extra 覚醒
「リュウくん!こっちこっち~!」
「待ってよ~ウイちゃん~………」
ここにきてから約一年が過ぎようとしてる今日この頃、俺とウイは村はずれの森に遊びにきていた。なんでもウイが森で一人で遊んでた時、見かけない洞窟を発見したらしい。一人で森に遊びに行くのは危ないと思ったが、幸いにもこの森に危険な動物が出てくることはこの生活を暮らしていた中で一度もないのが幸いだ。
俺はそんなお転婆なウイと共に楽しく森の中を進んでいく、今日は仕事が休みでレンさんなしに森に行くのは初めてだが、もうこの森にもすっかり慣れたと思う。そんな森の小道を歩いているとふいにウイが小道から外れて茂みの方へと進んでいく。
「リュウこっちだよ~」
ウイがこっちへと手招きしてきて、
「えっ………ウイちゃんそっちは茂みだよ?」
「大丈夫!ちゃんとこっちに小さな道があるから!」
そんなウイに怪訝ながらも、ついて行ってみる。確かにそこには獣道があり道が続いている。しかしその道は、つい最近できたのだろうか草が左右に別れ雑草は踏まれて土に埋もれている。まるで何回もここを往復しているような………
「………ウイちゃん…ここには何回かきてるの?」
「うん?違うよ、ここは一回しかきてないよ?そんなことより早く行こ!」
「あっ!待ってウイちゃん!」
先行して獣道を突っ切るウイに慌ててついて行くリュウ。なんとも言えない不気味さを感じながらも足を進めて行くのだった。
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そうして、獣道を掻き分けていくと突如として洞窟が現れた。
「これが私が見つけた洞窟だよ!すごいでしょ?」 とウイが嬉しそうに話す。
「すごい………ここにこんな場所が………」
俺はそんな洞窟の雰囲気に圧倒されている、それはというと洞窟は自然物で、できていたのではなく人工物のように神秘的なまるで古代遺跡…草木の生い茂る、ジャングルのような濃密な雰囲気に包まれていた。
「ねぇねぇ!すごいでしょ!入ってみようよ!」 ウイがピョンピョンと跳ねる。
「えっ!それは危ないよ!」なんだか嫌な雰囲気に俺は警戒するが………
「大丈夫!なにかあったらすぐに逃げちゃえばいいよ!早く行くよ~」
そんなウイは先に洞窟に入っていき、俺は慌てて後を追う事にした。
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洞窟の中に入ると、少しの間は暗闇に包まれた空間が広がっていた。途中、岩壁には薄暗い光を放つ苔のような植物が洞窟内を照らす。その光景が一層とこの洞窟の神秘性を高めて思わず感嘆が漏れる。
「すごいな、こんなに広いんだ」
リュウは自分の周りを見回しながら、驚きを隠せなかった。
「ねぇねぇ、あっちのほうに道があるよ」
ウイは手招きしながら、先に進んでいく。リュウは迷うことなくウイについていく。手招きに従って、リュウ奥に進んでいくと、奥には通路があったが少し違和感を覚える。この通路が他と違って使用された痕跡があったからだ。
「ねえ、こっちから先は危なそうだから戻ろうよ」とリュウが言うと、ウイは拗ねた顔で「つまんないな~、もうちょっとだけ進もうよ」と言い返した。リュウは少し不安そうな表情を浮かべながらも、ウイの言葉に従って進むことにした。通路を進んでいくと、少しずつ暗くなっていく。先に行くウイも慎重に足を進めていた。
そんな薄暗い道を進んでいくと、広い空間が広がっていたそこには…
「なにこれ………」 「すごくきれい………」
その目の前に広がる景色に目を奪われそこには、壁から天井までに埋め込まれた無数の鉱石、それがまるで星が天空に散らばるような美しさだった。そしてその中央に鎮座している台座に錆びた剣のような物が刺さっていたがむしろその剣に惹かれている自分がいる。
「あれって………」
一歩ずつ無意識に台座に近づいていき、あともう少しでその剣に触れそうな位置まで近づいたその時、
「きゃああああああああ!!」
後ろから、悲鳴が慌てて振り向いてみるとウイが数匹のなにかに囲まれていた。
それの大きさは、俺とそんなに変わらないが体型は細身で痩せ型、薄汚れた緑色の肌をしており顔は尖っていて、鋭い歯と大きくて黄色っぽい瞳をしていた。俺はそれを実物では初めてだが知っているファンタジー映画やゲームで有名な化け物………ゴブリンだ。
「ウイちゃん!!」 無意識に化け物に囲まれたフミを助けるべく動く、
「化け物!!ウイちゃんをはなっ………」
しかし、俺は気づいていなかった。俺の後ろにもゴブリンはすでに忍び寄っていたことを………
ボガァ!!
声は出なかった。ただ何かに後ろから頭を殴りつけられて揺れる視界で振り向くと棍棒を持ったもう一匹のゴブリンが俺はそのまま倒れる。
意識は起き上がろうとしても体は動かなくて、後頭部から生温かい真っ赤な液体が俺の顔を伝って地面を染めた。俺を殴ったゴブリンは、俺が死んだと思ったのか俺への興味をなくしてウイの方へと向かっていくのをただ見ていることしかできなかった。
「ーーーーーュウくん!ーーーーリューーー!!」
ウイが俺の名前を呼んでいる。
だが、それに答えることもできないし、体も動かない。
ーーーーーーーー
でも何だろうか?
ーーーーーーーー
ーーーーーーーー
この感覚をどこかで………
ーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーー……………
……………………
……………………
『リュウぅ………………□□……………………』
………愛里………
あぁ………なんで忘れてたんだろうな………
また、俺は同じことを繰り返すのか………
「………ちくしょう………」
ちくしょう………ちくしょう………、頭の中で繰り返しながら他でもない自分への呪いの言葉のように呟き続ける。
俺はどうなってもいい…ただウイだけでも………
そう思った矢先だった………
『ーーーーーーーーーーー』
声が聞こえる………何を言ってるかわからないけど、それはウイではなく別の何かが自分を呼ぶ声だった。
『-----------』
でも何だろうか、その声を聞くと力が湧いてくる。流石に立ち上がることはできないけど這いずるくらいの体力は戻っていた。視界は赤く染まって遠くを見ることはできなかったが、俺は声をたどり這いずっていく………近づくにつれて呼び声は大きくなっていき………
『ーーーーーーーーーーー』
やがて、俺はそれにたどり着いた………
そこには台座に突き刺さったあの剣があった………
「はぁはぁ!………………」 俺はその錆びた剣の柄を握りしめた。
『ギフト『勇者候補』が覚醒しました』 そんな声が聞こえた気がした。
錆びた剣は光を放って俺を包む。俺はその光に包みこまれると体から活力が漲ってくるを感じた。やがて光は収まり、俺の手にはさっきの錆びた剣ではなく幻想的な彩られた装飾に刀身が朱く剣があった。俺はそれを持って、駆ける。ゴブリンに囲まれたウイを助けるために………
この剣の影響か、一瞬でそこにたどり着くとウイに棍棒を振り下ろそうとするゴブリンに剣を突き刺し切り払う。ほかのゴブリンたちは何か起きたのかわからず呆気にとられ、そのまま周りのゴブリンをすべて切り裂き短い断末魔をあげる。
やがて、残ったのはゴブリンの死骸でできた血の海。生き残ったのは目を瞑りうずくまっているウイと血まみれの俺。
「………………もう大丈夫だよ」 俺は、うずくまっていたウイに声をかけた。
「えっ?………リュウくん?」 そんな俺に、驚きの声をあげるウイ。
「怪我はない?立てる?」
俺は、汚れた手でウイに手を差し伸べる。全身血まみれで剣をもったこの姿を普通の人がみたらドン引きするだろうが、ウイは震える手で掴み返した。顔は赤くなり目は潤んでいる。とても怖かっただろうにとてもいい子だ。そんなウイを見つめて微笑む。
静かになった洞窟の中で血まみれの俺とウイを天井に散りばめられた鉱石が照らしてくれる。もう怖いものなんて何もない、そして………………
『愛里………』
思い出した妻の名前を忘れないように胸に刻みながら俺は輝く鉱石たちを見ていた。
=====視点は変わり少し前=====
「やだよ!!あっちいってよ!!」
わたしはゴブリンたちに囲まれ壁際まで追いやられていた。必死に壁際に埋め込まれた鉱石を手に取りゴブリンたちに投げつけ牽制するがわたしの腕力だと強く投げることはできず簡単に避けられてしまう。
「ギャハッ!ギャハハッ!」
そんなウイの姿をバカにしたように醜い笑みを浮かべて、獲物があがく姿を楽しむゴブリンたち。わたしはもう抵抗する気力はなくなりその場でうずくまる。
「………誰か助けてよ………たすけて………リュウくん………」
ウイは絶望的な気持ちで呟いたが、助けがこないのはわかっている。一緒にきた男の子は目の前にいるゴブリンに殴り倒されるのを見たからだ。でも無駄だとしても助けを求めずにはいられない。やがてゴブリンたちも獲物で遊ぶのに飽きたのか、棍棒を持ってウイに近づいていく。
「あぁ………あああ………」
わたしの前に一匹のゴブリンが今、その凶器を振りあげる。もう成すすべのないわたしは身を縮こませ目を瞑り、くるであろう衝撃に備えていた………………が。
「ッ!!………………………?」
だがいつになっても凶器は降り下りてこない。そのかわり………………
「………ギャ!!」 「ギェ~~………」
耳には短い断末魔が届く………それもやがては止んで辺りは静かになる。
「………………もう大丈夫だよ」
聞き覚えのある男の子の声に目を開けてみると………
「えっ?………リュウくん?」
目の前に立っていたのは、ゴブリンではなく血まみれになった男の子、リュウくんがいた。
辺り一面は何かに切り裂かれ絶命しているゴブリンたち。
「怪我はない?立てる?」
そんなリュウくんはわたしに右手を差し伸べてくれる。その左手にはさっきまでなかった血塗られた剣、それがゴブリンを切り裂いたのだと理解した。震える手でリュウくんの手を掴み取り立ち上がる。
………ひどい顔、頭から体まで全身真っ赤っか、普段のわたしならその手を取ったりはしない。
でも………そんな醜い姿がわたしには絵本に出てくる勇者様より輝いてみえた。息を切らして手を差し伸べる姿も、血に濡れた剣もすべて輝いている。すべては私の為・・・・・・・に………ゾクゾクと体から溢れる高揚感にわたしの顔が火照ってくる。
そんなわたしたちを、星々のように輝く鉱石が照らしてくれる。リュウくんとわたしはそれを見上げていた、とても綺麗だ。でも(・・)そんな輝きよりもわたしはもう微笑みながら見つめてくれたリュウくんの目の輝きにすべてを奪われている。天井を見上げるリュウくんを見つめる。
わたしのわたしだけの輝き………………
わたしだけの勇者様………………
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