戦闘×銭湯
「ただいまぁー!」
徒歩30分。
近いとも遠いとも言えない距離の自宅までのんびりと鼻歌を歌いながら帰ってきた。
家のドアを開ける時、ちゃんとただいまって大声で言うのがうちのルールなんだよね。
すると、ドタドタと足音をたてながら愛が僕を出迎えてくれた。
「お姉ちゃ、お兄ちゃんおかえり!」
“春峰 愛”
もう今年で14歳だ。
美人な姉さんとイケメン(ここ大事)な僕の妹らしく、将来は可愛い女の子に育ちそうな顔立ちをしている。
なんでも来年は青峰学園を受けるらしい。
「愛ただいま!・・・今お姉ちゃんって言いかけたよね?」
気の所為かもしれないが、今愛が僕のことをお姉ちゃんって呼んだ気がしたんだけど・・・。
もしそうだったら・・・ちょっと
「キノセイダヨ!」
返ってきた返事はどこか嘘っぽかったけど、どうやら違ったらしい。
「そっか・・・そうだよね!ごめん疑っちゃって・・・」
自分でも気付かないうちにナーバスになっていたのかもしれない。
とりあえず、愛にごめん告げて頭を撫でてあげる。
愛がちょうど中学生に上がったくらいかな?
ちょっとした事で喧嘩しちゃって口も聞いてくれなかった時に、頭を撫でながらごめんって謝罪したら許してくれたことがある。
だからもうここ最近は、僕が悪い時とか喧嘩をした時は頭を撫でながら誤っている。
「大丈夫だよお兄ちゃん!」
当の本人全く気にしてなさそうに気持ちよく撫でられている。
目を細めながらもっともっとって頭を押し付けてくるところから、やっぱりまだまだ甘えん坊なんだなって思う。
にしても・・・可愛い。
さすがラブリーマイエンジェル。
こんなに元気いっぱいで甘え上手で可愛かったら、きっと中学生でもモテモテだよね。
それが誇らしいというべきか・・・寂しいというべきか。
「・・・あ、そういえば姉さんとお母さんは?」
「へっ!?お、お姉ちゃんとお母さん!?あ、あぁ・・・えっと・・・買い物!そう、買い物に行ってるから今はいない、かな!」
この時間帯は姉さんも大学から帰ってきてるはずだから、こういう時は姉さんも母さんも出迎えてくれるんだけど・・・。
そんな、ふとした疑問をぶつけてみれば、何故か慌てたように取り繕う愛。
むむむ、これは何か怪しいぞ?
「なにかあったの?」
「な、なななにもないよ?」
・・・絶対なにかあったやつじゃん。
しかも隠すくらいってことは・・・やっぱり僕に知られたくないこと?
うーん、どうしよ。
こういう時は深く追求すべきなのかな?
それともあえて気にしないことにするべき?
───よし、じゃあこれだけ聞こう。
「僕は知らない方がいい?」
「うっ!?・・・そ、そうです、はい・・・」
くー、やっぱりか。
なんか仲間外れにされてるみたいで寂しいけど、僕はできる男。
具体的には、あの毒舌な雫がイケメン!カッコイイ!天才!と持て囃すくらいにはできる男だ。
家族とはいえ知られたくないことくらいあるだろうし、ここは敢えて無視するべきだよね。
「そっか・・・分かった。じゃあお風呂入ってこよーかな!」
「・・・ごめんね、お兄ちゃん」
「ううん、大丈夫だよ!その代わり、一番風呂は僕が頂いちゃうもんねー?」
そう言い残して、パッパとお風呂場まで入っていく。
やっぱり僕はイケメンだな、としみじみと思いながら、ゆったりとお風呂を楽しんだ。
でもなんでだろう。
「うぁーー!?」とか、「バケモノかよぉー!」とか、その他諸々の悲鳴みたいなものが家の外側から響いてたけど・・・お祭りでもあるのかな?
だとしたら寝る時には収まってて欲しいな、なんてのほほんとする僕だった。
───
──
─
“春峰” 愛 side
「可愛すぎるでしょぉぉぉがぁぁぁーーー!!!」
マイエンジェルお兄ちゃんが立ち去った玄関で、私は限界とばかりに叫んだ。
自慢だが、私のお兄ちゃんは可愛い。いや、可愛いなんてもんじゃない。
もはや美しいというか、芸術作品の領域に入ってると思う。
しかも可愛いだけじゃなくて、優しくて運動もできて頭もいい。
まぁ、運動も出来て頭もいいのは、“私たち家族にとっては当たり前のことかもしれない”けど・・・それでも実物がなければ、妄想乙wで片付けられてしまうほどの完璧なお兄ちゃんだと思う。
というかそもそも、お兄ちゃんがいるだけで私は正直に言う勝ち組なのに・・・私は一体前世でどれくらいの徳を積んだのか分からないけど、今なら前世の私に裸で土下座できる。
ありがとう前世の私。
グッジョブ、前世の私。
「・・・ふぅー、それにしてもひやひやしたぁ」
さっきちょっと寂しそうな顔でお風呂場に入っていったお兄ちゃんだけど、正直私も話したかった。
あんな顔をされたら、世の中の女は多分どんな秘密でも漏らすと思う。
でも私は耐えた。
なぜならその秘密っていうのが───
「ヒャッハァー!男をよこせぇーー!」
───コイツらだからだ。
「へー・・・またお兄ちゃんを狙いに来たんだ。懲りないね、おバカさん♪」
「ッ!?いねぇと思ったらここにいたのかい!この悪魔め!」
コイツら・・・正確には、お兄ちゃんを付け狙うストーカー共。
お兄ちゃんは青峰学園っていう共学の高校でも、トップを争うくらいに可愛いことで有名だ。
それこそ美少女ランキングっていうので、2位と大差をつけて優勝するくらいには可愛い。
そんなお兄ちゃんだからこそ、やっぱり変なファンとかストーカーが出たりする。
中でもお兄ちゃんが男だって気付いた人達が徒党を組んだ時のストーカー達は、かなりタチが悪い。
それをお兄ちゃんに知られず処理するのが私達家族の役目だ。
お姉ちゃんとお母さんは今ごろ、外で潜伏してるストーカー達を処理してるところだと思うから、私はお兄ちゃんの護衛を任された。
でも今日は珍しい。
いつもは化け物みたいに強いお姉ちゃんと、人間とは思えないくらい強いお母さんで全員仕留めきれるのに、数が多かったのか、もしくは強い人がいたのか取りこぼしが入ってくるなんて思わなかった。
まぁ、このレベルなら私でも倒せるけどね。
「・・・それにしても良くお兄ちゃんが男だってわかったね」
「当たり前じゃないか!あんなにムンムンする色気を放つなんて、男以外ありえないよ!」
・・・鼻がいいのか勘がいいのか、もしかしたらどこかでお兄ちゃんの情報が流出してるかもしれない。
くそっ、これなら何のためにお兄ちゃんに“敢えて男性権利保証バッジを持たせないように”してるか分からないじゃんか。
「へー、まぁいいや。ここまでたどり着いたのは褒めたげるけど、お兄ちゃんの元へは行かせないよ」
「はんっ、小さい悪魔め・・・あんたの情報は出回ってるよ!小さいくせして化け物みたいに強いって・・・まぁ、ほんとにバケモノなんだろうけどねぇ!」
嘲笑するように煽る女。
間違いない・・・コイツ知ってる。
なら尚更、そのまま返す訳にはいかない。
「その臭い口黙らせてあげる」
「んな!?こ、小娘がァ!」
私が挑発すると、堰を切ったように突進してくる女。
私と女では体格的に間合いの広さは女の方が上だ。
普通なら私はここでボコボコにされていただろう。
しかしあいにく、私は普通じゃない。
突進するということは必然的に女は私から視線を下ろすことになる。
つまり、足元しか見れてない。
突進からそのままパンチを繰り出すなら別だが、私を突進で倒して上に乗り、そのまま攻撃するつもりなのだろう、勢いがそのままだ。
まぁ長々と解説したけど・・・。
とりあえず正面から叩き潰す。
「はァっ!」
後先考えずに突進してくる女の首に踵落とし。
そうすれば女は、呻き声をあげて体勢を崩す。
そこを逃がさない。
倒れかけたところで頭を掴み、お腹へ膝蹴りを叩きつける。
「ぐほっ!?」
胃液まじりの声が女の口から漏れた。
それを見て頭を離すが、女はもうかなりフラフラで、立ち上がることすらままならない。
けど戦う意思はまだあるみたい。
・・・改めて思う。
もし私がお兄ちゃんの妹じゃなかったら、この女の人みたいに男を求めて痛い目にあってたかもしれない。
だから私は自分の居場所を守る。
女の子らしくなかったとしても、ここは私とお兄ちゃんと家族の場所だ。
「いい夢見てね」
足がプルプルしてて痛そうだし、涙も浮かんでる・・・だからせめて一発で気絶させてあげよう。
私はお姉ちゃんやお母さんみたいに強くないけど、慈悲はあるつもりだ。
「う、ぐ・・・ぁぁあーー!!?」
フラフラしたまま、右腕を振り上げて私を殴ろうとして・・・踏み込んだ足を薙ぎ払う。
「はっ、ぁぁああ!」
そのまま一本背負いの容量で地面に叩きつけた。
さすがに気絶して・・・あれ、まだ気絶してない?
「ぅあ・・・」
「ごめんなさい、私が弱いから上手く出来なかったかも・・・次は上手くやるね」
弱々しい目で私を睨む女の人を見下ろして・・・今度はそのまま右腕を振り下ろして───。
───
──
─
「ふぃー、いいお湯だったぁ・・・てあれ?愛はなにしてるの?」
気持ちいいお湯に使って、今日の疲労を癒した。
めっちゃいいお湯だったぁー!なんて浸りながら、腰にタオルを巻いたまま、何故かお風呂場の近くにいた愛に話しかける
「ゥゴブッ!?・・・ナ、ナンデモナイヨ!」
いや、明らかになにかある感じじゃん・・・またなにか隠してるなー?
「まさか上半身裸なんて・・・眼福」
「え?なんて?」
「な、なんでもないよ!ほんとになんでもない!うんうん!次私が入るから!」
慌てたように僕の身体をチラチラと見ながらお風呂場に入っていく愛。
ふっ、やっぱり愛にはこの僕のスタイルの良さが分かっちゃったか・・・さすがぼくの妹。
明らかになにかありそうだけど、その反応に免じて許すしかないね!
なんて考えながら愛の顔を見れば、思いっきり鼻血を出していた。
「ならいいけど・・・って鼻血出てるよ!?」
しかも結構な勢いでだ。
なんなら手の甲にも血がついてるし・・・。
「だ、大丈夫だよー!」
「ほんと!?手のひらにもついてるよ!?」
「へ?・・・あっ、これは拭っただけだから・・・その、気にしないで!」
そう言うと、僕の心配を他所にテキパキと着替えていく愛。
となるといくら彼女に飢えている僕でも、さすがに妹が服を脱ぐところを見る趣味はないため、出ていかざるをえないのである。
───結局、僕は鼻血について聞くことが出来なかった。
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