恥ずかしい気持ち

「失敗したぁ・・・・・・」


と、僕の悲痛な叫びが廊下にこだます。

先生からのアドバイスも終わって、トイレでそそくさと着替えた・・・のはいいんだけど、そのあとに男子生徒専用の教室から楽しそうな声が聞こえたから入ったら・・・。


この様ガン無視か・・・やっぱり僕、男子に嫌われてるのかな?」


そんな良くない考えが頭の中を駆け巡る。

この世界の男子達は本当に希少だ。だから女友達はともかく、男友達は出来たことがないから、少しでも仲良くなれるようにってじゃんけんに加わったけど、どうやらかなり悪手だったみたいだ。


そもそも最初からおかしかったんだよね・・・入学当初に男子に話し掛けたら、まるで僕の話なんて頭に入ってないようにスルーするし。


何故か僕が近づくとみんな顔を逸らすし。


肩を組んだだけで何故か鼻血出すし。


───僕は一体何を仕出かしたんだろう?


「まぁ、考えても無駄か」


そう思って、体操服が入った袋を担ぎながら教室へと入る。

周りを見渡せば、既にみんな次の生物の授業の準備をしていたみたいで、楽しそうに駄弁ってた。


「おーい湊ぉ!どこ行ってたんだよ、探したぞ!」


席に戻って、自分も授業の準備をしようと思って自分の机のある場所まで歩くていると、教室の入口のドアで僕を呼ぶ声が耳に入る。


はっとそちらを向くと、遥と雫が汗だくになりながら僕へと駆け寄ってきた。


何かあったのかな?

そんなことを考えつつも、汗だくな女の子ってえっちだよね、なんてくだらない事を考えられるくらいは余裕のある僕。


遥が走るとぶるんぶるんと揺れて主張するモノが、僕の目を捉えて離さない。

でも悲しいかな、雫には揺れるモノがないから歩きやすそうだ。


まぁ、どんなおっぱいでも僕は好みなんだけどねッ!


「・・・・・・おい、どこ見てんだよ」


と思ってたら、遥が頬を染めてジト目をしながら腕で胸を隠す。

はい、たいへんご馳走様です。


この世界じゃブラを付ける女子なんて殆ど居ないから、白シャツの上からでも揺れてるのが分かるんだよね・・・・・・どうやら僕はこの世界に転生してきて良かったと神様にお祈りした方がいいのかもしれない。


だって前世の男子校の男子達なら、血涙を流してでも見たい光景に間違いはないからね!


「致し方ない。湊は大きな胸に欲情するスケベ女。胸がないから遥の胸を見て欲求を解消しようとしてる。間違いない」


・・・・・・うん、何も言えない。

でも言わせて欲しい。


この世界の男子達が草食過ぎるんだよっ!!!


なんだよ小さい胸の方がいいとか!なんで大きい胸はダメなのさ!?

どっちも良いに決まってるじゃん!?


───駄目だ落ち着こう僕。こういう時こそビークールだ、ビークール。


「・・・・・・2人の中で僕は一体どんな認識になってるのか話し合う必要がありそうだね?」


ていうか雫が揺れる遥の胸を見て、マスクメロンが2つ・・・・・・って言ってたの僕忘れてないからね?

そう思って再度遥の胸を見る・・・・・・うん、流石にそこまで大きくはない、はず。


「冗談。事実を言っただけ」


それは冗談じゃないよ?

でもその冷ややかな目はありがとうございます!出来ればもうちょっと貶すような感じでお願いします!


「って、そんなことはどうでもいいんだよ。湊のこと、生物の北川が呼んでたぞ」


「肯定。少し手伝って欲しいと言っていた」


僕が土下座も辞さない覚悟で雫の絶対零度の視線を待ち受けていたら、唐突に思い出したように遥と雫がそう言ってきた。


北川───北川キタガワ 紀香ノリカ先生は遥と雫の言う通り、生物を担当している先生だ。


その先生の特徴を挙げるなら、我がクラスのマスコットである司先生───ツカっちゃんと真反対って言った方が分かりやすいと思う。


可愛い、というより美人でおっぱいも大きい。

大事な事だからもう1回言うけど、おっぱいが大きいんだ・・・・・・。


でも残念なことに、この世界じゃ美人はモテない?らしい。


ちっちゃくて可愛らしい貧乳が男子達の好みだ!って、姉さんの部屋の本棚の隅っこにひっそりと置かれてた恋愛バイブルに載ってたから、恐らく間違いはないはず。


その証拠に雫の男子人気は高いとのこと。


わかるよ、男子達。

雫ってちっちゃくて可愛らしい上にちょっと毒舌だから“凄くイイよね”。


でもうちの雫はやらん!

どうしても欲しくばこの僕を倒してからいくことだね!


───なんてくだらない話は置いておくとして、正直何も知らない人からすれば、美人で胸が大きい先生のお手伝いなんてご褒美にしかならないと思う。


でも、ちょっとした懸念点が僕にはあった。


「気のせいかもしれないけどさぁ、あの先生僕に対してだけ当たり強くない?」


「んー?そうかぁ?私には分からないけどなぁ」


「不明。しかし湊は美少女ランキング1位だから、嫉妬してる可能性はある。けど確証はない」


「そっか・・・・・・やっぱり気のせいなのかな」


どうやら2人とも半信半疑みたいだ。


まぁでも、当たりが強いっていうのも先生と2人きりの時だけだしなぁ。気のせいなのかな?っていう部分と、もしかしたら?っていう部分のせめぎ合いみたいな感じなんだよね。


「心配すんなって・・・・・・けど、もしも何かあったら私たちに言えよ?私は北川の1部分しか知らねぇから何もいえねぇけど、湊だけに本当に当たりが強いとかって言うなら話は別だしな」


「肯定。私たちは湊の味方。言うのは恥ずかしいけど───湊のことは大切に思ってるから。忘れないで」


「───うっ・・・・・・2人ともぉぉぉ!!!」


嬉しくて思い切り2人に抱き着く。僕はなんて素敵な親友たちを持ってるんだろう。

凄く嬉しいし、凄く幸せな気分だ。


「「へぁッ!?」」


2人の中の僕の認識を改めて確認しよう、なんて考えてた僕が馬鹿みたいだ。

むしろ僕の方が2人の認識を改めよう。やっぱり遥と雫は、僕の1番の親友なんだ!ってね。


「あ、あのよ?もう少し、その・・・・・・いや、なんでもねぇ」


「困惑動揺驚愕幸福ッ!?き、危険、危険!オーバーヒート寸前ッ!」


「ふっふっふ、持つべきものは大切な親友だよね!」


前世では本当に親友、いや友達と言える人達が居なかったから、余計この2人の大切さが際立つよ!


2人とも大きくなって・・・・・・雫は小さいままだけど、とっても大人っぽくなってる。けど、2人は僕の知ってる遥と雫のままなんだって、考えてちゃうんだよね。


なんならこの2人になら何をされても笑って許せるくらいには、僕も心を許してると思う。


「き、危険危険・・・・・・湊、ハグはとっても嬉しいけど、多分北川先生が待ってるから急いで行った方が良いと思う」


「あぁ、そ、そうだな!きっと北川も湊を待ってると思うぞ!」


「ん!確かにそうだね。よし、じゃあ行ってくる!」


妙に顔を赤くした2人にそう言われたので、ハグを外して北川先生が居るだろう生物専用教室へと足を運ぶ。


・・・・・・明らかに2人とも照れてたなぁ。

ちょっと抱きつきすぎたかもしれない、反省反省。


でもまぁ、そのお陰で元気が出たから許してもらいたい。


あぁでもきっと、僕の顔も朱いよね・・・・・・?

そう思った途端に、さっきの僕の大胆な行動が恥ずかしく感じてきた。


「こ、今後は抱き着かないようにしよう・・・・・・くっ、恥ずかしくて顔から火が出そうだよ・・・・・・」


そんな僕の情けない呟きは、北川先生の居るだろう教室のドアを開ける音によって掻き消えたのだった。

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