第三話 誰かの為に
リタとティナが姉へのプレゼント作りを始めて、既に一時間以上の時間が経っていた。その間、シロネは二人の好物であるミートパイとクリームシチュー(野菜ごろごろ大盛り)を作り終え、配膳をしていた。
「う〜ん、良い匂い!ここ最近、お母さんの代わりに料理する機会が増えたのか、上手く作れるようになった気がする」
料理の出来に満足したシロネ。
彼女が言ったように料理以外の家事は日常的に手伝いはしていたものの、最近では忙しく外で働く母親の代わりに料理する機会が増えた。
前までは三姉妹で外食に出掛けて済ませていたのだが、リタとティナが肉ばかりを食べるのを問題視したシロネ。
文句を言いたくても自身のお小遣いで購入しているのでやめさせるのは難しい。
そこでシロネは、錬金術をする時間を大事にして、他に割く時間を惜しむ二人の事も考えて良案を思いついた。
「あの子達には錬金術してもらって、その間に私が野菜入りの料理を用意する。うんうん、二人は錬金術をする時間を多く確保できて、私は二人に野菜を食べさせる事ができる。うぃんうぃんってやつだよね。あれ?」
何か違うような気がすると疑問に思ったが、それよりも・・・。
「まあ二人が健やかに育ってくれれば何でも良いかなー」
自分より妹達を優先して行動するシロネにとって、二人が健康的に過ごしてくれるのなら自らの苦労なんて何も問題にならないのである。
「あ、いけない。冷める前に二人を呼んでこなくちゃ。食べてもらうなら美味しいうちが良いよね」
シロネは二人を呼びにアトリエへ向かおうとダイニングから出ると、丁度目的の二人が廊下の奥からこちらの方へ向かって来ていた。
「あれ、珍しいね。呼びに行く前に二人がアトリエから出てくるなんて」
「錬金術、キリが良かったし、そろそろ料理出来てる頃かなーって。今日お姉ちゃんのミートパイだから楽しみにしてた」
「ん、シロ姉の料理楽しみ」
「ふふっ、ありがと。ん?リタ、その手に持っているのは?」
「あー・・・、まあこれは後でね。それよりも早くご飯食べたいな」
「お腹ぺこぺこ」
(何だったんだろう?プレゼント用の包装みたいなのされていたけど・・・)
気になることは結構気にしてしまうシロネであったが、二人が早く食事したそうにしているので後で聞く事にする。
「やっぱりお姉ちゃんのミートパイ、すっごく美味しそう!」
「ミートパイ〜」
二人は料理が並べられたテーブルの席に着くなり、大きなミートパイをちゃんと切り分けながらパクパク食べ始める。
「今日のは会心の出来だよ。自炊し始めて何度も作って来たからね。二人ともどう?」
「とっても美味しいよ」
「おいしー」
二人の反応を見たシロネは、さらに満足気にうんうんと頷く。
やはり誰かの為に作った料理がどれだけ良く出来ても、それを食べて喜んでくれる人が居て完成するものだと改めて実感した。
誰かの為に作る物には、相手を思いやる気持ちを忘れてはならない。
これは錬金術も料理と同じ。この事を忘れないように心掛けようと思うシロネであった。
(お客様を思って錬金術するなら、品質と要望の効力は絶対、後は付加価値や値段、早く納品するとかで応えれるようにすれば良いのかな?って、あーーー!)
色々と考えに耽っていたシロネであったが、ミートパイばかりを食べ進める二人に気が付いた。
「ねえ二人とも、美味しそうにミートパイ食べてくれるのは嬉しいよ。でもシチューに手を付けてないのはどうしてかな?」
「野菜が多くて・・・」
「右に同じく。特に人参が・・・」
「たくさん食べなきゃダメだよ?おかわりもあるからね?」
二人はどうにか嫌いな野菜を避けたかったが、それをシロネが許すはずもなかった。
逃げる?それは無理だ。シロネからは逃れられない。
説得する?それも無理。シロネは二人が好き嫌いしているだけだと知っている。
ならばたたかう?・・・無謀過ぎる。シロネは
大勢の武装した成人男性を相手にしても負ける光景が浮かばない最強お姉ちゃんである。
どうにか野菜から逃れたいリタとティナは、様々な選択肢を思い浮かべたが、どれも望んだ結果にならないと思われた。
二人に残された選択肢はない。諦めて目の前の野菜が大量に入ったシチューを食べ終えるしかないのだ。
こうして二人は諦めて黙々と野菜に挑む事にする。だがせめておかわりは、お腹いっぱいという事で許してもらおうと考えるのだった。
「お姉ちゃん、ちょっと渡したい物があるの」
あれから楽しい(?)食事を終え、食器を片付けに行こうとするシロネを呼び止めたリタ。ティナは少し離れた場所に置いておいたプレゼントを取りに行っていた。
「えーとね、お姉ちゃん。いつもお父さんとお母さんの代わりに色々してくれてありがとう。これ感謝の気持ち。錬金術で作ったの。勿論二人でね」
「シロ姉にぴったりなはず。はい、これ」
「え、なになに、さっきの箱だよね?私へのプレゼントだったんだ」
「ん、本当はサプライズのつもりだった」
「食事の後、すぐ渡せるようリビングに隠しておくつもりで持って来たんだけど、まさか廊下でバッタリ会うなんてね。まだキッチンで料理してると思ったのに」
「ふふん、私だって成長しますとも。味も良くなってたでしょ?」
「「もっと美味しくなってた!」」
「良かった。まあ自信作だったからね!」
どやぁ、と胸を張り得意げな顔をするシロネを見て、リタとティナは吹き出して笑ってしまう。
「あっ、もうプレゼント開けちゃってもいいよね。開けちゃうからね!」
二人の反応から、自分が少し子供っぽい事をしてしまったと自覚してしまい、頬を少し赤らめたシロネ。
今もクスクス笑われている現状から逃れるべく、手に持っているプレゼントを開封して話題を変えようとする。
「どれどれ・・・これってガントレット?」
箱の中には前腕部を半ば辺りまですっぽり覆うような金属の籠手、プレートアーマーと揃って装着する物より頑丈そうな、黒くてゴツゴツとした金属が付いているガントレットが入っていた。
「そのガントレットは、私とティナが出来うる限りの技術で制作した最高傑作。お姉ちゃんの力でもそう簡単に壊されないわよ!」
「ん、完璧な仕上がり」
姉への感謝のプレゼントにガントレットをチョイスして贈る妹達。普通の家庭ではあり得ないような光景だが、ディーニア家では違った。
「すっごい出来だねこれ!こういうのが欲しかったんだー!サイズもぴったりだし。ありがとね、リタ、ティナ」
シロネは本当に嬉しそうに、ガントレットを抱きしめながら満面の笑みを浮かべた。
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