第12話
「だ、だまされた…」
「え~?そんな優しいだなんて褒めなくても…」
「言ってないよ!?」
私は今、なぜか魔法省の訓練室にいる。あれ?さっきまでアイス食べてたはずなんだけどな?
そんな私を横にくねくねと頬に手を当てて揺れる緑色のショートドレスを纏う少女がいる。魔法少女グリーンプリテンスだ。
「アイス食べようって話だったのに…」
「さっき食べたじゃん!それにこれは、スノウちゃんのためでもあるんだよ」
「それは、分かるけど…」
「甘い物を食べた後は運動しなきゃ!太る!!」
「あ、そっち?」
ぐっと拳を握って力説するリーテ。いや、個人的に少しくらい太っても別にいいんだけど…それに。
「私食べても太らないから…」
「え?」
むしろ下手に運動しすぎるとあっという間に体重が減っていくので少し怖い。最近は訓練とかでよく動くから食べる量も増やしてなんとか体重維持してる節もある。
「というわけであまり運動すると瘦せすぎちゃうから…」
「は?」
あれ?いつもは優しいリーテの笑顔が、形はまったく変わらないのに今はなぜか怖い。もしかして選択肢を間違えた…?
「いや、リーテは今のままでも可愛いと思うよ。むしろ少しくらい大きいほうが好みだって人も「スノウちゃん?」やべ」
今、結構頑張って可愛いって言ったのに。男が女の子に面と向かって可愛いなんて言うのはかなりハードル高いのに。いや体は女になってるからまだ言えるけども。
「スノウちゃん?」
許してください。その笑顔で覗き込むのは勘弁してください。話を、話を変えなければ。
「あっところでさ、元の体型って魔法少女になったときに反映されるの?」
「私のお腹でも摘まめば分かるかもよ?あはは!」
「ふ、ふーんそうなんだ」
あれ?もしかして話題変わってない?
「ふぎゃ!?」
「ふむ、これは中々」
リーテから聞いたことのないような声が漏れる。うんうんなるほどなるほどなどと言いながらリーテのお腹を摘まんでいるのは。
「チリィ先輩」
「誰のお腹が中々だって…?」
「おっと、言わなきゃ分からないか。それはもちろんリ」
「ふんぎゃー!」
「む、危ない」
リーテの繰り出した裏拳が氷の壁に遮られる。衝撃で砕けた氷の欠片がきらきらと舞う。
「つーいにお灸を据える時が来たね。こんのクソガキめ」
「ふ、チリィのスリムぼでぃに嫉妬するのも無理はない」
「あんたのはスリムじゃなくお子様ボディって言うのよ。去年から身長1㎝も伸びてないんじゃない?」
「ん?」
「え?」
「ふー、スノウ離れてろ。遂にチリィが序列9位になる時が来たようだ」
「やれるもんならやってみなさいよ。スノウちゃん離れてて」
「えっと、ほどほどにね…?」
元々私の発言が元になっているのでなんだか心苦しい。下手に止めても地雷を踏みかねないので大人しく見守ろうか…。
「おらー!」
「ふん!」
3者がお互いに距離を取ったところで氷の礫がリーテに襲い掛かる。始めの合図は当然の如く無い。
飛来する無数の氷の礫の間をリーテが通り抜け、時には砕き道を作る。圧倒的な物量攻撃を誇るチリィだが相手は空をも駆ける魔法少女。横だけでなく縦の空間すらもテリトリーにする彼女を捉えるのは至難の業だ。最低限の動きで氷の弾幕を抜けてチリィに肉薄する。
対するチリィも負けてはいない。礫の動きを見切られていることを瞬時に解し点ではなく面での制圧に切り替える。氷の礫が集まって出来た壁が敵を打破せんと射出される。避けるには大きく動かなければならないそれにリーテは真正面から突っ込んでいく。
「はっ!」
一打入魂に繰り出された握り拳は迫る分厚い氷の壁を叩き割り、最短距離を突っ切る。
「ならこれ」
対抗して生み出されるは氷の刃。格子状に形成されたぎらつく刃がリーテの行く手を阻む。なるほど、これなら下手に触れることは出来ない。
「なぁめんなー!」
「な!」
「おぉ!」
氷の刃の腹を両手で挟み取りまとめて頭上に放り投げる。度重なる障害をねじ伏せて真っすぐ距離を詰めていく。なるほど、触った物の重さを消す魔法。聞くだけだと単純、実際に見ても単純な魔法だけど、対処が難しい。これは魔法の性能だけじゃない。リーテ自身の格闘術もその対処のし辛さに一助している。
緩い攻撃じゃそもそも当たらない、生半可な妨害じゃ正面突破、工夫を凝らしても魔法で潰される。強いのは知っていたけどこれほどとは、序列9位は伊達じゃない。
あと1、2歩で触れられる距離まで近づいた。遠距離攻撃が主体のチリィはもはやこれまでか。という私の予想は裏切られる。
チリィは再び氷の礫を主に使い始め、なまじ距離が近いだけに礫が発射されてからリーテに迫るまでの猶予もない。避けられるより砕かれる礫の数が増えている。ゆらりと猫のように揺らめきながら蹴りやパンチを繰り出し、それに追従するように体の死角から氷の礫が矢継ぎ早に射出される。
死角からの攻撃に対処せざるを得ないリーテだが。
「ここまでね」
「むぅ」
予想外の粘り強さを見せるチリィだったけど、バリバリのインファイターであるリーテに距離を詰められた時点でやはり厳しかったのか、次第に押され続け、首筋にリーテの手が添えられて勝負は決まった。
「二人ともすごいね!いやもう、見てるだけなのに目で追いつくだけで精一杯だったよ!」
日本に142人しかいない魔法少女、その上位層同士の対決。同じ魔法少女?とんでもない。今の自分にはどうやっても真似なんて出来やしない。ここまでのモノを仕上げるまでに培った経験と努力が垣間見える。
「んーふふ、まぁね!」
「ふん」
興奮して手を叩きながら二人の元に近づいていくとリーテが照れくさそうに笑った。チリィは無愛想だけど付き合いが短いなりに照れ隠しだというのが分かるようになった。
喧嘩みたいなのから始まった戦いだったけど私が褒めたことで丸く収まったなら良かった。もちろんすごいと思ったことは嘘でもなんでもなく本心だ。
「それじゃ、次はスノウちゃんいこっか!」
「え?」
「しょうがない、不覚を取ったから先手は譲る。スノウ、リーテのあとはチリィと」
「え?」
まぁ待ってほしい。
「不覚を取った、ねぇ?まっ気分いいしそういうことにしたげる。ほらいくよースノウちゃん」
「あれー?」
手を引かれて部屋の真ん中まで連れられて行く…。
あの、もうお腹いっぱいなのでまた今度にしませんか?
「うん、ダメ!」
「ダメ」
ダメ出しが一人増え、逃れることは叶わなかったのだった…。
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