第二話 三姉妹の錬金術

 やる事が決まった三人は、すぐさま行動に移して自分達が錬金術をするためのアトリエにやってきていた。

 ここは師匠である母親が、三人を一端の錬金術師として認めた時に用意した場所である。

 元々倉庫として利用するために敷地の端に建てた広いだけの建物であったが、錬成釜が三つも入り、材料や完成品を収納する棚がズラリと並べられる広さがある事から、三人のアトリエとしておくのに丁度良い場所だと改装して与えたのだった。


 そこで彼女達は現在、ポーションはシロネが担当、ハイポーションはリタとティナが担当して錬金術を始めていた。

 これには役割分担を決めようとした際、向上心が旺盛なリタとティナは、なるべく難しい方を選択する傾向がある。今回も二人は、難易度が高いハイポーションの錬成を望んだため、残ったポーションの錬成はシロネが受け持つ事となった。

 この役割分担では、量が多い上に人数が少ないシロネに負担が掛かると思うのが普通だが、実は三人に取ってこの役割分担は、効率を求めるなら最適な形なのである。




「ふんふふんふふ〜ん。・・・・・・よーし完成!あとは瓶に移してっと。二人とも、そっちはどうなってるー?」


 錬金術を開始して一時間、シロネはポーション五十個を完成させて、ポーションを空き瓶へ注ぐ作業に取り掛かっていた。

 残りはリタとティナが錬成するハイポーションの方だけだが・・・。


「こっちはあと少しで終わるわ」

「やっぱりシロ姉、ポーションの錬成に関してはシャンスティル最速」

「ほんと、錬成する物に差があるとはいえ、二人掛かりでも先越されちゃうのよね」

「シロ姉は異常」

「まったくだわ」


 妹の二人は、錬成しながら姉の錬金術の異常さ加減を愚痴っていた。


「ちょっと、何で私こんなボロボロに言われてるの!?」

「だってお姉ちゃんの錬金術、見た事ある誰のよりも無茶苦茶なんだもん」

「ん、その通り」


 二人が言うシロネの錬金術。

 それは至って単純な力技、一度に大量の錬成を持ち前のと呼べるほどの魔力で無理矢理作り上げるといったもの。

 錬金術師の実力を測るなら、どれだけ沢山の種類、難しい物を錬成出来るのか、それと錬成した物の品質や一度での錬成量で比べられたりする。


 シロネは今回、ポーションを一度に五十個分をまとめて錬成したのだ。

 それは熟練錬金術師がポーションを作ったのなら良くて三十個分、師匠のヘレナだって五十個分も一度に錬成できない。

 そう、既にシロネは、簡単な物を大量に錬成するという点だけなら師匠を超えるほどの能力を持っている事になる。


 ポーションをまとめて錬成するのに、錬成釜に大量の薬草やキノコといった材料をぶち込んで錬成するシロネの姿は、傍から見ていた二人が言うように、誰も真似できないかなり無茶苦茶なものだった。


「仕方ないなー。そこまで言うならこっちにも考えがあるよ!今日の夕飯は野菜祭りにするから」

「「!?」」

「それじゃあ夕食作りに行ってくるから、二人は夕飯まで好きに錬金術してていいよ」

「待ってお姉ちゃん、ごめんなさい。私お肉が食べたいわ」

「シロ姉許して、ティナはミートパイが良い」


 謝ったと思ったら、しれっと自らの要望を入れる二人にシロネは呆れた。けど、何だかんだ二人に甘いシロネの返事も決まっている。


「わかった。今日の夕食はミートパイ作るね」

「「わーい」」

「でも野菜が入った料理も作るから、それもちゃんと食べること!いいね?」

「「うわーん」」


 甘やかしても姉として二人の面倒を見る立場であるシロネは、好き嫌いを絶対許さないのである。

 後ろで文句を言う二人を無視して、シロネは夕食を作りに家に戻っていった。




「・・・・・・お姉ちゃん、戻ってこないよね?」

「ん、大丈夫そ」


 シロネがアトリエを去った出入り口を見つめてしばらく、再び開けられる事がないのを確認したリタとティナは動き出した。

 二人はまず、既に完成しているハイポーションをとっとと片付けて次の錬成の準備、錬成釜に水を入れ、材料の鉱石と不思議な光沢がある布、そしてシロネのが分かるようにとった必要なサンプルを作業台の上に用意した。


「これ、何も知らないとホラーね・・・」

「たしかに」


 二人の視線の先には作業台の上でカサカサ動き回り、たまに鉱石を確かめるように握ったりしている腕の形を模した物体。

 その怪しい不気味な物体の正体は、ティナが錬成で一番の興味を持ち、熱心に研究しているスライムの一種であった。

 本来は人が抱えて持つ必要があるほどの大きさのスライムだったが、能力として自身に沈み込んだある程度の大きさの物の形を覚えて、今度は自身のボディを覚えた形へ凝縮して模倣するという特徴がある。

 今現在の形も、ティナが悪戯と称してシロネの不意をつき、スライムを腕に思いっきり押し付けて覚えさせたのだった。


「これ本当の腕みたいな弾力ね。でも骨のような硬さは中から感じられないわ」

「その子は接した箇所の弾力と指で押して変形しないような硬さは模倣できない」

「へーそうなの?でもまあ、今回の目的には十分な情報は揃ってるわ。ティナ、そろそろ始めるわよ」

「ん、始める。シロ姉への、」

「プレゼント作り!」


 リタとティナは張り切る。

 忙しい両親の代わりに、自分達の面倒を見て家事をこなす働き者の姉のため、二人のお礼を兼ねたサプライズプレゼント作りが始まった。





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