第十六話 錬金術、頑張りますやぁzzz

「確かこの辺りに・・・お、ここだ。大通りにあるアンディの店、ワイドレンジだ」


 私達を先導していたバレッタさんが足を止めたのは、多くの人が行き交う大通りに並ぶお店のひとつで、周りのお店より一回り大きな建物の壁にはワイドレンジと書かれた看板がある。


「ここが・・・」

「ああ、立派だよな。嬢ちゃん達の家やアトリエと同じで、デニムの奴が力を入れて建てた場所だってよ。今回の件でアンディにここを使わせるそうだ」

「ならまだ準備中で開店してなかったりするのですか?」

「みたいだな。色々仕入れて準備中だそうだ」

「そうなんですね」


 昨日、アンディさんの話しにあったポーション目的で寄ってもらった人に買ってもらう商品でも仕入れてるのかな?


「ねえ、それより早く入らない?アンディさん待たせたら悪いし」

「そうだね。行こうか」


 サルザードでの生活、そして課題についても今日の話し合いで色々決まるんだ。

 よーし、気合いを入れなくちゃね!





「ようこそいらっしゃいました皆さん」

「おう来たぜアンディ!デニムがいないのにお上品にしてるのな。だが無理してそんな堅っ苦しくしなくてもいいぞ」

「・・・・・・なら遠慮なくそうさせてもらおう。三姉妹の、シロネとはこれで話したことあるが、リタとティナの君達もこのままで良いか?」


 リタとティナは、アンディさんのいきなりの変わりように少し驚いてるっぽい。けれど・・・。


「え、ええ・・・、むしろ話しやすくなったわ」

「ん、馴染みやすい」


 まあ二人ならそう言うよね知ってた。

 二人は特にお堅いのは苦手だからね。


「そうか、助かる。問題なければ早速これからの事を相談するとしよう」


 そう言ってアンディさんが案内してくれたのは、お店の二階にある応接室。

 部屋の中には長椅子やテーブル、それにちょっとした絵画がある。

 私達は長椅子に腰掛けて、アンディさんは対面の一人掛けの椅子へ、そしてバレッタさんはアイテムボックスから自前の座り心地が良さそうな椅子を取り出してテーブル端の向こう、私達とアンディさんの表情が見える横の位置で寛いでいる。


「では話し合いを始めるとしよう。まずお互い、自身の回りについて語ろうと思う。何でも良い、出来る事や気づいた事、今どういった考えで動いているのか、一通りな」

「はい、分かりました」


 話し合いが始まった。

 アンディさんが自然に仕切って進行してくれるのでとても助かるよ。

 何たって私達、自分の事ばかりで他の人がどう行動するのかなんて細かく考えた事ないからね。自慢じゃないけど・・・。


「まず俺からサルザードについて説明がてら話そう。ここは第九区、ここを囲う防壁が出来て二年、サルザードで一番新しい区域だ。それは分かるか?」


 あ、リタとティナが困ってる。

 そういえば、昨日馬車で移動中寝てたからお母さんの話し聞いてなかったよね。

 こんな防壁で区切られた街なんてそうそう無いから。


「すみませんアンディさん。まずそこから説明してもらって良いですか?」

「分かった。ならサルザードは年々、いや数ヶ月で新しいダンジョンが付近に出現する街だと知っているか?」

「そんな不思議な事、正直信じ難いけどあるのよね」

「不思議、と言うよりおかしいと言った方がしっくりくる」


 そうだよね。なんでサルザードだけこんな事が起きてるのかな。


「それである程度固まってダンジョンが出現したら、それをまとめて新たな防壁で囲ってしまう。初めは第一区の北、東、西、南と扇の形に防壁を伸ばしてきたのだ」

「確か第一区は丸く防壁で囲われた場所でしたよね。そこから順番は違えど東西南北に扇形、丁度第一区をぐるっと囲うように第二から第五までの区域が出来たのですね」

「そうだ。さらにその外、北東から時計回りにまた扇形で区切りながら囲う事で、六から九の区域ができた」


 ふむ、中々ガチガチに固められた街なんだね。戦いについては詳しくないけど、もし中心に攻め入るなら最低でも防壁三枚は越えなくちゃいけないし、一度侵入しても横に広がるにはまた防壁が邪魔をする・・・いや、そんな事考える必要無いよね。やめておこう。


「ま、区切られた防壁の中が一つの区域になっていて、俺たちがいるここ、第九区が一番新しいと覚えておいてくれれば良い」

「分かったわ」

「ん」


 問題なさそうね。

 これで話しが進められる。


「よし、本題の続きだ。それで第九区と区切られた防壁内にあるダンジョンだが四つあるんだ。初級の簡単なものが二つ、中級と上級が一つずつある。だからここで活動する冒険者も幅広く、需要も様々だ。俺は今、初心者から上級者が必要とする物を仕入れている。冒険者なら誰でも良い、とりあえずこの店を知ってもらう事が重要だからな。そちらは何か言いたい事があるだろうか?」


 なるほど。こうやって何をしてるのか、何が出来るのか詳しく情報交換すれば良いんだね。


「私達も新しい施設で錬金術をしました。とても使い心地が良く、シャンスティルで活動してた時より良い物ができそうです。これ、昨日の夜錬成した物です」


 私は昨日ベッドに入る前、アイテムボックスにある手持ちの材料で見本となる物を錬成しておいた。

 ポーション、ハイポーション、手投げ爆弾、小さな鉄のインゴットに、変わったものだと手に収まる細い筒を取り出して並べた。


「【鑑定】、これはすごい、高品質の物ばかりだ。インゴットの純度もちゃんとしてる。この品質を常に保てるのか?」

「はい、全然問題ないですよ」


 手持ちの材料をあまり使わないように錬成した物だったが、問題なさそうで良かった。


「そうか、これで問題なく営業出来そうだ。それで気になっていたんだが・・・これはただの筒か?鑑定の結果には何も出ないのだが」

「それで水を吸って飲むと美味しいですよ」

「は?錬金術で出来た物が、何かを美味しく出来ると?」


 まあ、言っただけでは伝わらないですよね。

 今アイテムボックスには、詰め込んできた材料ばかりで水や食料は入れてなかった。


「ほら、この水を飲みな」


 どうしようか悩んでいると、バレッタさんがアイテムボックスから水を出してくれた。


「バレッタさん助かります。ではアンディさん、どうぞ。その筒の少し膨らんだ所を指で摘みながら飲んでください」

「あ、ああ、ありがとう。頂くとするよ」


 あれ?何か少し緊張してる?

 うーん、でもまあ無理もないかもしれない。


 錬金術の材料を分解し、必要な成分や物質は残して他を作り変える過程で、どうしても効力や形にこだわってしまい、味や臭いが酷い状態で出来上がる物がある。

 特に味は難しく、無味なら上出来とまで言われており、本当に美味しいものを錬金術で作るのは無理だと言われていた。

 だからポーションなどの飲んだ場合と掛ける場合で効果がある物は、服が濡れるなどの被害はあれど掛けた方が良いとまでされている。

 あんまりの不味さで動きを鈍らせるぐらいなら、と。


 錬金術の味についてはそんな言われようで、今だに少し透けて見える筒の中の水がアンディさんの口にまで届いていないのは、実は前に錬金術の味問題の被害にあって、拒否したかったのかもしれない。

 無理させたら悪いし止めようかな?とか考えながら見ていると、アンディさんがついに意を決したのか、ちゃんと吸い上げて飲み込んだ。


「あ、甘い!リンゴの果汁水と同じ味がするぞ!」

「ふふっ、それは私の自信作なんです」


 材料は大した物は使っていないが、消費した魔力と労力はとてつもないアイテム。リタとティナ、そしてお母さんも錬成できなかった物なのだ。


「アンディ、それ寄越せ。俺も味見する」

「あ、ああ」

「サンキュ。どれどれ・・・・・・マジだ。ちゃんと甘いなこれ」


 水を飲んだバレッタさんが驚いている。

 何でそこまで?


「あの、バレッタさんなら普通に錬成出来るのではないですか?」

「あ、俺がか?いや、無理だな。色んな味をつけるってのを試した事自体少ないが、やっていたとしてもここまでのもんは作れねえよ」


 その発言に私達、それにアンディさんもかなり驚いた。

 マスターアルケミストが素直に出来ないと口にする事がどれだけすごいのか、この場に居たものは全員理解できた。


「まあ確かに、無味が良いとされているが、それより味を良くする事は出来る。食い物をそのまま錬成したり、これみたいに味を変えたりする物を錬成するのはな。ただ、出来てもそれっぽい風味で何となくそんな味がするって物しか無理だ。俺もそうだが、師匠もここまでのもんは錬成してなかった」


 こんなすごい人の師匠も?それって・・・。


「誇れ!シロネの嬢ちゃん。お前が世界一美味しい錬金術師だ!」

「・・・・・・あれ?何か違う意味に聞こえる?」

「ん?あー気にするな!ハッハッハッ!」


 こんなすごい人にそこまで褒められて内心大喜びでいたのに、変に聞こえる言われようで台無しの気分だよ!

 ・・・・・・うん、でもまさか私にこんな特別な才能があるなんてびっくりだ。何でお母さんは披露した時教えてくれなかったんだろう?


「良かったなアンディ。お前の相棒、絶対に役に立つぞ。むしろお前の方が頑張らなくちゃいけなくなったな」

「ああ、まさかこれほどの才がここにあるなんて・・・・・・これなら親父の課題もそう難しく無い!」


 バレッタさんとアンディさんがかなり盛り上がってる。

 けどこれだけじゃない。これは私だけの力。

 リタとティナだってすごいんだから!



・・・



「何だこの板、それにこの布。こんな便利な物があるのか。これは使えそうだな」

「まさかのまさかだ。三人ともすげえな。ここまで出来るんなら課題なんて必要か?ヘレナの奴も三人を自由に巣立ちさせてやれば良いのにな」


 二人の前にリタとティナの錬成した物を出すと、その出来栄えや特異性にアンディさんは更なる商機を見出し、バレッタさんは私達三人を褒めてくれた。

 これで私達三人の能力は、ある程度伝わったのだろう。

 話し合いは先へ進み、そして最後にお互い質問や要望を伝えてお開きする事になった。


「ではアンディさん、昨日話してた材料の仕入れについては・・・」

「ああ、すでに運ばせる手筈は整えた。ぜひよろしく頼む」


 良かった。これでポーションでの稼ぎの目処がたった。


「はい。それでアンディさん、こちらはとりあえずそれだけ知れれば良いです。アンディさんは何か要望はありますか?」

「そうだな、まずポーション類とこの筒をお願いするよ。売れるものと変わったもの、まずこれを売り筋にして攻めてみようと思う。バレッタ、さんも協力してくれるそうだからな」

「分かり、ました。それでは私達、錬成、頑張ります、あれ、何だか、急に・・・」



 みんなあわててる。ばれったさんがなにかのませてくるけどなにもかわらない。

 かんかくがふわふわで、もうむりぃ。

 みんなおやすみぃ。



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