第十二話 何だか前にもあった気がするよ

「はあ、今日一日で色々あったなー」


 私は見るからに高級そうなベッドに身を投げ出し、弾む感触を全身で受け止める。

 私が寝返りを打つと、そこには見慣れぬ天井が広がっている。

 サルザード初日の夜、既に就寝していてもおかしく無い時間なのだが、全く眠気が無いので今日の出来事のことを思い浮かべていた。

 サルザードに来てからのこと。

 新しく出会ったすごい人たちのこと。

 そしてお母さんが出した最後の課題とアンディさんからの提案のことを。



・・・



「シロネさん少し相談したい事がある。食事が終わったら場所を変えて話せないだろうか?」


 マスターアルケミストであるバレッタさんのお手製手料理を味わい、特上だというミノタウロス肉を食べて踊り出したくなる衝動は、お母さんが発表した最後の課題の内容に吹き飛ばされた。

 それは一割の才能ある努力家の錬金術師しかなれないグレイテストアルケミストになるように言われた事。これにはリタとティナと共に目指すことを決意し、期待に応えたいと思った。

 ただそれだけなら良かったのだが、とんでもないことに機能美に優れた錬金術師のための、お母さんが用意させたこの豪勢な家は、私達が働いてお金を返さなくてはいけないことになったのだ。

 これも課題の一つと言うけれど、金貨百万枚という見た事も想像すら出来ない途方も無い金額は、私の頭の中を真っ白にさせた。

 そんな時だった。今まで必要ない時は一言も喋らなかったアンディさんが、私の目を見て話しを持ちかけてきたのは。

 食事を終えた後、私とアンディさんは家から出て裏庭で話す事にした。


「呼び出しに応じて頂きありが、」

「待ってください。あの、気のせいなら申し訳ございませんが、ここには私しかいないので話しやすいようにして頂いて結構ですよ?」

「・・・なら、お言葉に甘えさせてもらおうか。けど何で分かったんだ?」

「何だか少し話しにくそうにされていたのと、先程話し合いに誘って頂いた時、自然に口調が少し変わったと思いまして」

「そうか、なら後で親父に怒られそうだな」


 どうやら元の仕事先では自然体で過ごしていたそうですが、引き継ぎ作業してサルザードに呼び出された時、デニムさんが恩人に会うからと口調を指摘され、矯正されていたそうだ。


「まあそれは良い。それで課題について色々手助け出来るかもしれないから相談したくて呼んだんだ」

「ほ、本当ですか!私、お母さんからの課題を言われてまず何をすれば良いか分からなくなって・・・」


 錬金術師ギルドの依頼をこなしていき、腕を磨けばいずれグレイテストランクまで行けるとは考えていた。

 だが、毎月金貨三千枚も払いながら過ごすとなると、どうすれば良いか全く見当がつかずにいた。


「ああ、だから相談、いや儲け話のプランを聞いてもらいたくてな」

「儲け話・・・はい!やります!」

「なあ、もっと人を疑った方が良いぞ?サルザードは犯罪取り締まりが世界一厳しい場所だから、怪しい奴が少ないのは確かだけど警戒して損はない」

「うーん、それは確かに・・・でも取り締まりが一番厳しいって何があるのですか?」

「ああ、それはな・・・」


 アンディさんから聞いた話しによると、サルザードには黒纏くろまといと呼ばれる名前の通り黒い服を身に纏って顔も見せない人達が犯罪者を取り締まっているらしく、犯罪をした者の側にいつの間にか居て捕まるそうだ。普通に怖い、ホラーかな?


「まあ犯罪行為さえしなければ関係無いからそれは良いだろう。それより儲け話についてだが、ポーションは大量に作れるか?」

「ポーション?それなら得意だよ。素材さえあればいくらでも錬成できます!」

「ほう、それは頼もしい。実はサルザードに来た時、親父から何をさせられるのか聞かされていてな。付近の村に薬草をかなりの量運ばせて保管しておいたんだ。それを全て渡す。ポーションにしてくれたら、ほぼ売値から薬草の金額を引いた額渡そうと思ってるんだが、どうだ?」


 確かにそれなら私達はかなり得をする。だけどアンディさんに何が得があるのだろうか?


「ここでポーションは不変の売れ筋商品だ。それを定期的に出す事で客寄せに使う。それに協力関係である君達が活動しやすくなる事は、最終的に俺の利益にも繋がるからな」


 なるほど、ポーションは売りにしつつ一気に稼ぐために出すのではなく、お客様にポーションがあるのでは?と足を運ばせるために使うんだね。

 そして私達は色々開発するための資金を得る事で色々作れて、それが売れればアンディさんのとこにお金が入ると。


「アンディさん、商人さんなんだね」

「元から商人だが?」

「ふふっ、そうだね。私が、私達も頑張るから。よろしくお願いしますね、あいぼうっ!」

「あ、相棒?」

「だって私達、多分アンディさんの協力なければ課題の達成できないよ?」

「・・・そんな事堂々と言うな。はあ、分かった。後日君達がそれぞれできる事を聞いて商売になりそうな事を考えるから、今は錬金術師ギルドの方に集中すると良い」

「ありがとうございます。アンディさん!」



・・・



 アンディさんのおかげで課題を合格させるためにある程度の道筋が見えた。後は私達が頑張ってアンディさんの役に立ちながら課題をこなすだけ。

 頑張って、毎月金貨三千枚を・・・あれ?それだけだと年に三万六千枚。約二十八年近く掛からない?

 まずい。本当にどうにか稼ぐ方法を自分達でも模索しないと終わらなさそう・・・。


「まあ明日にでもアンディさんに相談して考えてこう。やるしかないんだから」


 時計を見たら既に日付は変わっていた。

 あんまり遅くなると今日一日に響くかもしれないから、早く寝ることとしよう。






 あれ?全然寝れる気しないんだけど・・・。

 目がパッチリ冴えちゃって眠くないよ。

 一週間前も同じような事あった気がするけど何でこうも大事なとき寝れないのかな。

 もしかして私って子供っぽい?

 気になったり楽しみな事あると寝れなくなる的なアレなのかな。




 こうしてシロネの長い夜、朝まで一睡も出来ずに起きている事となる。

 そして、原因のヘレナはバレッタの家で晩酌をして、そのまま寝ているのであった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る