第八話 迷宮都市サルザード
シロネがサルザードに訪れて一番初めに思った事、それはシャンスティルでは見たこと無い程、予想よりも大勢の人達がサルザードに集まっている事に驚いた。
(事前に調べてはいたし、色んな人に尋ねて教えてもらったけど、ここまですごいなんて想像できなかった・・・)
サルザードで活動する様に言われてから一週間の間、シロネは冒険者や商人に尋ねてサルザードを調べていた。
そして分かったことと言えば、迷宮都市サルザードはダンジョンが三十個近くあり、それを目当てに世界各地から冒険者が集まること。その冒険者達のため、または純粋に実りのある商売のために多くの商人が存在すること。そしてシロネ達のような生産職や職人の人達が活躍できる場だと聞いていた。
そして殆どの人が口を揃えて言うのは、世界で一番注目されている熱い場所だと言った。シロネはこの光景を見て納得した。あまり他の街を見た事ないけど。
「ここには知り合いが大勢居てね。その中でも数人は最終課題の関係者だから、まずその人達に挨拶に行くわよ。・・・って何を見てるの?」
「・・・・・・・・・お母さん、何あれ?何でポーションが銀貨四十枚もするの?シャンスティルでは高くても二十枚だったのに・・・。他のも高いしどうなってるの?」
この街に慣れているヘレナが先導して、一行は人波に飲まれない様に移動していたのだが、シロネがあるものを見つけて足を止めた。
シロネが指した先には、店の前に立てられた看板が一つ。そこにはポーションや探索で使う道具などが書かれており、内容から店が何を取り扱っているか案内するために立てられたものだと思われる。
ただシロネが気になったのは、商品と一緒に書いてある値段がどれもこれもシャンスティルと比べると高く、何故こんなに高いのか理由が分からず疑問として口にしていた。
それにはリタとティナも、シロネと同じく分からない様で、ヘレナの方へ視線を送って返答を待っている。
「あー、後で説明しようと思ってたけど、これはシャンスティルとサルザードでは市場に求められる物が違うから価格も変わるの。周りを見ても冒険者が多い事が分かるでしょ?」
ヘレナが言った通り、周囲には多くの冒険者が居た。
中でも数人、血眼になって店頭で売っている物を確認しており、先程シロネが話題にした店、ポーションが売っている店を見つけると突撃する様に店に入って行った。
「あんな感じでサルザードの冒険者にとって、ポーションは砂漠地帯の水みたいに貴重な物なの。求めるてる人は多いのに供給が間に合っていないのが原因ね」
「え、でもサルザードって錬金術師それなりに居るんだよね?」
これだけダンジョンが多くある土地なので、冒険者が持ち帰ってくる素材の種類も数えきれないほど多い。
それを求めてサルザードにやって来たり、定住する錬金術師はかなり多いとシロネは聞いていた。
「何度か言ったことあるけど、錬金術師には好奇心の塊みたいな人が多いの。だからサルザードに来ると素材、いや錬金術の材料が沢山ある事に目が眩んで自分の研究しかしない人が多いのよ」
「あー・・・」
シロネは後ろにいるリタとティナを見た。
「そうね。残念ながら既に頭の中では探究心でいっぱいよ。ポーションなんか錬成して魔力を使いたく無いわ!」
「ん、ここにあるの見たことない物が多い。ティナはワクワクしてる!ポーションなんて知らない」
沢山の未知なる材料を前に舞い上がっている二人を見たシロネは、なるほどと納得してため息をこぼした。
「それに薬草の値段も高いのよねー。薬草は初心者冒険者が潜れるダンジョンや防壁の外にある森で取れるんだけど、取りに行く人が圧倒的に少ないのよ。わざわざサルザードに来て薬草採取なんてしたくないらしいのよね」
「その気持ち、分から無くもないけど・・・。それならポーションの大量錬成をするには、サルザードでは難しいんだね」
お得意のポーション大量錬成が活かせそうになく、シロネは肩を落とした。
「そうね。それにポーションを直接サルザードに持ってくる方が高く売れるから大きな商会は何度も自前の商人を往復させてるわ。だから、どうにかポーションが全く無いっていう状態は防げてるけど、シロネには不都合な環境よね」
(こういうところもシャンスティルとは全く違うんだ。シャンスティルには、品質に差はあれどポーションなんて溢れるほどあったのに。なら今回の課題、その場所にあった錬金術を身につけるっていう事がお題だったりするのかな?それとも、どうやりくりするか考えさせたりとか・・・)
色々考えるシロネであったが、この後に課題の内容も教えてもらえるだろうし、いくら考えても答えが出ない事は分かっているので今はサルザードの事を少しでも知ろうと周囲に視線を向ける。
(よく見ると道具の類は高いけど、魔物の素材はシャンスティルより全然安い。これもダンジョンという産出地ならではってことよね。リタとティナも気付いたのかな?今まであまり取り扱う機会が無かった魔物の素材が使えそうだから、どんな物があるのか興味津々ね)
駅から歩き始めてから三十分ほど、シロネ達は、より一層大勢の人が集まる場所まで来ていた。ここに集まった人の大半はある一点、周りと比べても飛び出るほど大きな建物に向かっている。
「ここが第一目的地のウォーリス商会。貴方達がサルザードで活動する場を整えてくれた人が居る場所よ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます