リレー
「ではこれより、体育大会のリレーの選出者を決めるために、50m走の記録を計ろうと思う!皆精一杯走るようにな!」
「まじかよぉ、リレーか……私そんなに得意じゃねぇわ」
と、先生が話しているさなか、遥が面倒くさそうにボヤく。
いや嘘つけい。
遥はめちゃくちゃ足が速い……というか運動神経がいいってことは知ってるんだからね!?
「否定。遥は運動神経抜群、かなり足が早いはず」
と、内心でつっこんでいると、雫も追撃をしてきた。
雫は運動が少し苦手だ。
「じゃ1人目、赤城。お前からだ」
「ヴェッ、アタシですか?……はいはい、行きます行きますって!」
1人目の走者は赤城───《
ちょっとおちゃらけた雰囲気のクラスメートだけど、彼女が出したタイムは6.2秒。
……え、早くない?
なんて驚きもつかの間、次の走者も続々と6.6秒、6.8秒、6.5秒と高タイムが続いていく。
でも決して皆の運動神経が突出して高いわけじゃない。
この世界の女子の身体能力が、前世の男子を上回るレベルで高いだけだ。それもかなり高い水準で。
その証拠に、運動神経が苦手な雫でも6.8秒を記録している。だから多分、この世界の女性は前世の女性とは根本的な身体の作りの、何かが違うんだと思う。
気になって調べてみたけど、ウィキ○ディアによると女子の50メートルの平均タイムは6.9秒らしい………早すぎでしょ?
ちなみにこの世界の男子の平均タイムは9秒代だった……うん、何も言えない。
「次、春峰湊!」
「って、もう僕の番か……」
この世界の男性の貧弱さを嘆いていると、いつの間にか僕の番が回ってきていた。
湊ちゃん頑張って!とクラスの女子達から応援が上がる。
それに混ざるように、しれっと遥と雫が応援してくれていた。
遥は思い切り手を振り、雫はグッと握りこぶしを作り熱い眼差しを僕に向けている。
───ふっふっふ、女子に応援されてちゃあもう、全力を出すしかないよね!
と、やる気に燃える僕。
スタートの線でクラウチングスタートを取り、合図に備える。
……今「何その体勢えっろ」っていった赤城さんは後でデコピンをかまそう。お陰で緊張感がなくなっちゃったよ!
でもまぁ、いい感じで緊張感がほぐれたと思う。
僕が目指すのは───男でしたムーブを完遂させること。
でもそれには、この体育大会のリレーに選ばれる事は必要不可欠だよね。
「よーい、ドン!」───今だッ!
低く構えた姿勢から、すぐさま走り出す姿勢に切り替えて加速する。
グングンと現実からつき放たれるような感覚。怖い気はしなかった。
そして───ゴール線を踏む。
先生がピッとタイマーを止めた音が、僕を現実に引き戻してくれた、
「ふむ、湊。お前のリレーの選手入りは確定だな」
そう呟く先生から手渡されたのは、先程先生が持っていたタイマー。そこには確かに、5.4秒と刻まれていた。
───マジですか?
思わず二度目してしまうくらいには、信じられないタイムで理解が追いつかない。
でもなんだろう、めっちゃ嬉しい。
まぁでも、僕の運動神経の良さは姉さん譲りだと思う。
母さんはそんなに運動神経はいいほうじゃないって言ってたし、実際少しポンコツなところがあるんだよね。
「私は昔から鈍臭いから」
なんて笑って僕や姉さん、愛とは違う“《黒色》の髪を《銀色》に染め直していたのを思い出す”。
「確信。やはり湊はやる女。スケベ発言は撤回する」
「私も運動神経いい方だとは思ってたけど、ここまでとはなぁ!湊は私達女の誇りだ!」
雫、遥が褒め称えるように僕の肩を叩く。
「ふふっ、でしょ!」
褒められるのは悪い気がしないよね。
ここで変に謙遜なんてのも、幼馴染なんだからする必要ないし。
それにクラスメートの皆も、僕の頑張りを称えてくれた。
こんなに嬉しいことがあるのかな?
前世ではそれこそ“思い切り走れなかった”。
けどこうして今は皆と楽しく会話しながら学校生活を過ごせている。
なんで僕がこの世界に転生してきて、なんで僕が男としてこの世界に生を受けたかは分からないけど、この世界に来れて良かったと思うよ、本当に。
「次、水瀬遥。準備しとけよー?」
「お、もう私の番か!よしよし、私も湊に負ける訳にはいかないな!見とけよ!」
ひとしきりお褒めの言葉を2人から貰っていたら遥の出番が回ってきたらしく、いつにもなく張り切っていた。
そして、その数十秒後。
「くっそぉー、ジャスト6秒だってよー!あともうちょいだったのによぉ!」
「あ、あはは……まじか」
「……驚愕。湊も運動神経良いと思ってたけど、遥も凄い。あほだと思ってたけど見直した」
……いや、うん。
なんで遥はあんなに重そうな
僕は確信した。
きっと遥がひんぬーだったら間違いなく陸上のスカウト受けてたと思う。
「よし!それじゃあ測定は終わりだ!代表リレー選手は赤城と春峰と水瀬の3人!以上、解散!それと、今呼ばれた三人は後で先生の元へ来るように」
「「はいっ!」」
威勢のいい返事とともに、みんな一様に後者の方へと戻っていく。
そんな中、残るように言われた僕と遥と赤城さんだけポツンと取り残される。
「……アタシがリレーかぁ」
「ん?もしかして嫌だった?」
ため息を吐いて憂鬱そうに呟く赤城さん。ちょっと心配なので思わず声を掛けるけど、返ってきてきた返事は杞憂していた事じゃなかった。
「いや、別にやる気ないとかめんどくさいとかじゃないよ?けど、姉さん……義理なんだけど、見に来てるかなって思ってさ」
「……んー、よく分かんねぇけど、義理の姉なんだろ?なら絶対見に来てくれるじゃねぇの?」
と、励ます遥。
たしかに絶対に見に来てくれるっていうのは言えないけど、それでも来てくれるんじゃないかって僕は思うんだよね。
“義理とはいえ───家族なんだし”。
「そう……かな?」
「うん、きっとそうだよ」
「そうそう、だからそんな顔すんなって、な?」
「……そっか、よし!じゃあアタシも頑張ろ!よろしくね、みなちー!ハルルン!」
僕たちの説得にやる気を燃え上がらせる赤城さん。
ちゃっかり僕たちのことを渾名で呼んでくるあたり、この人なかなかやり手だなぁ……。
「うん、よろしくね!……えと、赤ちゃん?」
「ばぶぅって言った方がいい?普通に由良でいいよー!」
うん、どうやら僕には渾名をつけるセンスがないみたいだ。大人しく由良と呼ばせて貰おう。
なんてやいのやいのと騒いでいると───
「コホン、話し合いは終わったか?……一体いつまで先生を放っておくつもりだ君たちは。放置されてちょっと悲しい気分になったじゃないか」
───先生が目尻に涙を浮かべながら話しかけてきた。
皆と顔を見合わせる。
あれ、そういえば私達残るように言われてたな、と遥。
ちょっと先生が可哀想になってきた、と由良。
どうやら僕を含めてみんな、完全に忘れてたみたいだ。
「「ご、ごめんなさい」」
「……よろしい。君たちを残したのは少し注意点、というかアドバイスを言おうと思ったからだ。安心しろ、話はすぐ終わる」
と、長い話かと顔を顰めた僕たちを窘めるように告げる先生。
控えめに言って話が短い先生は神だと思う、と安心したような顔になっている僕たちへ向け、先生は指を人差し指を上げて口を開く。
「一つ、本番に備えて今のうちに心の準備をしておくこと」
続けて今度は中指を上げた。
「二つ、ちゃんと三人で助け合うこと」
そして最後は薬指を上げた。
「三つ、何事もトラブルはつきものだ……だから、最後まで諦めるな。以上、この三つだ!解散!」
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