運命の出会いってあるんだね

夜の街を切り裂く一台のバイク。

トーカさんがいたら顔を真っ赤にして追いかけて来そうなくらい、とんでもないスピードでひた走る。


え、いくらトーカさんでも流石にバイクには追いつけないって?


この世界の女性達は感情の昂りで限界を超えちゃうから、全然有り得るんだよね。


この前電車に乗遅れたらしいOLさんが、次の駅で電車のホームドアの前に居たのは怖かったよ。 多分電車使うよりも走った方が早く着くと思うな、うん。


つまり、雫がお姉さんのモノだっていうバイクをぶんぶん飛ばしていても尚、追いつかれる可能性があるのは否定出来ないんだよね。


「雫、家ってどこら辺?」


「もうすぐ着く。湊は安心して私にしがみついてて。どうしてもって言うなら体を擦り付けてもいい」


「あ、ほんと?じゃあ遠慮なく───」


「───っ!」


お許しを貰ったから雫を思いっきり抱きしめる。若干耳が赤くなった。運転も少しぶれてるから結構照れてるねこれ。


雫からは柔らかな苺の香りがする。


今のところ後ろから追ってくる気配はしないから、多分ある程度離れてるっぽい。ここぞとばかりに雫の香りを楽しみながら、暖かい夜の空気を浴びた。


にしても・・・うん、間違いない。手をグーパーしながら、さっきのことを思い出す。


さっきまでへなちょこパワーしか出なかったのに、全力の半分くらいの力が出せるようになった。

原因は分からないけど、雫のことを考えたら力が湧いた・・・もしかして僕って仮面ラ○ダーかプリキ○アか何か?


でも生徒会長が何かして僕の力が出せなくなったんだから、不思議じゃないはず。でも根拠がないから分からないなぁ・・・まぁ、元の世界じゃないんだからしょうがないもんね。


そうして結論づけて、雫の背中で香りを堪能すること数分。


顔を赤くした雫が震え声で「到着。わ、私の、家、つ、ついた・・・」って言われて慌てて降りる。


見上げるほど巨大な建物は、県内でも有名な高層マンションだ。


「ここが雫の家か。すごく、大きいです・・・」


「肯定。ママ・・・お母さんが稼いでる。お姉ちゃんも小説の作家?をしてる。何を書いてるかは知らない」


「へぇ、作家か」


小説好きな僕からすれば、お姉さんとは仲良くなれそう。

今度読ませて貰おうかな。


あとママ呼びなのは可愛いです。

ギャップ萌えが凄いよ・・・クール系だけど、意外とこういうところがあるのが可愛い。


「・・・疑問。なんでそんなにニコニコしてる?」


「んーん、ただやっぱり雫は可愛いなって」


「訂正。可愛いのは湊。私なんて湊と比べると月とスッポン」


「可愛いって・・・そんなことないやい!ぜぇーったい雫の方が可愛いから」


「湊は鏡を見たことがない?」


「失礼な!?」


いそいそとバイクをガレージに閉まった雫の後に付く。ヘルメットを下ろした雫に感謝を告げながら、迷惑にならないようにさっさと外へ出ようとして───。


「疑問。何故外に出ようとしている?」


首元をむんず、と掴まれた。

そのまま親猫に首を噛まれている子猫のように、プラーンと力なく支えられる僕。


あれ、気のせいかな。非力なはずの雫が僕を片手で持ち上げてるんだけど・・・?


「何故って、これ以上迷惑かけるわけにはいかないし・・・」


僕がそう言うと、いつもは綺麗に澄んでいる緋色の瞳が濁り、ハイライトの無い目でじっと見つめられた。めっちゃ怖いよ・・・。


「私達は親友、そして幼なじみ。なのに何故遠慮するの?それに外に出て、もしまた使っても面倒。だから大人しく、私の部屋でゆっくりしておくといい」


「雫の部屋で・・・ゆっくり?い、いやいや!やっぱり悪いよ!今なら襲われても振り切れるし、全然大丈夫だか───あ、やっぱりいきます。行かせてください」


意思が弱いと言うなかれ。


白髪ショートの美少女が悲しそうな顔で見つめてくる(片手で自分の体を持ち上げている状況を無視した上で)状況で、帰ります!なんて言えるわけないよ。


でも同い年の男女が同じ部屋で過ごすって・・・いやいやだめだ。あくまでも雫は僕の事を女の子として見ているはず。そんな奴がいきなり襲いかかって来たら、きっとトラウマになっちゃう。


つまり、僕は漢として試されている。真摯的に振る舞うか、(変態)紳士的に振る舞うか・・・ふっ、まぁ真の漢である僕からすれば楽勝かな。間違いない。


「わ、わかったよ。取り敢えず落ち着くまで、一旦部屋にお世話になることにする」


「肯定。それじゃあ着いてきて」


少しだけ表情を柔らかくした雫の後を追ってエレベーターを経由し、かなり高い階層へ。


・・・やばい、緊張してきた。

思春期男子からすれば、同い年の女の子の部屋に入るのは心臓に悪い。


だけどそんな僕の痛みなんか知らずに、とうとう雫の部屋の前まで辿り着いてしまった。懐からカードを取り出してドアノブに掲げると、ピッという軽快な音と共にドアが開いた。


ああいうのってホテルだけじゃないんだ・・・。


幼い頃はお泊まりなんか普通にしてたけど、雫が中学生になって引っ越してからお泊まりすることはなくなった。それに伴い、実質今回

が初めての雫の部屋になるわけだけど、驚きの連続だ。


玄関で靴を脱いで、雫の部屋らしきドアの前で硬直する。


「ほら、入って」


「は、はい!お邪魔します!」


「・・・ふふっ、そんなに固くならなくていい。湊ならいつでも来ていいから」


硬くって・・・な、ナニを!?

ま、待て!落ち着くんだ僕。流石に脳内がピンクになり過ぎ・・・だ・・・?


「ねぇ、雫」


「なに?」


「あのピンクの布ってなに?」


「ピンク?───ッ!?!?」


綺麗に整えられた雫の部屋。

甘い女の子の香りがして凄くドキドキするんだけど、ベッドの上にある謎のピンクの布が僕の意識を逸らさせる。


ま、まさかね?


あらぬ考えが広がって頭を振るが、隣に立つ雫は顔を真っ赤にして俯いていた。


あっ、やったわ僕。


「な、なーんかトイレ行きたくなってきたかも!」


「・・・部屋を出てすぐ右」


「分かったすぐ行ってくる!お腹痛いからすぐ戻らないかもな〜・・・なんちゃって」


そう言って僕は慌てて部屋を出た。

パンツくらいベッドの上に放置することあるからしょうがないよね、なんて言わなくてよかった。流石にデリカシーがなさすぎるもんね。

けど普段クールな雫があんなに可愛らしいものを・・・これは遥に今日すべき内容だ。しないけど。


多分今頃、雫は大慌てで下着を直してるだろうから、ドアの外で暫く待つことにしよう。


スマホをポチポチと触りながら待つこと十分。

そろそろ戻った方がいいと思ってスマホをしまい、ノックをするためにドアに触れた。


その瞬間、玄関の方からガチャリと誰かが入ってくる音がした。


雫のお母さんかな?そう考えていや違う、と自分の考えを否定する。

僕の記憶が正しければ、雫のお母さんは海外にいるはず。いつ帰ってくるかなんて聞いてないけど、少なくとも今日では無い。


となると、今入ってきてるのは───誰?


「ひぇっ」


良くない考えに至り、一瞬で背筋が凍りついた。

幽霊?いやいやまさか。なら泥棒?それもまさか。あんなに厳しいセキュリティのマンションに入って来れるわけない。


なら一体誰なんだろう。


好奇心は猫を殺すとはよく言ったもので、僕は好奇心と少しの恐怖で呼吸が乱れるのを抑えながら玄関を覗く。


果たしてその先には。


「っ、あなたは───」


「あら、こんばんは。もしかして雫のお友達・・・」


白い髪に赤い瞳。血の繋がりを感じさせる綺麗な顔と目が合って、お互い固まってしまう。


その顔は僕がこよなく愛する小説の作家とそっくりで、しかも呼吸乱れる僕を前にして面白そうに微笑んでる表情は“この前”と瓜二つで。


「呼吸が乱れてますけど、もしかして産気づいてます?」


「・・・つわりじゃないですよ」


湧き上がる驚きと、あの時抱いた雫と似てるっていう感想は間違ってなかっという妙な納得感で、頭がパンクしそう。


でも今の言葉でハッキリした。僕の目の前にいるのは間違いなく、『女が少ない世界で私は逆ハーレムを築く』の作者にして、僕の敬愛する先生───夜ノ帳先生だ。

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