第11話 命日

新しい年を迎え、一つ一つと日々を重ねて僕は今日………




 曇天の広がる曇り空の下でとある霊園にやってきた。目の前には僕をここまで連れてきてくれた美穂さんが先を歩いている。




「ソラくんこっちだよ」




 美穂さんが僕を目的の場所まで案内してくれている。


 今日僕は………お父さんとお母さんに会いに来た。




「ソラくん、これが龍一と愛里………お父さんとお母さんのお墓だよ。」




 美穂さんが優しく言葉をかけると、目線の先には数束の花が添えられている墓石が立っている。花束は多分、美穂さんが飾ってくれたのだろう。なぜなら僕がここに来るのは初めてだから………




「久しぶり………お父さん、お母さん」




 今日は6月15日、二人の命日だった。






 ーーーーーーーーーーー






「……………………」




 しばらくの間、ソラはただ黙って墓石を見つめていた。美穂は、そんなソラの気持ちを汲み取り、静かに新しい花束を添える。目を瞑り黙祷をした後、墓石に話しかける。




「龍一、愛里………どう?びっくりした?ソラくん大きくなったでしょ?」




 そう久しぶり会った親友に笑いかけるように言葉を続ける。




「ソラくんは成長期だからね~来年くらいには私と愛里と同じくらいの身長になるだろうし、もしかしたら超しちゃうかも!最近の子達は成長がすごいからね。それにほら見て!ソラくんの顔!龍一に似てきたでしょ!でも性格は別、とっても賢い子だよ。そこは愛里に似ているのかな?」




 美穂が話を続ける間、ソラは静かに聞き入っていた。自分の知らない幼い頃の話から最近にあった出来事まで美穂の話に耳を傾け過ごした日々を振り返る。本当にいろいろあった、話たいことだっていっぱいある、でもどうしても勇気がでない。ふと、美穂が後ろを向いた。




「ふふっ、まだ話したいことはあるけど……続きはあなた達の息子くんから聞きなさい」




「……………………!」




「ほらっ、ソラくんこっち」




 ソラは少し戸惑いながらも、美穂の言葉に背中を押されて、墓石に向かって話しかけた。




「えっ………えっとね、ぼ、僕は元気にしているよ。お父さん、お母さん………あっ!、まだまだ慣れないこともあるけど頑張ってるよ。それでね………」




 最初はたどたどしく言葉を紡いでいき………




「新しい学校で、友達もできたんだ。よく昼休みに遊んだりとか、学校終わって遊びに行ったりして、それに今お世話になっている家の子達とも、最初はうまく馴染めなかったけど、今はものすっごく仲良しなんだ…!去年なんかみんなで花火大会に、美穂さんが連れて行ってくれてすごく大きくて綺麗な花火を、みんなで楽しだんだよ!他にも他にも!ハロウィンも!クリスマスも!楽しかったな~!お正月の時は、大晦日に前の学校の友達へ、年賀状を送ったらいっぱい返事が来たんだよ!四月には、末っ子二人組が小学校に入学してね!今は毎日6人で学校に通ってて………!」




 徐々に溢れ出てくる言葉、ずっとお父さんとお母さんに話したかったことをすべて………


 


 やがて、ソラの口から嗚咽までも漏れ出る。感情が込み上げてきた。思い出や喜び、そして悲しみを一気に父と母に伝えようとしていた。だが嗚咽が口からこぼれるほどの感情に、言葉が詰まってしまう。




「………………つらいよ………お父さんとお母さんに………聞いてほしかった………褒めてほしかった………とても会いたい………」




 嗚咽を我慢して絞り出したのは、紛れもない本音………でも。




「………でもね、もう…寂しくはないんだ………悲しいけど………寂しくないよ………」




 ーーーだって、いっぱい家族ができたからーーー


 …この言葉を出すことはできなかった。そのかわりに大きな声で泣いた。


 お父さんとお母さんに届くように………




 今にも雨の降りそうな曇天雲の下でソラは泣く。そんなソラの震える肩を美穂も涙を流しながら支えてあげていた。








 =============






 霊園でお墓参りを終えて、美穂の車に乗って家に帰る途中、




「美穂さん、今日はありがとうございました。」




 助手席に座ったソラは、運転する美穂へ礼を言う。さっきまで大泣きしてたから声はガラガラで目は赤く腫れている。




「ううん、気にしないで!龍一と愛里だってソラくんに会いたかったはずだから!」




 そんな優しい言葉に、ソラは吐露する。




「実は僕、今日ここにくるのが怖かったんです………お父さんとお母さんのお墓をみたら本当に死んじゃったって実感がしてとても怖かった………でも、今は違います。会いに行ってよかったって」




 美穂は優しく微笑みながらハンドルを握り、ソラに向き直った。




「そっか…なら今日は本当に良い時間を過ごせたね。龍一と愛里もきっと喜んでいるよ。お墓参りは大切な時間だから、近いうちまた行こうか。」




 ソラは少し照れくさそうに笑いながら、頷いた。




「はい!まだお父さんとお母さんに話すことが、たくさんありますから」




「うん、お父さんとお母さんはきっとソラくんの成長を見守っているよ。どんな時も、思い出や感謝の気持ちを胸に抱いて、自分を信じて前に進んでいってね。きっと素敵な未来が待っているから。」




 ソラは深く頷く、新しい家族に支えられながら、父親と母親の愛を胸に生きていく決意を新たにし家路につく車内では、穏やかな空気が流れていた。








 ==============






「よしっ!到着~~~」




「お疲れさまでした。美穂さん」




 僕たちは家に到着して車から降りて家に入る。ただ家の雰囲気がやけに静かで普通は誰かが玄関に出迎えてくれるが誰もこない。




「あれっ?みんなは?」




「ホントだ。どこ行ったんだろ?」美穂さんも知らないようだ。




「みんな~きたよ~~~」と少し大きな声を出すが返事はない。静まり返った空間には誰の気配も感じられず、不安が込み上げてくる。僕は靴を脱ぎ捨てるように脱ぎ、居間へと向かう。もしかしてみんなに何かあったのではないか…そんな予感に冷や汗を流し、居間に着くと閉められていた扉を開く。




「みんなっ!!」勢いよく扉を開いた瞬間、






 


「「「「パーーーンッッ!!!!」」」」 甲高い音が響いたそこには………










「「「ソラお兄ちゃん!!誕生日おめでとう!!」」」




 居間には部屋全体が飾り付けられて、クラッカーを鳴らされる。




「……………………」そんな光景にポカーンとしてしまう僕。




「あははっ!!なんて顔してんだよソラ!!」




 そんな僕を指を指して大笑いするユウキに、




「サプライズ大成功だね!!それにしてもホント変な顔~!!」




 フミが笑い、それにつられてみんなが笑いだす。




「ごめんね~驚いたでしょ。みんなサプライズするって内緒にしてたの」




 後ろから遅れて、美穂さんが事情を説明する。


 そうだったんだ…よかった…でもなんだろう?この感じどこかで………




 ………あっ




『『『ようこそ!!すずらんの家へ!!!』』』




 そうだ、この家に初めてきたときもこうやってサプライズしてくれたんだ。


 あの時の僕は、それが鬱陶しくてしかたがなかったけど………




「くくっ………」




「ソラお兄ちゃん?」 そんな僕にフミが顔を覗き込む。




「くくっ………うふっ………ぷっ、あはははははははっ!!」




 突然笑い出した僕に、不思議そうな表情を浮かべるみんな。




「どうしよう!ソラお兄ちゃんが壊れた!」 フミは心配し、




「ほんとだ~でも、ソラ兄がこんなに大笑いしたの初めてかも」ハヤトは驚く。




「ソラにぃなんかおもしろい~」 「あははっ!ぼくもわらっちゃう~」




 アヤとジュンタはそんな僕につられて笑う。




「………何してんだよお前ら………」 一周まわって冷静なユウキ。




「はぁ~はぁ~ふぅ~~~………こんなに笑ったの久しぶりかも、ありがとうみんな本当に驚いたよ。」




 やっと落ち着いた僕はみんなを見渡して感謝を述べる。


 みんなしてやったり顔だ。去年と一切変わってない。




「さて!サプライズはすんだことだし!ご飯にしましょうか!」




 一段落ついたところを美穂さんがみんなを纏める。僕を含めたみんが元気よく返事をしてご飯の準備に取り掛かる………その前に






「みんな…」 僕は………




「「「?」」」




「ただいま!」




「「「おかえりなさい!」」」 家族の待つ家に帰ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る