第二十話 決して諦めないわ!
私はシャンスティルという錬金術が盛んな街で生まれた。
自分の人生と殆どずっと共に過ごした街中には大勢の錬金術師が築き上げた作品等が広がっており、幼い頃の私はいつしか自分でも作ってみたいと思わせるほど錬金術というものに夢中になっていたわ。
今思えば初恋と言っても良いぐらい、それ以外について考えられなくなる時もあったもの。
それに錬金術への焦がれる思いは私だけではなく、お姉ちゃんや私のすぐ後に生まれた妹も錬金術師になりたいと望んでいた。
だから錬金術を教えて貰えないかと三人一緒にお母さんのアトリエに突撃した。
その時の私とティナは五歳、お姉ちゃんも八歳だったから、最初は興味本位でする事じゃないと追い返されていたけど、何度も頼み込むうちに真剣な事が伝わったのか仕事の合間の錬成中の横で色々教わり、時には見学して勉強することになる。
そして成長するにつれて錬金術を実際に触れる機会が与えられ、様々な失敗作を三人で作り続ける事に・・・。
私達が失敗しなくなるまでは常に異臭が染み付くアトリエになってしまったのよね。
ただこうなる事も予想していたのか、お母さんは失敗については怒らなかった。けれど明らかに教えを破った挑戦や、慣れからの注意不足を見つかった時はとことん怒られた。まあ当然なのだけれど。
そんなこんなで幼い頃から優秀な錬金術師のお母さんに十年間も教わっていた私達は、シャンスティルにいる大勢の錬金術師と肩を並べるほどの技術を身に付けれた。
周りからは天才だと持てはやされたわ。
それに色んな物を錬成が出来るようになったのもあり、それらが自信へと繋がって私に新たな挑戦をする意欲、前から気になっていたゴーレム技術について研究する事にした。
ゴーレムと一言で言っても様々で、大きさから形も定まっておらず、素材だって木材から鉱石と割と何だっていい。
ただ
私が興味を持つ切っ掛けになった家で掃除をするゴーレム。
家の外には誰かが作った鳥型の浮遊石を利用して飛ぶゴーレムや、ペットの猫を運動させるために作られた床を駆け回る鼠型のゴーレム。
一体いくら掛かったのか、洋服屋のディスプレイには定期的に自身で着替えてファッションを見せつけるマネキン代わりの高性能人型ゴーレムなんかもあったのには驚いたわね。
これらは確かに
今はまだ未熟で武器代わりの物ばかり錬成しているけれど、いつかは沢山の人に認められ、求められる・・・、そんな多機能で高性能なゴーレムを錬成し、ゴーレム技術にリタありと言われるようになりたい。
そんな野望を抱いて邁進する私に、丁度どれだけ成長したか確認する機会、サルザードで自身の力量を試すチャンスがすぐに来た。
求められたのはお客さんに売るオリジナルアイテム作製。
ここで沢山の人に求められるようなゴーレムを錬成する事で、私の目標への第一歩としてみせる。
そう意気込んで取り掛かったのに・・・。
・・・
「悪いがこの二つは買取できない。とても客に出せる物では無いと判断した」
お店の奥から戻ってきたアンディさんにそう言われ、今さっきまでの高揚が嘘のように引いていくのを感じた。
用意したのは警戒用のミニゴーレム。
アンディさんは受け取る際、性能や何故これを作製する考えに至ったのか説明を求め、それについ早口で自信満々に答えたのを覚えている。
そう、自信満々で売れると出したのに、結果は買取不可だった。
「な、何で・・・」
「むーっ!」
「すまない、説明する。まずリタ、君の防犯用のゴーレムについてだが・・・」
ショックだった。
正直、キッパリ駄目と返されるとは思っていなかった私は、その時冷静さを欠いていたわ。
だけど、そんな私の後ろから頭を撫でてくれたお姉ちゃんのおかげで冷静に、今しなくてはいけない事を思い出す。
失敗したと言う現実は受け入れ難いかもしれない。しかし全ての失敗の裏には絶対に原因が存在する。
自身の知識や技術からはもちろん、周囲の移り変わる環境や不可抗力というどうしようもない要素だってある。
お母さんは失敗を無くすことは絶対に出来ないが、限りなく減らせると言っていたわね。
錬金術をするうえで数え切れないほど失敗をする度に直面した原因を見直し、どうすれば発生を抑えれるのかを学べと。
今回の失敗は、今までのように求められた物だけを錬成する錬金術だけではなく、商売というほとんど知識のない要素が深く絡んでいた事に今更気付いた。
そこで何が原因でお客さんに売れないのか商売について詳しい専門家が話すのだ。
将来多くの人に認められるという目標は、商売からお客さんの考えを学ぶ事で目標達成へと近付ける事に気付き、私は気持ちを切り替えてアンディさんの話に集中した。
「君のゴーレムだが狙いは悪くない。ここは冒険者が多く、上に位置付けられた者達は日帰りなどせずダンジョンで寝泊まりする。だから見張り番があるのだが、それを補助するためにこれを用意したって話しだったよな?」
「ええそうよ」
「ならまず余計な機能はいらない。ゴーレムにして自動で物音した方へセンサーを向ける機能は面白いが肝心の探知範囲が狭い。小型化の弊害かもしれないが、それは効果を確かなものにしてから考えるべき事だ」
「・・・・・・」
「それに大きな音を出して知らせるってのはあまり良くない。ただの動物とは違い、魔物の場合は音に寄ってくる可能性がある。だから既にあるそういう警戒用アイテムは、探知すると壁を展開したり結界を張る物が主流だ」
「そ、それはコストが掛かりすぎだし荷物と嵩張るからお手軽なのを・・・」
「お手軽、か・・・。その考えはダメだ。コストの問題はあるだろうがこれは何をする為のアイテムか思い出せ。これには命を預けるんだ。削ぎ落とす箇所を考えるなら、より一層この手の知識と現場の感触を知り、考慮して見極める必要がある」
「・・・・・・・・・・・・」
「まあ要するに、だ。確かにサルザードで売るのにはアイデアとしては良かったが、これに関しては錬金術師ギルドも推奨した立派な物が出回っているから参入しずらい分野だって事だ」
「す、すごいボロクソに言われるのね」
「次、ティナの番が回ってくる事に震えてる」
完膚なきまでの惨敗。
とても当初にあった力量を推し量る水準に達していない、そんな結果になってしまった。
過信していたんだわ。
正直私ならサルザードでもやっていけると思っていた。
今回の案も深く考えず、まあ冒険者を客層にするならこういうので良いかなー、ぐらいで錬成しちゃっていた。
そして、自分の力を見せつけるため小型化や自動で動き回る機能を・・・、言われた通り余計な事にリソースを割いてしまったのよ。
ほんと、今回は良い薬になったわ。
今度は間違えない。今度こそ認められるようなしっかりした物を用意してみせるわ!
「あれ、ティナはどうしたの?」
「あ、リタ、気が付いた?ティナもアンディさんにやられたのよ」
「うーーー」
戻ってきたのは良いけれど、隣にいたティナがいつの間にか後ろに倒れるような形で、お姉ちゃんに受け止められてその大きな胸をクッションにして髪を撫でられている。
そして本人の口からは何やら小さな呻き声が漏れていた。
「キツく言い過ぎたのかもしれんな。悪かった。ただ腕は良くても他の人にとって良い物になるとは思って欲しくてだな・・・」
「ええ、よーく分かったわ。これは私達への挑発なのよね!」
「は?何言って・・・」
「そーだー、ティナ達は負けないー」
ごめんなさいねアンディさん。ただこういう形にした方がティナも燃えるかなって。
でもここまで言われたんだもの。二人揃ってしっかりとした物用意して認めさせてあげるんだから。
そう私は、私達は決して諦めないわ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます