ナニかが起きる気配がする
「ただいまー……ってまだ帰ってきてないか」
鍵のかかったドアをガチャりと開けたが、やはり中には誰もいない。というのも、一昨日くらいから軽い小旅行に出掛けるからと、姉と妹を連れてどこかに行ったのだ。
え、そういうのって男女比が歪な世界なら、湊が心配だから!なんて理由で無理矢理連れていくか結局行かないの2択なんじゃないの?って思わずツッコミそうになったのは記憶に新しい。
ちなみに理由を聞いたら、そんなのじゃ将来湊に奥さん達が出来たときに困るのは湊だから、今のうちに家で待てるようになっとかないとね!───とのことだ。
うん、普通に正論なんだけど、寂しかったら死んじゃうのかな?ってくらいこの世界の男性への一般認識が低いことを改めて再認識させてくれた。
家族がいないのをあらかた確認したあと、重いスクールバッグを背負いながら、2階の自分の部屋へ駆け上がる。
実はこのスクールバッグ、かなりの高性能なバッグなのだ。
見た目は女子用と見分けがつかないが、男子用に区分されるこのバッグは、もし女子に襲われたという時に電気ショックや火炎放射などして背負っている本人を守ってくれるスグレモノだ。
でもそんなバッグにも弱点がある
それはひとえに───重い、重すぎるのだ。
だからこそ、前世の世界と比べて明らかに運動能力の差が出ている男子達がこんなものを背負いたくないからと、学校への登校を拒否しているらしい。
本末転倒じゃないか……。
だが、今の僕はそんなもの鼻で笑って許せる自信がある。なぜなら───
「新しい新刊もう来てるじゃん!?急いで買いに行かないと!」いけないからである。
モタモタしてはいられない。
僕が好きな漫画である、《女が少ない世界で私は逆ハーレムを築く》は結構マイナーな漫画なのだが、コアなファンが根強くてなかなか発売日当日には入手することが出来ないのだ。
いやまじで本当に入手出来てないんだよねほんと。
まだ学校内で知らない女子に話しかける方が簡単なレベルだ。そう、言わば僕が向かおうとしているのは戦場なのだ。
まぁ、外に行くための服装とかはいつも準備してるから、着替え終わるのは早いんだけどね?
カーディガンと白の制服を脱ぎ、上を緑のセーターと紺のネイビーで揃え、下を明るいジーパンに履き替える。
髪をボーイッシュハンサムショートのように軽く整えたら、後は黒のキャスケットを被れば完成だ。
「ふっ、流石僕。めっちゃ似合ってるわ」
鏡の前で何度もポーズを取り、おかしい所がないかを確認する。
男性用服がほとんどないから女性服を着るしかないのは仕方ないけど、ここまで似合う男はきっと僕だけだと思う。
「いやぁ、自分ながら僕の容姿って美少年過ぎてなんでも合うんだな」
と、安定の自画自賛。それとドヤ顔。
まぁ僕におかしいところなんてないから、唯の事実確認なんだけどね。
「よし。じゃあ準備も出来たし、早速買い物にしゅっぱーつ……ん?なんだこれ?」
財布をポケットの中に入れて、一応クラスメイトに見つからないように黒のマスクを着けいざ出発、というところでジーパンのポケットに違和感があった。
ポケットに手を入れて取り出してみると、薔薇の形をしたバッジが出てきた。
よく見ると、男性権利保証バッジと書かれるけど……あ、これあれだ。
小さい時に母から貰ったやつだ。
確かほとんど付けてなかったけど、まさかジーパンのポケットの中に入ってるなんて。
「入れた覚えないんだけどなぁ」
とは言え捨てる訳にもいかないし、結構思い入れもあるので、引き出しの中に大事に閉まっておいた。
でもこれ、一体何のために使うんだろ─── まぁいいか。
「よし、それじゃあ今度こそ準備万端だ!早速しゅっぱーつ!」
意気揚々とドアを開けて、 目的地である駅の方へと足を進める。
因みに《女が少ない世界で私は逆ハーレムを築く》の著者は、
しかし───夜ノ帳先生……一体どんな人なんだろう?
まぁこの世界の人ならきっと美人なんだろうけど、会ってみたいって考えちゃうくらい僕もかなりこの作品を気に入ってるんだろうなぁ。
なんて考えてたらいつの間にか目的地の駅周辺に。
親友のアイツらとは良く出掛けるけど、そこまで周りの風景を気にするわけじゃないから、何かちょっと新鮮な気分だなぁ。
そんな空気を味わいながら、キョロキョロと周りの風景を眺めていると───肩をトントンと叩かれた。
え、なに?と思うのも束の間。
「ちょっと君!さっきから怪しいな……少しいいだろうか?」
なんとそこには、ちょっと怖い表情をした婦警さんが、いかにも何かありますよという表情でこちらを覗き込んでいた。
いや、正確には婦警さん達、だろうか。
「うぇっ!?け、警察官さん……べ、別に大丈夫ですけど……?」
そう言うと、2、3人くらいのペアになった警察官さん達が僕の周りを取り囲む。
え、え?僕何かした!?
「ふむ、そうか。実はな、最近素顔を君のように隠して銃や包丁などの危険物を所持している女性の発見が相次いでいてな。そのためにボディチェックを我々警察は取り組んでいるんだ」
「は、はぁ」
「君も嫌かもしれないが、街の平和のためだ。ボディチェックを執り行ってもいいだろうか?いや、して欲しくないなら別に構わないんだがな?」
「僕にボディチェックですか?それくらいなら、まぁ大丈夫ですけど」
「そうかそうか、助かるよ!」
……ん!?いや待てよ!?
ボディチェックってことは、僕女性に体の隅々までまさぐられるってこと!?
え、そんなご褒美がこの世に合っていいの?てか触っていいの?
例え警察官でも男性に不用意に触れてはいけないっていう法則が出来たばっかりじゃなかったっけ?
「え、あ、いややっぱり……」
「ん?どうした?何かあったか?」
「な、なんでもないですぅ」
そう言って断りを入れ───無理でした。
だってやる気まんまんなんだもの。ご丁寧に手袋までつけて、職務を全うしようとしてるんだもの。
僕には断りを入れるなんて恐ろしいこと出来ないよ……。
「そうか、それじゃあ検査するぞ。あぁ、別に手をあげる必要はない、そのままでいい」
「は、はい」
そう言って尋ねてきた婦警さんが脇に手を入れてきた。
そしてその手が徐々に……ってやばいやばい不味いまずいよこれぇっ!!?
「ふむ。脇や横腹の武器の携帯はなし、か。では次」
そう言って次にまさぐり始めたのは、腰辺りだ。
なんだろう、めちゃめちゃくすぐったいし何か恥ずかしいけど、この婦警さんめっちゃいい匂いするんだけど!?
でも流石にここで止める訳にもいかないし、他の婦警さんたちは周りを警戒してるし、真面目に取り組んでるところに水をさす訳にもいかないし……ええいままよ!
ここのまま僕は運命を受け入れるしかない!
そう、僕は受け入れることにした。
この美人婦警さんに股間を掴まれる未来を!
「んー、足や腰ともに異常なし、か」
「………へ?」
あれ、嘘でしょ終わったの?
なんだよチキショウ!期待した僕が馬鹿だった!
……まぁいいけどね。
流石に婦警さんでも、男の僕の股間を掴むのはダメだったようだ。そりゃそうか。
まぁひとまず、検査はこれで終わりかな?なんて思っていた。
そう、僕は完全に油断していたのだ。
まさかいきなり婦警さんが───「あぁ、すまない。あとここも検査してな………い……?」───いきなり触れてくると思わなかったから。
ふわり。
ほんとうに、さりげないひと触りだった。
そのために僕の回避反応は遅れたんだろう。
「へっ!!?」
気付いたら僕の股間を、思いきり婦警さんが握り締めていた。
───もう一度言わせて欲しい。
気付いた時にはもう、思いきり婦警さんが僕の股間を握り締めていたんだ。
「………君、股間に一体何を入れているんだ?」
「ッ!?え、えと、何を入れてるんだと言われても……ナニを入れているとしか……」
「ん、なに?もう一度言ってくれないか?」
いやほんと待って、恥ずかしすぎるんだけど?
え、これって言わないといけない流れ?
ナニっていったらナニでしょ!?男の股間触ってるんだからあるの当たり前じゃん!!?
───ま、待って?
もしかして僕、男って気づかれてない?
あぁ!だから平然とボディチェックされたのか……ふーん。
いや、ほんとおかしいよこの世界。
なんでこんなに僕男だと思われないの?ほんと。
てかどうやって答えればいいの?これ。
答えられないから黙ってるしかないんだけど。
「答えられないか……まぁいい」
「ッ!えぇ、はいっ!」
多分、過去一でいい返事をしたと思う。
本人である僕が言うんだから間違いない。
「……そうか、わかった。でもやましいものではないんだな?」
「……やましくはないですね、はい」
いや、やましいモノではないはず?
でもやましいよねって言われれば頷いてしまうと思う。
「よし、じゃあ私だけにでいい。出してみてくれないか?」
───え?
「なにを?」
「ん?君のいうその“ナニ”をだが?」
───あぁ、なるほど。
そういう事ね?
ごめん、母さん。そして姉さんと妹よ。
僕はどうやら、わいせつ罪で逮捕されそうです。
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