第十四話 取り扱い注意!ダメったらダメだから‼︎

 リタがティナへのバトルを宣言から、すぐに私達は実験スペースへとやって来ていた。


「さあ勝負よ!ティナ!」

「ん、ティナが攻撃で、リタ姉が防御」


 攻撃と防御?まさか・・・。

 二人が何をしたいのか分かった。

 ならティナはスラタロウを使うとして、リタは・・・服装に大量に付いてるリボンが怪しいかな。昨日はあんな物無かったから。


「いく、『スラタロウ、戦闘準備』」


 ティナの命令を受け、スラタロウがぽよんぽよん跳ねて前に出る。うん、ちょっと可愛い。


「あら可愛らしいスライムね。次はこちらのお披露目よ!『ウェイクアップ』」


 リタの方は予想通り、だけどそれ以上のものが出て来た。

 服の至る所に散りばめられたリボンが勝手に紐解かれ、宙に浮いて人ひとりがすっぽり入るくらいの輪を作るように動いた。


「『私を守りなさい』。よし成功、後は」


 輪となったリボンの中で、バチバチと弾けるような赤い魔力障壁が展開される。、

 リタはそれを見届けてると歩き始める。すると、それに合わせて魔力障壁を張ったリボンもまた、リタとスラタロウとの間の位置を保つように、場所を移動する。


「やった。出来たわ!」

「すごいわリタ!まさかリタも自律機能を持たせてたものを錬成していたなんて。しかもとっても便利そうね」

「む、スラタロウの方がすごい。勝負して証明する」

「ええ、かかって来なさい」


 二人は自身が作り上げた自信作を前に出し、錬金術師としての意地をかけた戦いを始める。


「スラタロウ、まずこれを。一応リタ姉に当てないように、『スラタロウ、ニードルショット』」


 ティナから何やら金属らしきものを、スライムボディへ取り込む形で受け取ったスラタロウは、一瞬身を震わせたかと思うと中から何やら細い、針のような物を魔力障壁へ飛ばして見せた。そして針は魔力障壁が衝突するとディン、といった独特な音を発する。


 結果、針は魔力障壁に刺さりもせずにその場に落ちる。防御成功、魔力障壁はスラタロウの攻撃を防いだ。


「へえ、スラタロウって飲み込んだ物を溶かして加工、みたいな事して射出できるの?」

「ちょっと違う。正確には接するか、取り込んだ物の硬度を模倣する能力。飛ばしたのは針の形状にした体の一部を作り、取り込ませた鉄の硬さを模倣させて飛ばした」


 なんと、あの一瞬でそこまでの事をやってのけたらしい。


「けど、射出した体の一部は本体から離れ、いずれ魔力切れで最も使った材料の水へと戻る。そして硬度が高い程、消費魔力や模倣するまでの時間が増えて、模倣できる時間は減る」

「ふむ、なるほど。問題は多くあれど、かなり便利だね」


 ティナの饒舌な説明を、錬金術の師匠であるお母さんが教えてくれた自律機能の知識を基に考察する。


 錬金術で自律機能を有するものを錬成するには必ず必要なものがある。それは魔核コアと呼ばれる文字通り、そのものに取って最も重要な核となる部位なのだ。

 魔核コアから離れた部位は、魔力供給が断たれ形成できなくなる。

 だからティナの説明からすると、硬度を高くすればするほど射出した部位は早く材料の水に戻ってしまい、射程が短くなるとも取れる。


「ティナの錬成したスラタロウの魔核コアは、やっぱり魔石を多く使ったの?」

「ん、ほぼ魔石のみ」


 魔核コアの性能は、錬成する際に利用した魔石の量や質、後は取り入れた魔鉱石でも変わったりする。

 魔石を使った魔核コアほど繊細な動きが可能となり、覚えさせられる行動パターンや考えて行動するという、生き物全般が有する中で一番複雑な脳の機能を拡張することができる。


 スラタロウを初めて見た時は跳ねたり転がったりと色々行動した上に、ティナや私の一部分を目標に絞って飛び込んだりもしていた。

 それに接した物や取り込んだ物の硬度を真似する事もできる。

 つまり、スラタロウは周囲のものに対して、常に情報を仕入れ、硬さに関しては考察する事も可能としている。その性能、ティナの才能と大量の魔石が揃ったから出た結果だね。

 私はそう感心していたのだが・・・。



「ん、シロ姉気付いた?そう、ティナのスラタロウは感情は無いけれど、既に考えて行動する生き物と変わらない域にあるという事に!」


 ティナが今までにないほどの興奮を見せる。

 錬金術師は好奇心の塊とお母さんは言った。

 しかし、好奇心は常に良い方向へ導く類のものでは無い。いや、むしろ危険なものだろう。


「ティナ、ホムンクルスを造ろうと考えたりしてないよね?」


 ホムンクルス。それは錬金術師の到達点のひとつであり、人と変わらないモノの生命創造という禁忌のひとつでもある。


「?、うん。スライム以外興味ない」

「そう、でもティナ、スラタロウ以上に賢い魔核コアの錬成は禁止だからね!」

「えー」

「多分お母さんに聞いても止められるよ?とにかくダメったらダメだから!」

「ん・・・」


 ちゃんと強く言えばティナは守ってくれる。

 一見、普段の口数は少なく、錬金術と食事以外周囲に全く興味無いように見えるティナだけど、本当は物分かりの良い気配りが出来る子なのを知っている。

 私が頭を撫でてあげると恥ずかしそうに、けど少し嬉しそうに受け入れた。うんうん、いい子いい子。ティナはきっと大丈夫。


「ねえ、少し蚊帳の外になってるんだけど、私が勝利したってことで良いのよね。ティナ?」


 勝負の結果が出てから完全放置になっていたリタが確認する。ティナは今思い出した、と言わんばかりの顔でリタを見た。

 スラタロウの説明と、それについて語る熱い思いを話していてスッカリ忘れてたね。

 うん、一度夢中になるとそれ以外見えなくなるところも可愛い子なのだ。なでなで。


「まあ、私の魔核コア調整が完璧すぎて、この魔力障壁は貫通できないでしょうけどね!」


 リタは自慢するように魔核コアの詳細について語る。

 話しを聞くには魔石を程々に魔鉱石、それも私が前にお金を出して買ったルビナイト鉱石を使って錬成したらしい。

 魔核コアを錬成する際に、魔鉱石を多く取り入れる利点は単純明快。魔核コアから供給される魔力量が増える事で、機能を同時にまた、効果量も共に増すのだ。


 今回のリタが錬成したリボンの仕組みは、リボンの中にゴーレム技術を活かした金属が仕込まれており、切られたりしていくら分離しても問題なく一つに繋がるらしい。

 あとは、金属内の浮遊石と呼ばれる魔鉱石の中でも特殊な物を、魔核コアの魔力で起動。浮遊したリボンは、指定した防御対象の魔力の側で寄り添うという機能だけのものであった。たったのこれだけ。


 何故、魔力障壁のようなものが発生したのか、それはリボン全てに取り付けられた魔核コアの反作用。

 それぞれの魔核は金属を通して魔力を流すのだが、全てがそれをするとリボンの繋ぎ目で流された魔力がぶつかり合い反発する。

 そうして飛び散るように漏れ出る魔力を輪の中心へと飛ばしてやり、激しい濁流のような魔力の渦を作り、その流れで全てを拒み、物や魔力を通さない魔力障壁のようなものが出来上がったとか。無茶苦茶過ぎるよ!

 言葉にするだけなら簡単だけど、いくら何でもおかしい事だらけ。


 何で反発しているのに、輪としてくっついてられるのか?

 それはリボンの金属の中、浮遊石と合金したワイヤーを芯として仕込み、そこだけは魔力の流れる向きを時計回りと決めてあるらしい。

 その芯の部分が無事なら離れる心配はない。

 あとは輪を形成するリボンを、正確には外付けの金属の形状を輪の中心へ、そして防御対象に当たらないように、少し外の方へ角度を付けて作ったとか。

 リタ天才すぎる。


「あのね、錬成した外装用の鉄板の上に試作品の魔核コアを並べて置いていた時、間違えて魔力が流れると四方八方に魔力を散らせながらすごい勢いで飛んでっちゃってね。それで思いついたのよ」

「リタのおバカさん!危ないでしょ!」


 違った。おバカな方法で見つかった手法だった。多分、品質や量、距離とさらには繋がっている物の条件全てが噛み合って起こった偶然だったんだ。


「リタは危ない方法で見つけた手法を使って錬金術しない事、いいね?」

「えー、私もー?」

「そうよ。せめて錬金術師ギルドに報告して安全な利用方法見つかるまで我慢しなさい」


 何この二人、サルザードに来て仕事道具良くなったからって、急に危ない方向で技術方面アグレッシブになったんだけど・・・。

 大切な二人、危ない事しないで欲しい。ちゃんと言い聞かせておかなくちゃ。


 そう心で意気込んでいた私のここでの問題は、リタの方へ意識を割きすぎた事。後ろで怪しい動きしているティナに気づかなかった。


「ティナのスラタロウはまだ負けていないもん。『スラタロウ、発射準備』」


 その声で振り向いた私が見たもの。それは鉄を取り込んだ時とは比べられないほどスラタロウが振動していた。


「『発射』!」


 ティナはそう言った。

 すると先程の勝負の時と同じ、針は魔力障壁もどきに衝突。いや、容易く貫いた針は、リタから狙いはずらされていたので背後の分厚い実験スペースに突き刺さった。

 刺さったと思ったが、見た感じ途中で真似ていた金属が水に戻ったように見えた。戻らなければ貫通していたかも・・・。


「ん、ティナのスラタロウの勝利」

「ティナ!なんて事してくれたの!危ないよ!そして何をベースにして射出したの!」


 リタはびっくりしてペタリと座り込んで腰を抜かしていた。それ以外は見てないよ。うん。

 それより私はティナの両肩を掴み、前後に揺らしながら問い詰める。この時ティナは「あうあうあうあう」としか言わなかった。


 落ち着いてから数分の間で尋ねて分かった事、それはスラタロウが模倣したものはオリハルコン。世界で随一の硬さを誇り、加工が遥かに難しく、魔力を通さない金属であった。

 実物はシャンスティルの闇市場で見つけた、一リッポウセンチメートルの本当に小さいオリハルコンを、金貨一枚という適正価格すら分からない取引で手に入れたそうだ。

 サンプル目的で購入したものが、まさかスラタロウの弾になるとは・・・。それに特性もある程度引き継ぐんだねスラタロウ。


「ティナ、次に鉄より硬い金属をスラタロウに撃たせたら、怖いよ?あとそれと、スラタロウが今取り込んでるオリハルコンは没収して売ります。この壁の修理費に当てるから」

「⁉︎、シロ姉許して!」

「ダメです!まさか使用初日で修理が必要になるなんて・・・。先が思いやられるよ」


 こうして私達の騒がしい早朝は終わった。

 その後、お母さん達が来るまで、早朝とは打って変わってすごく静かな冷めきった食事をする事となる。




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