第十三話 夢中になると時間を忘れますよね
一睡も出来なかった。
目をつむっていれば、その内いつの間にか夢の世界へ旅立てるのでは?といくら待っていても一向に訪れない眠気。
「あ、もう明るくなってきた」
寝る時間が無くなった。もう起きるしかないよね・・・。
身支度を整えて朝食作りの為にキッチンへ向かう。途中に通ったリビングにまだ誰もいなかった。
まあ、あの二人がこんなに早く起きてる事はあまり無いので気にする必要がない。と、思っていたんだけど、朝食を作り終えても起きてくる気配が全く無い。
「リタとティナはまだ寝てるのかな。リター!ティナー!」
ノックしてガチャリ。ノックしてガチャリ。
二階に戻り、リタとティナの寝室をどちらも覗いたが無人、二人の姿は無かった。
「もしかして・・・」
私は急いでアトリエがある建物へ向かう。
建物の中へ入って入口すぐ左の方にある扉の向こうが私のアトリエで、正面奥へ続く廊下を進み二番目の扉がティナ、三番目がリタのアトリエとなっている。
そして奥の突き当たりには大扉があり、そこは実験スペースとされる広くて頑丈な部屋へと繋がっている。
そこで、まず私が向かったのは近い方から、ティナのアトリエのドアノブに手をかけた。
部屋の中に入ると予想通りティナはいたのだが、足元で小さく跳ね回っている青色の物体が気になってしかたない。
「あ、シロ姉だ」
「やっぱり錬金術してたね。朝までずっと?」
「ん、早く使ってみたかったから気になって寝れなかった」
うーん、私もティナと、そして多分隣の部屋で錬金術しているであろうリタと同じだったのかな、寝れない理由。
続くようなら活動に支障をきたすかもしれないから、原因があるなら早く解消しないといけない。
「紹介する。『スラタロウおいで』」
私が考えごとしていると、ティナは珍妙な名前のようなものを呼んだ。すると、先ほどから跳ねるのをやめて転がっていた青い物体が大きく跳ねて、ティナが手を広げて待つ胸の中へと抱き止められる形でキャッチされた。
「スラタロウってそのスライム?」
「ん、徹夜で錬成した子。錬成したアイテムをサルザードに持ってくるのは止められたけど、材料については何も無かったから錬成できた」
「そうだね。私も魔鉱石みたいな価値ある物や薬草とか、アイテムボックスに入れられるだけ持ってきたからね。私も後で何か錬成しようかなー」
お母さんは多分、なるべく便利で使える物を持ってくるのは禁止だけど、こちらで錬成して立ち回る分にはある程度融通を利かせてくれたのかも。
「でもここまで自律機能を持たせたスライム良く錬成できたね」
「ん、それはこの錬成釜のおかげ。魔力が余りにも流しやすくて思いのまま調整できたから頑張った。スラタロウは命令通り正確に動くし、ティナが知ることなら命令に組み込める。『シロ姉の頭の上に飛び移れ』」
ティナがそう口にすると、腕に抱かれていたスラタロウがこちらへ顔を向ける。ん、顔?
スラタロウを良く見ると楕円形のボディの上に小さな突起二つ、顔は可愛くデフォルメされた狐のように見える。鼻先が少し出ているのが特徴的・・・。
「わにゃ⁉︎」
ティナがスラタロウへした命令に対する行動より、その形姿の方が気になって観察してしまった。
それを隙だと言わんばかりにスラタロウは私の頭の上にすごい勢いで飛び移って来た。
その際、私はそれなりに仰け反ったりしたのだが、頭の上のスラタロウはぴったりとくっついたままだ。
「こんな感じでティナが“シロ姉”と呼んでるから命令出す時も“シロ姉”でちゃんと伝わる」
「それは分かったから、この子退かしてくれないかな?耳がスラタロウに取り込まれて変な感じがする!」
今まで感じた事ない感覚で尻尾の毛を逆立ててしまう。耳がこう、微妙に粘着がある生ぬるい液体に包まれて、とてもゾワゾワしている。
「なるほど、『これからはティナと家族の耳に触れない事』。ん、よし」
「よし、じゃないよ!耳は取り込まないように避けてるみたいだけど、頭の上でぬべーって広がって帽子みたいになってる!」
「でもシロ姉、前に帽子欲しいって言ってた」
確かに耳に干渉しない帽子が欲しいと言ってた時あったけれど、かぶりたかったのは決してスライムでは無いんだよ・・・ティナ。そろそろおいたを辞めさせなくちゃ。
「ふふっ、ティナったら、お説教が必要?」
「んっ⁉︎『スラタロウこっちに!』」
焦ったように手を私の方へ伸ばし、ティナはスラタロウを呼び寄せて回収する。
「はぁ・・・ティナ、悪戯も程々にね。それと、眠かったら朝ごはん食べて少し寝たらどう?私はリタに声かけに行くから」
「ん、そうする。けどその前にティナもリタ姉のとこに行く」
そんなこんなで私はティナとスラタロウを連れ立って隣のリタのアトリエへ向かう。
本当は早く注意した方が良いんだろうけど、ティナが錬成したスライムを見て、リタが何を作ったか楽しみだったりする。
「あ、お姉ちゃんとティナだ。いらっしゃい」
「リタも朝までずっと?」
「ええ、いつの間にか朝になってたわね」
リタも徹夜だったようで、どうやら初めてのサルザードでの夜は、三姉妹全員悪い子になってしまったようだ。
「まあそれはいいじゃない。それよりティナ、夜中に話した通り勝負するわよ」
「ん、受けて立つ」
「???」
唐突なバトル宣言。
リタとティナは一体何を夜中に話していたのか、それは実験スペースで明らかになる。
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