第一話 もふもふ三姉妹は錬金術師
私、シロネ・ディーニアは、ヘリアス王国の辺境にあるシャンスティルという街で生まれました。
シャンスティルは多くの錬金術師達によって発展し続けた街です。
近郊に観光名所と呼べるものは無いけれど、錬金術師達が造り上げたまとまりのない独特な街並みが大勢の観光客を呼び、それに加えて錬成物が安く大量に手に入る事から、多くの商人が商売のために訪れます。
シャンスティルは、人々から錬金術の街と呼ばれるほど有名だそうです。
そんな場所で育ち、幼少期を迎えた私と二人の妹は、様々なものを作り上げる錬金術に興味を示し、自分もやってみたいと憧れて錬金術師になる事を夢見ました。
だから私達姉妹は、錬金術師であるお母さんに頼み込み、錬金術を教わりながら育つ事となります。
そして十八歳になった私と、三つ下の妹達はちゃんと錬金術師として成長するのでした。シャンスティルでも色んな意味で有名な錬金術師三姉妹として、ですが・・・。
◆
雲一つない晴れやかな空の下、沢山の人が行き交う大通りの中で、特に目立つ三人の少女がいた。
少女達は、つやのある綺麗な金色の毛髪を持ち、頭には狐のものと思われる大きな耳と腰の後ろに大きな尻尾が生えている。これらは金狐族の獣人の特徴であり、その自慢の金色は陽光を浴びてより輝いていた。
そんな目立つ彼女達は今、大通り脇に並ぶ屋台を覗く事に夢中になっており、無意識なのか、フリフリと揺れ動く尻尾や時折ピクリと動く大きな耳はとても愛らしく、大勢の道行く人の人目を引いていた。
「あ、ねえねえリタ、これ前に欲しがってたルビナイト鉱石じゃない?」
「わっ!すごい品質が良い物じゃない!・・・・・・けど、今のお小遣いの残りじゃ到底手が出せないわ・・・」
「あはは、ちょっと前に鉄をいっぱい買ったもんね。それとティナ、ずっと魔石選別してるけど、本当にそんないっぱい買うの?」
「ん、ここにあるの安い。良い物も多いから買い込んどく。シロ姉も欲しいの買うべき。リタ姉は無駄遣い控えた方がいい」
「うるさいわね!ティナには言われたくないわ!」
「ちがう、ティナは必要な時か得する時に買い込むだけ。無駄は無い」
「何をー!」
「ちょっと二人とも人前で、それも店の真ん前で喧嘩しないの」
三人並ぶとギリギリの広さの屋台の目の前で突如始まった言い争い。三姉妹の長女であるシロネは慌てて双子の妹達、次女のリタと三女のティナの喧嘩を収める。
「がっはっは、相変わらず嬢ちゃん達は仲が良いな」
三姉妹の様子を商品越しに眺めていた屋台の店主、休暇中に戦利品を売り捌くため、たまに店を出している中年の男性冒険者は大声で笑った。
「おじさん、騒がしくてごめんなさい。ほら、二人とも」
「「ごめんなさい」」
「なぁに、別にかまいやしないさ。むしろ目立ってくれた方が客付き良くなるしよ」
「?」
「嬢ちゃん達は色んな意味で有名だからな」
「よく分かんないけど、聞かない方が良い気がする・・・」
「はっはっは」
それから店主も交え、何も取り留めのない話をしばらくして三姉妹は屋台を後にする。
その際、店主はサービスで色々安くしてくれた。シロネは何も買わなかったが、リタはシロネから少し出してもらい欲しかった鉱石を、ティナは大量の魔石を購入して帰路に着いた。
「お母さんただいま」
「「ただいまー」」
「あら、おかえりなさい」
三姉妹が帰宅すると、玄関には出掛けようとしている三人の母親であり、錬金術の師匠のヘレナ・ディーニアがいた。
「お母さん、どこかに出掛けるの?」
「そうなの、錬金術師ギルドからの緊急の依頼で隣街の問題解決に駆り出される事になって。悪いけど、今日中に帰って来れないかもしれないからポーションを錬成して納品頼まれてくれない?詳細はリビングに置いてある紙に書いてあるわ」
ヘレナは錬金術師の街と言われるシャンスティルでも凄腕と有名で、錬金術師ギルドから指名依頼が来るのも珍しくない。
三姉妹はすぐに、いつもの忙しい母親の出張だと理解した。
「それじゃあ行ってくるわね」
「「「いってらっしゃい」」」
急いで去っていく母親の背中を見届けて、三人はリビングに置いてあるという紙の確認に向かった。
「えーとなになに、錬金術師ギルドの依頼で隣街に行って今日帰って来れないのは聞いた通りだわ。それと、ご飯をちゃんと食べてしっかり寝るのよ、って何よこれ」
「二人とも、お母さんとお父さんいないと錬金術ばっかりしてアトリエから出てこないじゃない。お母さんが注意するのも当然だと思うけど?」
「そ、そんな事無いわ。ねえティナ?」
「ん、問題ない」
(何回もその返事聞いてるけど、お父さんとお母さんがいないと錬金術以外、ほんと適当になるのよね、はぁ・・・。私が気に掛けながら注意していくしかないかな?)
「本当にお願いね二人とも、それで依頼の方はっと、冒険者ギルドにポーションを五十個、ハイポーションを三十個だって。うわー、すごい量だけど納期は明日の昼まで、結構急ぎなのね。あ、でも報酬は三人で好きにして良いらしいよ?臨時収入だよやったね!」
「報酬美味しい。依頼も三人でならすぐ終わる」
「そうね、今日中に片付けてやるわ!これで今日、お姉ちゃんが出してくれた分返せるわね」
師匠であるヘレナは三人を錬金術師として認めているが、まだ人の手に渡る物は制限をかけており、三人が自分達で依頼を受ける事を禁じている。
そのため三人は、お小遣いとヘレナが持ってくる依頼の報酬しか自由に使えるお金が無いので、今回のような大きな依頼は大変喜ばしいものなのである。
「うんうん、よーしそれじゃあ三人でちゃちゃっと片付るよ!えいえいおー!」
「「おー!」」
三姉妹は若くても立派な錬金術師。
今まで一緒に育ち、お互いの錬金術の得意不得意も全部知るほど共に成長し、信頼し合っている。
今回の急ぎの依頼も、これからの苦難も三人でなら、きっと乗り越えられるだろう。
現在、シャンスティルの錬金術師の中でも勢いのある三姉妹は、シロネの掛け声に元気よく応えたリタとティナの声と共に、三人は動き出した。
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