第0.7話 高みの見物


 『たがが外れた者の道』、この日本にはそう世間から呼ばれる組織が存在する。GSWゲヘナスプリッションウォーリアーズ。この組織が何のために存在するのか、開智自身もまだこの時は真実を理解していなかった。




**********




 2020年4月、この時期は人に変遷が多く訪れる、新学期、進級、受験、就職、人に多く転機をもたらす時期だ。そして開智もまた新たなる人生を歩もうとしている。妹である泪奈にすべてを捧げることを誓った瞬間だ。


 GSW本局東側タワーのとある一室、GSWを主張する白いオーバーコートを身に纏い、赤黒いワインを口に運ぶ男が、ビルの入口に集まる新入隊の者たちを高みから見物している。

 するとその部屋の扉がノックされる。男は「入れ」と指示する。扉が開かれると、同じ白のオーバーコートを身に纏った若めの女が敬礼をし、次のように告げた――、


「柴崎隊長、本日十三時に隊長会合が第1会議室より行われます、いかがいたしますか?」


 柴崎と呼ばれた男は部下にそう告げられると、そちら側に振り返る。紺色の整えられた頭髪に黒縁眼鏡、何の違和感もないような男に見えるが、それは片目に隠されていた。右目は固い物体で突き刺されたかのような痛々しい傷跡が残っている。無論右目から光は感じられず、完全に視力という概念を失っている。

 

 柴崎は部下の問いに対し、若干の迷いを見せた。それは嫌悪感だ。


「南雲、奴はその会議に出席するのか?」


 『南雲・・』、その者の名を呼ぶ際の柴崎の表情は一段と険しさを増した。

 部下は柴崎の返答に対し、即座に対応を見せる。手に持っていた資料をペラペラと捲り――、


「佐藤隊長は十二時よりエリアへの緊急任務があるとのことで、出席されません」


「そうか、なら構わない。出席としておいてくれ」


 その言葉を受け、部下の女性は「承知いたしました」と残し、深々と頭を下げ一室を後にした。

 再び一人となった柴崎は再度ビルの入口へと視線を戻す。そこには最後尾で試験会場へと向かう開智の姿があった。


「フッ、久しぶりの新参者共が、どの程度やれるのかじっくりと見させてもらおう――」


 柴崎の左目からは殺意すらも感じられる強い眼差しが、開智へと向けられていた。


 

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