更衣室

「おーい起きろー湊ぉー」


ゆさゆさと身体を揺すぶられる。

優しめかつ、ゆっくりと起こそうとしてくれている。


「・・・へ?あ、あれ?何してるの僕・・・ていうかここどこ?」


揺すぶられているうちに、ぼーっとした頭が急に覚醒し、呆然としたまま周りの様子を伺う僕。


「お、よーやく起きたか。急に寝たから心配したんだぞー?」


「肯定。湊は心配させるのが得意」


そんな僕ににっこりと笑いかけてくる2人を見て、“また”僕は二人に迷惑をかけてしまったんだと理解する。


でもなんだろう。


モテないことへの鬱憤を口にしてたらいつの間にか・・・なんだよなぁ。

まぁつまり、あんまり記憶が無いんだよね。


「まぁまぁ二人とも・・・でもほんとに起きてくれて良かったよー!」


「ご、ごめんね?なんか気付いたらって感じで・・・みんなに迷惑かけちゃった」


「ううん、いいんだよ。だってアタシ達もうクラスメート・・・いや、友達でしょ?」


そう言いながら俯いた僕の顔を覗き込んでくる由良は、ほんとに気にしてなさそうな顔で笑う。


く、なんて・・・なんていい友達なんだぁッ!!!!


「ありがとぉーーー!!!!」


「おぇ!?ちょ、まっ・・・ぇあ・・・」


ニコニコした笑顔の由良を───思いっきり抱きしめた。


「なんていい人なんだァァァーー!!」


「・・・ぃぃにぉい・・・でした・・・」


僕の親友2人は別として、ここまで言ってくれる友達がかつて居ただろうか?いや、ない。

前世に比べれば今世はかなり友達は多いけど、それでもこんなに僕のことを考えて言ってくれる人は少ないはず!


それなのに・・・なんていい人なんだよこの人!


しかも可愛いって・・・神はニモツを与えないって言うけど、あれは嘘だって分かるよほんと!


まぁ僕にはイチモツしかないわけだけど・・・一旦死んだ方がいいと思うぞ僕。


完全に“母さんの遺伝”だねこれ。


ともかく、こんなにいい友達はそうそういないよ!


「湊、そこら辺にしとけ?由良が幸せそうな顔で気絶してるぞ?」


「なんて羨ま・・・じゃなくて、そろそろ由良を離した方がいい。取り敢えず私達が着替え終わるまで寝かせてあげて」


「え?気絶?まさかそんなわ・・・由良!?ほ、ほんとに気絶してる!?」


いやいやまさかと抱き締めた由良の顔を見れば、確かに幸せそうな顔で鼻血を出しながら気絶していた。


いや、なんで?


・・・もしかして、ストレス!?

なら今はとりあえず安静にしとかないと・・・。


ひとまず、由良を更衣室のベンチに寝かせるために、タオルを厚く敷く。


その上に由良を優しく寝かせた。


「何か勘違いしてそうだけど湊がアホで良かったな」


「肯定。これが湊の魅力。むしろ何故この魅力が男たちに伝わってないのか謎」


なのにいい笑顔で僕を罵倒する二人。


「誰がアホだよ!もー!」


アホは余計です。

・・・アホじゃないよね僕?


いやいや、成績はそこそこいいし大丈夫だよね。


「よし、じゃあさっさと着替えるぞー」


「ん、湊も早く」


そんな心配をよそに、2人はどうやら着替えるようだ。

まぁたしかに、そろそろ着替えないとまずいよね。


着替えようと服を脱ぎ始める2人から目を逸らしながら、ひっそりと更衣室を出ていく。


「わかった、じゃあ着替えてくる「おい待て」・・・なに?」


つもりだった。


「どこで着替えだよ・・・まさか男子更衣室かー?」


ギクッ!?

図星な指摘に思わず身体が反応する。


「案の定。やっぱり湊はビッチ。へんたい。男子更衣室は開かないようになってるのにどうするの」


って、なんで僕が変態扱いされるのさ!?

いやまぁ、確かに2人からしたら僕は女の子にしか見えないわけだから、ここで着替えないのは違和感あると思うけどさぁ!?


正直、男子更衣室は僕はきちんと入れる。


顔認証式だから顔パスで入れるんだけど・・・この様子じゃ行かせてくれそうにない。


・・・はっ、待てよ?


これなら行ける!


「い、いや、教室に着替えおいてきちゃったからさ?取りに行こうと思って・・・そこでついでに着替えようかなーって」


「体操服は既に取ってきてある、から教室に行かなくても大丈夫。そもそも、私たちは親友を犯罪者にさせたくない。外には出させない」


「私はあんまり分からねぇけど、男の汗を嗅ぎたいって湊が思うのは、私達が女だから仕方ねぇ・・・けど、それ以前に親友だ。犯罪者の道には行かせないぜ」


・・・どうしよう、詰みかなこれ。

いや、正確には2つだけ解決策があるかも。


1つはこのまま諦めて着替える。


もう1つは・・・ここで僕が男だと告げて、納得してもらった後に男子更衣室で着替える。


1つ目は紳士として死ぬし、もう1つは・・・正直、貞操の危機かもしれない。


それは何故か?


では、問題です。


今まで男だと思ってた子が実は女の子で、体操服を来て少し汗をかいています。

しかもそこは男女比がおかしい世界で、滅多に女の子に巡り会えません。


さてどうなるでしょう。


答えは分かるね?


薄い本が厚くなっちゃうくらいには熱い展開だけど、僕的にはなしなんだよなぁ・・・。


確かに、女の子側から求められるのは男明利に尽きるけど。


それでも何度でも言おう。


僕は───和姦が好みなんだ。


くだらない思想かもしれない。

こんな世界じゃ無理かもしれない。


けど、やっぱり和姦がいい!


だから・・・ここで着替えよう。うん、そうしよう。


「な、なーんだ!ここにあったんだ!じゃあ僕も一緒に着替えるよ!うん!け、決して下心なんてないから!」


「お、ほんとか!?よっしじゃあ着替えようぜー!」


「ん、私は分かってた。湊はそんな変態じゃない」


ほんとに全くこれっぽっちも下心はないけど、とりあえずカメラが欲しい。

別に下着姿を収めようとかこれっぽっちも考えてないけど、後で撮った写真はしっかりと拝見したいと思います、はい。


「あ、あはは・・・」


乾いた笑いをあげながら、隅っこでいそいそと上を脱ぐ。

汗を吸ったTシャツが気持ち悪いけど、流石にこれを脱ぐ訳にはいかないよね。


脱いだ上の体操服を袋に詰め込みながら、出来るだけ2人のことは考えないようにと背を背ける・・・が。


「はぁーーあっちぃ」


・・・でっか。


「肯定。更衣室は少しムシムシする」


・・・えっろ。


コホン。

僕は何も見ていない。


決して遥の特大メロンも、それを隠そうと頑張る黒の下着も見ていない。

それと雫の美乳と分かる胸も、白のブラジャーも見ていない。


見ていないったら見ていない。


ゴクリ、と生唾を飲み込みながらも、必死に着替え続けた僕はえらいと思う。


でもその葛藤も終わりに近い。


僕はもう着替えが済んでいる。

なぜなら男子用の制服だから、着替えが楽だからだ。


ということはつまり、着替え終わった瞬間にスマホを触って電話に出たふりをすれば、僕は合法的に外に出られる・・・ふっふっふっ、勝ったな!


さすが僕だ。

かっこいい上に頭もキレる。


はーっはっはっ!

この勝負!どうやら僕の勝ち「湊ってブラジャーとか付けないんだな」

・・・へ?


「い、いきなり何さ?」


「だってよ、胸が小さいヤツでもスポブラとかは付けてきてっから・・・Tシャツ一枚でなんとかなってんのかなって」


・・・び、びっくりした。

とりあえずここは、適当に誤魔化さないとね。


「ま、まぁ僕胸ないし?必要ないかなって」


「疑問。先が擦れて痛む人もいるから、ブラジャーは必須」


そうなんだ。

正直、一生知ることが無いはずの知識だけど・・・僕には必要ないんだよなぁ・・・だって男だし。


でも・・・どうする?

ここをどうやって切り抜けるべきなんだ?


と、僕が考えを巡らせていると。


───バルンッ!


「はぅあっ!?」


背後を凄まじい衝撃が襲う。


な、なんてデカさなんだ!

って、そもそもなんで遥が後ろにぃ!?


「じゃー湊ぉー!触りっこしよーぜー?」


「ッ!?それは名案。私も参戦する」


あっ、すぅーーー・・・母さん。

どうやら僕はここまでのようです。


「だ、ダメだよ!」


「なんでだよぉー、良いじゃねぇか減るもんじゃねぇんだし」


「同感。湊はなかなかこういうことさせてくれないから、少しくらい触らせて欲しい」


「断固ノーだよ!」


なんて親友ヤツらだ!

確かに触られても直接は減らないけど、理性は削られるんだよ!?


というか女子って全員こうなの?

僕が本当に女子だったら混ぜてもらいたいよコンチキショー!


「いいじゃねぇかー!ほれほれ、こことかどうだ?」


「私の推理によれば、湊は全身が性感帯のはず。よって脇も脇腹もくすぐったいに決まってる」


「あっ、ぇあ・・・ね、ねぇだめだ・・・んっ!?」


この変態達は何してくれてるの!?

くすぐったいしいい匂いだし柔らかいけど!


あいにく僕はそれどころじゃない!

2人のこうげきがあまりにも巧みすぎて、ちょっと危ないんだけど!?


いいのか?

僕押し倒しちゃうよ?


・・・ってこら!腰なでるな!


「んくっ・・・だめだって・・・もぅ」


「・・・な、なぁ。なんかちょっと・・・いや、なんでもねぇ」


「言わなくてもいい。なんかちょっと・・・湊がえっち」


2人とも顔を赤くしながらどんどん擽るペースをあげてくる。

どうやら2人は本気のようだ。


えっちなのはどっちだよ!


「はぁ、はぁ・・・もうやめ・・・だめ・・・これい、じょうはぁ・・・」


「「ゴクリ・・・」」


こっちは必死で訴えてるのに、2人はやめようともしてくれない。

でももうほんとに、こっちは限界に近い。


リレーで走った時以上に疲弊している気がする。


肩で息しないとキツイくらいだ。


色んな意味でギリギリの限界。


だから最後に、二人にお願いをした。

これでダメだったらあとはもう・・・おしまいだと思う。


頼む、届いてくれぇー!


『もう・・・やめて?』


二人にめちゃくちゃにされたせいで、まだへたりこんだままだけど・・・親友の2人なら聞いてくれるはず。


「「・・・は、はい」」


やった!

何か様子がおかしいけど、言うことを聞いてくれたみたいだ!


「も、もー!やめてくれて良かったけどさ!せめて手加減してよー!」


「えっ?あっ、あぁ、すまん」


「こ、こ、肯定です・・・私も反省し、てる」


・・・あれ、なんか顔赤くない?雫に至っては言葉遣いおかしいし。

あ、もしかして照れた?


まぁ、そんなわけないか。


そこそこかっこいい自信はあるけど、顔を赤くさせちゃうくらいの魅力はないしね。


「よし、じゃあ早く着替えてよ!由良も起こして早く下校しよ!」


「そ、そうだな、うん!」


「こ、肯定。私もそうした方が、い、いいと思う」


・・・やっぱりなんか様子おかしいなぁ?

ま、気のせいか!


───

──


「なぁ、雫」


「ん、言わなくてもわかる」


着替え終わった2人の視線の先には、ぺちぺちと寝ている由良のほっぺを優しく叩く湊。


ニコニコとした顔でまだかなーと優しく起こそうとしている姿は実に可愛らしいが、2人にはそれよりもすごい衝撃が先程その身を襲った。


初めは単なる出来心だった。


いつも一緒に着替えずに、必ずどこかで着替えてやってくる湊。


だからたまには一緒に着替えようと誘っただけだ。


そして、ほんのイタズラで身体を擽っていたところで───事件は起きた。


あまりにも熱中してやりすぎたためか、湊が身体を抱きしめるような体制でへたりこんだまま、上目遣いでやめるように言ってきたのである。

息は荒く、肩は上下し、頬は少し赤い。


2人はノーマルだ。

いや、ノーマルなはずだ。


湊のことも好きだが、もっと親愛的な好きだ。

勿論、ただの冗談で行き遅れたら貰うなどと宣っているだけだ。


だがさっきの目線。

さっきの姿。

汗の混じった温もりと香り。


「「・・・湊」」


後から目覚めた由良によると、湊の後ろに佇む2人の姿は、まるで獲物を見定めるように・・・じっくりと湊を見つめていたという。

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