第11話
初任務をこなした翌日の朝、悠貴はベッドの上で惰眠を貪っていた。
魔法少女は日ごとに当番が決められており悠貴は昨日がそれであった。
関東圏の魔法少女を二つに分けてローテーションAとローテーションBを1週間ごとに交互に繰り返す。Aの週は日月木土が出勤日、Bの週は火水金が出勤日という具合になっており、これを繰り返すことで魔法少女の魔力が回復しないまま次の戦闘を行うということを防いでいる。
新人魔法少女なのと、ちょうど春休みだったということもあって暇な日があればリーテかチリィに付き合って貰って体を慣らすのを手伝ってもらっていたが。
「んん…」
二人とも今日は少し用事があるとかで私も暇になった。
魔法少女になってから約2週間、自分で思っていたよりも疲れが溜まっていたのか2度寝を超えて3度寝が終わったところだ。
乾燥した目を擦って時間を確認すると11時55分だった。昨日の夜11時にはベッドに潜っていたからもう半日以上眠っていたことになる。さすがにそろそろ起きようかな、と体を伸ばす。
「くぅ~~」
まだ少し聞きなれない高い声が喉の奥から出る。
「さて、何をするかな」
言って部屋を見渡す。…散乱したカップ麺やペットボトル等のゴミがそこかしこに見受けられる。
うん、掃除をする暇とかなかったしなーなんて言い訳をしてみる。
「うーん、掃除、やるかー」
腕を捲って気合を入れる。手始めにペットボトルから手を付けるか。
***
「お、お腹減った…」
掃除を始めて2時間がたった。あからさまなゴミは粗方片づけて床色が大半を占めるようになった。なったのだが、起きてから何も食べていないことに腹の虫が鳴って気づいた。
不思議なもので、意識していない時はまったく気にならなかったのに一度自覚するといつまでも強く主張してくる。掃除はまだ終わっていないがこれを無視していても効率が落ちそうだし、休憩がてら何か食べようか。
「そうだ」
ふと思いついたことがあって急いで着替える。外出用の装いが完成したのでファミレスに向かって自転車を漕ぎ出した。
「お待たせしました。デミグラスハンバーグのセットです」
「ありがとうございます」
熱されたプレートに載せられたハンバーグがじゅうじゅうと焼ける音がする。
「ぅあつっ」
やけどしそうになりながらも溢れる肉汁を楽しみながら窓の外を見る。
もうすっかり暑くなった春の日差しにあてられながら作業をしている人たちがいる。
重機が唸り声を上げ、ガラガラと音を立てて家が崩していく。魔獣が出現する際に下敷きにされた家屋の解体工事だ。魔獣が現れる用になってから、こういった住宅被害も起こるようになった。というか馬鹿にならない程起きている。
どこに出てくるのか見当が付けられないために歪みが家の真上に出現した時は事故だとして諦めるしかない。道路やに落ちてくれればまだ被害も小さいからいいのだけど、そうでない場合は十中八九住める場所が一つ減る。魔獣との戦闘が長引いたり苦戦したりすればするほどその被害状況は大きくなる。
そういった人のために集合住宅の建築が推し進められている。それも魔獣の落下の衝撃に耐えられるように建築基準が追加された特注品だ。
作った端から壊されてしまってはどうやっても追いつかないために屋上部分をひたすら頑丈にしたマンションが建てられるようになっている。その結果、屋上は丸みを帯びているために、四角い建物ばかりが目に入っていたコンクリートジャングルの様相も変わり始めている。
街を行く人々は崩されていく家屋に目を向けることはない。歪みが発生し始めた当初は魔獣によって破壊された家々には特異な傷が出来て、それを見物している人も少なくはなかった。
これが良いことかそれとも悪いことなのか、世界を変えられないなら自分が変わるしかない。魔獣溢れる世界になったとしても人々はそれに順応していくのだ。
「希…」
姉はこれを見てどう思うのだろうか。たった一人いた双子の姉。
通知が鳴る。画面を開けば綾辻さんから一枚の画像と共に連絡が来ていた。
『期間限定桜抹茶アイスだって!食べに行こ!』
用事とやらは終わったらしく、一緒に送られてきた画像にはアイス専門店の広告が貼り付けられていた。
いつでも行けるけどいつ行く?と返せば今!との返事が。ちょうどデザートが欲しかった所だし楽しみだ。
「さて、行くかぁ」
了解と返して店を出ると、暖かい春の日差しが少し眩しくて目を細めた。そよ風が花の香りを運んでくる。魔獣が出てくる前と変わらない、春の香りがした。
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