モザイク技法 或いは一つの散逸

ポケット裏の天道虫てんとうむし

人知れず背中を割って

今日も何処かに翅撃はばたいている


運命の紅茶を飲んで

頭の中は滂沱ぼうだの涙

ああ 大海に浮かぶかもめの死骸


独り身の魔術師が椅子を蹴り

自分の影に怒鳴りつける……

 罰せられなくてはならぬ!

 罰せられなくてはならぬ!

一瞬の透明な間隙を突いて

他人ひとの過去を盗んだためと云う


乱舞する狂気に項垂うなだれながら

駱駝らくだの群れが慢心の泉を探している

生命いのちの軋みに耳を痛めて

方向の感覚が眩暈を友にズレてゆく


飛び盛る鳥に放った倦怠の矢を

真実を落とした哀れな未来が

咥えて歩いているのを見る僕に

残された時間は黒猫の額になり

螺旋の風にゆらゆら揺れて


止まる


(ライラックの花には磨滅した尊厳

 蜈蚣むかでの姿で喧しく滑り込む)


接吻で別れた二人のような

昔ながらの砂時計

それは何とも奇妙なほど

寂しい色に輝いている

……の麗らかな天道虫を

孤独な頭にいただきながら。


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