。
胸に顔を埋めていたのにどうやって?体を器用に反転させ、今シロ姉の胸は枕になってる。
「あはは、ごめんごめん」
「それはすまない。人それぞれだよな」
シロ姉は笑みを浮かべながら頭を撫でてくれる。が、それはいい。
アンディ、その『人それぞれ』と納得するのは、時に人を余計に傷つけると知って欲しい。
頬を膨らませてしっかりと抗議しておく。
むーーー。
「あれ、ティナはどうしたの?」
「あ、リタ、気が付いた?ティナもアンディさんにやられたのよ」
自分の世界へ旅立つぐらい考えに耽っていたリタ姉が帰ってきた。
とりあえずティナも、アンディにやられた感じが伝わるようにしておこう。
「うーーー」
よし、これで何も聞いていなかったリタ姉にも、ティナがアンディにやられた事は伝わっただろう。
「キツく言い過ぎたのかもしれんな。悪かった。ただ腕は良くても他の人にとって良い物になるとは思って欲しくてだな・・・」
「ええ、よーく分かったわ。これは私達への挑発なのよね!」
「は?何言って・・・」
なるほど、あれだけやられたのだ。
負けず嫌いのリタ姉的には、「こんなにダメなとこあるんだ。認めさせれる物作れないよな。ぷーくすくす」と言われたと思っていてもおかしくない。おかしくない?
けどその流れ、ティナも乗っかろう。
「そーだー、ティナ達は負けないー」
まあ悔しいのはティナも一緒。
近々新しいの用意して認めさせてみせる。
ただこの時、その認めさせるという目的のため、取り組んだ努力の方向性が間違っていた。
より良い物を、他には無い物を、後は利便性をと様々なものを一気に求め、ティナと多分リタ姉は、ここで色々と履き違えていた。
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