第15話:名誉挽回
「手伝えることだなんて、あんたたちには頼めないよ」
リッカはとても困惑していた。
「そうだそうだ‼ 今まで散々無視してきたくせに都合のいいこと言ってんじゃねーぞ‼」
リッカの言葉を皮切りに、オネストホースの人たちが騒ぎ俺にヤジを飛ばし始めた。そして小物が次々と投げられる。
「お前ら黙りな‼」
リッカがその場を収めてくれた。
「リッカさん、俺、何も知らないままこんなこと言ってしまってすみません。何があったか教えてくれませんか」
「わかったから、一度店を片付けよう。手、離してくれないかい」
どうやら俺は、いつの間にリッカの肩を掴んでいたらしい。
片付けを共にし、俺とエリはリッカと向かい合うようにカウンターに座った。
「あんた達、この街は見て回ったかい? 人っ子一人いなかっただろう」
「……そうですね」
「ハハッ笑えるだろう? 戦争が始まるのは別に良かったんだけどね、今回はよりによってメタリアとだ。もう商売上がったりだよ、なんせメタリアはメデル一の友好国で、一番の商売相手だったからね」
リッカはポケットから何かを探し始めたが、見つからなかったのか溜息をついた。
「かと言ってそれだけで店が潰れるほどうちらはやわじゃない。ここから一番近いサーズっていう国ともやり取りはするし、国内だけでもそれなりの需給はあるんだ」
「もしかして、軍が何かしたんですか?」
エリがすでに確信しているかのようにリッカに質問した。
「あんた達に言うのもはばかれるけど、そう……ね、ここ最近この街周辺にモンスターが出るようになってね、普段は傭兵が対処してくれるんだけど、国が高給で兵士を募集し始めてからみんな出て行っちゃって対処してくれる人がいないの」
リッカの声のトーンがだんだんと小さくなっていく。
モンスター、あの黒い化物のことだろうか? 俺は人の形をした黒い化物との戦いを思い出した。
「始めの頃はね、給与がそんなに変わんなかったからうちら商会たちも給与を上げて人を呼び戻してたんだけど、そしたら国はさらに上の給与を提示して兵士を募集したのよ。そこからいたちごっこが始まったかと思ったら国はうちらを馬鹿にするような高額な金額を提示したの。んでこの街の傭兵はすっからかん、何もできなくなってみんな引きこもったってわけ」
「そんな、あんまりですっ! 傭兵の人たちは……人情も何も無いんですか⁉」
エリが体を震わせてリッカの話に怒りを見せる。
俺はここまでの話を聞いてだいぶ前にフィアンカが言っていたことの詳細が把握できたくらいの感想しかなかった。でも確かに、このやり方は確執を生む。
それよりも化物に対するリベンジに心を燃やしていた。
あの時はエリに助けられて終わったからな……。
するとリッカがエリの思いを否定した。
「おっと、それは違うよエリちゃん。みんなお金が欲しくて働いているの、金がよりもらえる方に行くのは当然のことよ。引退間近のおじいちゃんだけど残ってくれている人はいるし、それにそこに関しては私たちは怒る義理もないもの」
「えっ?」
「私たちが怒っているのは国よ。このような緊急事態だってのになにも対応してくれないんだもの。あんだけ高い税金を払ってたってのに見捨てるような真似をして…… 民あっての国ってのをわかってないわ今の代表は」
一通り喋り終えたリッカは一呼吸してため息をついた。
そしてこのタイミングで、スキンヘッドの男が俺たちに水を持ってきてくれた。
オーナーがリッカであることは先ほど分かったが、この男もそれなりの立場のにんげんなのだろうか。
水の入ったグラスを貰って、男に礼を言った。
「俺たちは、国に何度も救援の要請をしたんだが、すべて無視されたんだ。それからだ。俺たちは国を信用していない。たとえ姉御が親身にしているお前たちであってもだ」
男は捨て台詞を吐いてその場を去った。
「はぁ、またあいつがすまない。とまぁ話はこんなところかな、多分みんな同じこと思っているよ」
「リッカさんはどうして俺たちを信頼してくれているんですか?」
尋ねたのは、エリだ。
「私はミアに助けてもらったことがあるからね、後輩であるあんた達含めメルバは信頼しているよ」
リッカは可愛らしいウインクをした。
「ありがとうございますリッカさん。話は大体わかりました。街周辺に出た化物を倒してくればいいんですね」
俺は脇目も振らずに店を飛び出していた。
今度こそ、今度こそ、自分の力で戦うんだ。
この思いがずっと頭の中を駆け巡っている。ひとまず化物がいないかと街中を走り回った。
人一人いないことを再確認して俺は冷静さを取り戻した。
先ほど街周辺に化物が出たと自分でも口に出して確認したにもかかわらず、馬鹿な行動をしたと急に恥ずかしくなった。
「もう、話は最後まで聞かないとダメでしょ! それに手に剣を持ったままで何してるの?」
エリが走って俺のところに来た。
俺はエリに自分の奇行を指摘されて手で顔を覆った。
「ゴメン、チョット熱クナリ過ギタ」
「大丈夫? ふふふっ」
「頼む、笑わないでくれ」
「やーだ。リッカさんから詳しい話を聞いてきたから状況を整理しましょ」
俺は恥ずかしさで頭が真っ白になりそうになったが、そんな中でもなんとか剣を鞘に納めそれを腰に結び付けた。
エリから聞いたリッカの説明によると、どうやら例の黒い化物が相手ではないらしい。
今回の相手は追いは
追いは
「追いは
「了解」
「あ、ちょっと待って」
自分で行動を促しておいて足を止めるエリ。俺はバランスを崩し、転びそうになる。
「なんだよ……」
「私、杖で魔法使ったことないから少し練習したい」
「んー、どっちにしろ街中でやるのは危ないから、広いところに出てからにしようぜ」
「それもそうね。うん、じゃあ出発しましょっか」
追いは木がいるのはメルバとそこから東に位置するサーズという国を結ぶ道の途中らしい。林道の木々に扮して待ち構えているそうだ。
ダルテからすぐ近くにあり、ダルテから出るとすぐに林が見えた。
俺たちは林道に入る手前で立ち止まり、エリの魔法の訓練を始めた。
「ちょっとドキドキするわね」
エリは鞘に似たケースから杖を取り出した。その様は剣を抜くときとほとんど同じに見えた。
あれ、いつの間にそんなものを貰ってたんだ?
そんなことを思っているのも束の間、エリは杖を構え、目を閉じる。
流れる沈黙。
それは俺も音を出すのがはばかれるほどだった。
「ぷはぁ―!」
エリが止めていた息を吐き出す。たったそれだけ、魔法も何も変化がなくただ風がなびくだけだった。
「も、もう一回!」
また数秒、杖を構えて目を瞑る。
しかし、何も起こらない。
それでもエリは諦めずに何度も何度も杖を構えた。
そんなエリを暫く見守りつつも、俺は腰につけた鞘がどうにも落ち着かなくて背中に付け替えたりしていた。
泡が弾けるような音が連続して聞こえる。
どうやらエリは少量の水を出すことに成功したようだ。
それと同時にエリは音を上げる。
「はぁ、はぁ、もう無理。あとはミア姉と相談するわ」
「休まなくて大丈夫か?」
「大丈夫、待たせてごめんなさいね」
エリが呼吸を整えるのを確認して、俺たちは林道へと入って行った。
入って早々、木々が不自然に平行移動しているのが分かった。
追いは
「ねぇ」
「ああ」
数分歩いたところで、木々に囲まれたようだ。
馬車が通った跡でできた道の先が一本の木に続いていた。これは明らかに不自然だ。
追いは
俺は背中からゆっくりと剣を抜いた。
正直、横の腰から抜くよりも不便に感じた。
なにか落ち着かない。
せっかく手に入った自分の剣が手に、体に馴染まない。
使い始めたばかりなので当然と言えば当然なのだが、気づいたらずっと気になってしょうがないアレだ。
俺が隙を見せたからなのか、一本の追いは
俺は剣を軽く振り、軽くイメージトレーニングをする。
そして追いは
俺は誤魔化すように追いは
結果からすると余計なことだった。最初に切ったところから水らしきものが漏れ出ていて、そこから水溜まりができていた。そして追いは
偶然にも急所に当たったのだろう。それよりも、一本の木からは考えられないほどの水の溢れ方に驚いている。
これらを見ていた他の追いは
その様子を見てエリと目を合わせる。
エリはこくりと頷き、出かけるときに持ってきていた槍を構える。
そして残りの追いは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます