第七話 衝撃の事実。忘れ去られた時間
あれから一週間の時が経ち、シロネ達一行の姿はシャンスティルの魔道列車の駅、サルザード行きの列車の中にあった。
シャンスティルの魔道列車の駅はあまり広くないが、いつもなら人混みで通れなくなるほど混んだりしないホームに、見送りの人集りが出来ていた。
「シロネちゃん達、頑張れよー!」
「応援してるからー!」
「いつか遊びに行くねー!」
「シャンスティルから黄金の輝きが失われた」
「シロネちゃーん、愛してるぜー!」
「おい!あの不埒者を捕らえよ!」
「「「おーーー!」」」
いつもの何倍も騒がしい駅、シロネ達はその騒がしいシャンスティルの住民に見送られ、サルザードへと旅だった。
「すごい人数だったわね。貴方達のためにあれだけの人が来てくれてお母さん嬉しいわ。まあ変なのもいっぱい居たけど・・・」
「ん、あれはディーニア三姉妹ファンクラブ。会員約三百人。七、八割はシロ姉のファン」
「何それ⁉︎私知らないんだけど!」
シャンスティルに十八年、人生とほぼ同じだけ過ごして来た故郷で、自身に謎の追っかけができていた事に驚きを禁じ得ないシロネ。それに同意のヘレナと、知っていたとばかりに澄まし顔のリタで反応が分かれた。
「・・・・・・一体いつからあるの?」
「六年前ぐらいのはず」
(うわっ、結構前からだよ。恐い・・・)
「その、何で二人はファ・・・そういうクラブがあるの知ってたの?」
「直接会ったから。元々はシロ姉に告白しようとしてた連中だった。ティナとリタ姉にシロ姉の好みとか好きな物とか聞いて来たりして、あまりにもしつこくて鬱陶しいから妹に聞く様な女々しい奴は好みじゃないと伝えて蹴り飛ばした」
(毒舌な上に手も出しちゃったよ・・・。蹴りだけど。それに道端で想いを伝えてくる人以外もそんなにも居たの?)
「すると面白い事に反応が分かれた。それでもシロ姉に玉砕されに行く者、ティナやリタ姉の下僕になる者、そしてシロ姉を陰から見守る追っかけが誕生した」
「何で⁉︎」
(前は、まあ分かるけど・・・、後の二つ何!)
「下僕になった人達は新しい扉を開いてしまった。まだ幼いティナ達に罵られながら鳩尾からハイキックと決められておかしくなった」
(ああああ聞きたく無い聞きたく無い!大事な故郷の思い出がぁ・・・こわいよー帰ったらどんな顔して街を歩けば良いの?おかしな目的で妹二人に近づく人を蹴れば良いの?でもそれだと私も同じに・・・あわわわわ)
「そしてシロ姉の熱烈なファンは駅にいた過激な人達で、ティナ達の相応しくない、の発言が効いたけど好きという感情が抑えられず、追っかけては陰から見守るようになった変人。よくシロ姉に手を出そうと考える不埒者を取り締まってる」
(え、もしかして、たまに街で感じる妙な視線や気配ってストーカー⁉︎それにリタやティナに蹴られてなった変人⁉︎ヤダナニソレコワイコワイコワイ・・・・・・)
ティナからもたらされた衝撃の事実に、シロネは冷や汗と鳥肌が止まらない。
「まあファンクラブには当然、普通に推しで入る人が多いんだけど、」
(もうシャンスティルに帰りたく無いモドラナイ。シャンスティルコワイ)
シロネにはもうティナの声は届いていない。あまりにも一度に心へ掛かったストレスの負担のせいで意識が朦朧とし始めたのだ。そしてそのまま意識が途切れる。まるで考えるのを辞めて全て放り投げるように。
・・・
「あと少しでサルザード着くって。シロ姉、起きて」
「いつの間に・・・、サルザードって、すぐ着くんだね!楽しみだな〜」
「え?」
「早くサルザードで暮らしたいね」
「シロ姉?」
「そうだ。部屋の模様替えどうしよっかな〜。一体どんなのがあるんだろうね〜」
「シロ姉が変だ!リタ姉、ママも起きて!」
・・・
「それで、どうしてシロネはその、こう頭にお花畑が広がった様な子に・・・」
「自分の娘に言う表現じゃ無いわね。まあまさしくぴったりなんだけど」
「あははー、あ、このお菓子おいしー。ティナ、はいあーんして」
「んっ⁉︎あ、あーん・・・」
どこか気が抜けてても、ちゃんとしっかり者のシロネだったのに、今ではその面影がない。それを見た三人は内心とても焦った。
「ちょ、ちょっとどうするのよ」
「ん、早速雲行きが怪しくなるの、流石ティナ達」
「そもそもティナの大暴露のせいでしょ、これ・・・」
「ん、だって聞かれたし。本当の事だし。まあファンクラブのごく一部の変人を多数居るみたいに誇張したのは認める」
「貴方達、責任は兎も角、今はシロネを元に戻す方法を考えなさい」
お菓子を食べてニコニコしてるシロネの目の前で三人は話し合う。
ヘレナは、このままシロネがサルザードに行く事に不安を感じていた。リタとティナに解決方法を探らせても、絞め落としたり叩いて直そうとしたりと碌な案が出てこない。
「ちょっとやめなさい二人とも、多分シロネには効果ないわよ?・・・はぁ仕方ない、これを使いましょう」
蛮行に走ろうとする二人を止めて、ヘレナは最終手段として自身のアイテムボックスからあるアイテムを取り出した。
「気付け薬(失敗作)!これは丸一日眠らずに作業出来る様な強力なのを錬成しようとしたら、強烈すぎて意識が一瞬吹き飛ぶと共に、小一時間丸ごと記憶が失われるけど元気スッキリ!眠らずに作業できる薬が出来上がったのよ」
「何よそれ、危険じゃない!」
「ん、錬金術あるある。効果を高めすぎた結果、別の強烈な効力が付与される」
「でもこれぐらいしないと心が傷ついたシロネを助けてあげられないわ!」
「母親なら真摯に向き合ってメンタルケアを図るべきじゃないかしら⁉︎」
「ん、問題解決でどんな事もアイテムに頼るあたり最高に錬金術師してる」
「それは最高の褒め言葉ね。よし、時間も無いし飲ませちゃうわね。はいシロネ、これ美味しいから飲んでみて」
「わーい、お母さんありがとー!・・・・・・んぐっぅ!・・・ん、あ、あれ?お母さん、それにリタとティナもどうしたの?」
元気よく少量の気付け薬(失敗作)を飲んだシロネ。すると本当に一瞬、白目を剥いたと思ったらすぐに立ち直り、自分を見つめる三人を不思議そうに見つめ返した。
「うーんと、何なに?みんなどうしたの?」
「シロ姉、今日どこまで覚えてる?」
「え、今日?確かえーと、シャンスティルの駅に着いて列車を待ってて・・・あれ?いつ私達列車に乗ったの?」
「お、お姉ちゃん、とっても疲れてたみたいね。寝入ってたから私達で運んでいくことになったのよ」
「えー!何それ恥ずかしいよ。あっ、それに見送りに来てくれた人がいたら寝顔が見られて・・・あれ、見送り?見送り・・・何か違和感が、」
「シロネ、それはもういいでしょ。それよりもうすぐ到着するわよ?」
「わ、ほんとだ。ここもうサルザードの駅だよ。停まる前に降りる準備しなくちゃ。二人とも、忘れ物ないかちゃんと確認してね」
妹の二人に注意して周囲に落とした物がないか確認するしっかりとしたシロネを見て、三人は一つ頷く。これは成功したと。
そうこうしている内に魔道列車は完全に停まった。そして駅に降りただけでも分かる。シャンスティルとは比べ物にならないほどの人が、迷宮都市サルザードに集まっている事が。
未知、そして沢山の人との出会いが三姉妹を待っている。
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