第五話 喧嘩(上)

それは、あの面談の次の日


 美穂が幼稚園からアヤとジュンタを迎えに帰ってきたとき、家の前でフミとハヤトが待っていた。たが少々様子がおかしい。いつもおっとりしているハヤトが動揺した様子でフミいたっては泣いていたのかメガ少し赤く腫れていた。


 美穂は子供たちを見て、心配そうに尋ねた。




「ユウキお兄ちゃんとソラお兄ちゃんが帰り道で大喧嘩したの!」




「ユウキとソラ君が!?どうして!?」




「えっと、えっとそれがね!……ぅぅう………」




 美穂がそう問いかけると、何かを思い出したのか、泣き出してしまうフミ


 その代わりにハヤトがわたしに説明する。




「それが………ユウキ兄がソラ兄の大事なグローブを………」




 ハヤトからの大体の説明をきき、置かれた状況を理解する。


 そして………




「わかった、ハヤトありがとね。それで今二人はどこ?」




「えっと………ソラ兄は子供部屋に閉じこもっちゃって………それとユウキ兄はどこかいっちゃった。」




「わかった。私がソラ君に話をしてくるから、ハヤトとフミはアヤとジュンタをお願いね。」




 二人は頷き、フミは泣きながらもアヤとジュンタの手をしっかり握る。


 美穂はソラがいる子供部屋に向かっていった。そして向かいながらも自分を責めてもいた。




 『わたしのせいだ………わたしがもっとしっかりしていれば………』




  そう唇を噛みしめ、ソラのいる子供部屋に到着しドアを開ける………








 ーーーーー美穂が家に帰ってくる数十分前ーーーーー






 今日もいつも通り学校を終えて帰ろうとするソラに声がかかる。




「ソラ!一緒に帰ろぞ!」




「………いいよ、別に友達と帰りなよ」




 ソラは、いつも通りに一人で帰ろうとするが




「いいや!今日は一緒に帰るぞ!フミとハヤトも一緒だ!」




 いつもなら、断れば諦めてるユウキが今日に限っては強情だ。結局ソラが折れる形で施設の子供達と帰る事になった。そうして校門で待っていたフミとハヤトに合流して四人一緒に帰宅することに、ソラを除く三人は今日、学校であったことを楽しく会話しソラはそれを聞き流す。


 そして、小川の流れる石橋の上を歩き始めた途中、ソラにユウキが話かけてきた。




「てか、ずっと気になってたんだけどよ…お前の持ってるそのグローブあの有名選手のやつににてねぇ?」




 ピクリと反応したソラは静かにコクリと頷く。




「だよな!だよな!なんか見覚えあるからそうだと思ったんだよ!かっけぇよな!」




「………うん、かっこいい」




 今まで、無反応だったソラはユウキの言葉に耳を傾け始め会話をし始める。ユウキ自身もソラの反応に嬉しくなり会話を弾ませていると…




「でもマジでかっこいいよな~なぁ!ちょっと触らしてよ!」




 そんなユウキのお願いに目をむくソラ。




「っ!?ダメ!これは大切な物なんだ!」




「えぇ~いいだろう?ちょっとだけだから…」




 そっと、ソラの抱えていたグローブに触れようとしたとき




「ダメだ!!!」




 体を反転されてグローブに触れさせないように死守するソラだがそれが逆効果になった。




「っ!?いいじゃんかよ!!グローブくらい」




 ソラの拒絶にむきになったユウキが何がなんでもグローブに触れようとソラに取っ組み合う、だがソラもグローブを取られまいと必死に抵抗をしていたため揉みくちゃ状態に、フミとハヤトはそんな二人をハラハラと見ていることしかできなかった。そして………




「「あっ!!」」 ポチャン………




 グローブの掴み合いの時、力が抜け両者からグローブが離れる。そのままグローブは空中を舞、石橋から川へと落ちてしまった。石橋の上は川の流れる音だけが聞こえるほど静かになる。




「あっ………えっとソラ!……ごめ…」




 ユウキは自分がしてしまった事に謝ろうとソラの肩に触れた瞬間………




「うわぁぁぁぁぁぁぁ~~~!!」




 振り向きざまに、ソラがユウキの顔を思いっきり殴りつける。殴られたユウキは仰向けに転ぶが背負っていたランドセルのおかげで頭を打つことはなかっただが…




「返せよ!!僕のグローブ!!返せよ!!」




 ソラはユウキに被さりながら拳を振り下ろす。ユウキも殴られまいと抵抗するが反撃はしない。そんな二人を傍観していたフミとハヤトは喧嘩を止めさせようとソラを引き離そうとする。




「やめてよ!!ソラお兄ちゃん!!喧嘩はダメだよ!!」




「うるさい!!はなせぇ!!」




 興奮した状態のソラに必死の説得をするフミ。




「それでもダメ!怪我したらミホかーさんが心配するよ!!ソラお兄ちゃん!!」




「うるさい!!うるさい!!うるさい!!」




 ソラは思いっきりフミを振り払うと怒りの矛先を変える。




「関係ない!!それに僕はお前の兄ちゃんでもない!!家族でもなんでもないじゃないか!!」




「違うよ!ミホかーさん言ってたもん!!すずらんのみんなは家族だって…だからソラお兄ちゃんも………」




「はぁ?何言ってんの?お前らは血がつながってないただの他人だろ!」




 そう今までの鬱憤など吐き捨てるように、怒鳴りつけると




「っ!?ちがうもん!!わたしたちはかぞくだもぉん……ひっくっ…ミホかーさんのこどもだもぉん~~~………」




 ソラの言葉に深く傷つき泣き出してしまうフミ。しかし、喧嘩を止めさせよと必死に訴えたが、ここで一番怒りを現したのが…




「てめぇ!!よくも妹を泣かしたな!!」




 仰向けだったユウキが素早く起き上がるとそのままソラを押し倒す。ソラもそれに応戦して二人は取っ組み合いの喧嘩に、ハヤトはそんな年長の二人を止めようと喧嘩の間に割って入りフミも泣きながら二人を引き離そうとする。そんな状況が十分ほど続き、ふと冷静になったユウキが拳を止めると




「ハァハァ…もう…いい………」




「フゥーッ!!フゥーッ!!………」




 血走った眼でソラはユウキを睨みつけたままだ。




「もういいって言ってんだよ…これ以上喧嘩したら家族が悲しむ」




「っ!?なんだよ急に!なんなんだよ!!」




 喧嘩していた相手が急に冷静になって喧嘩する意思を見せない為、まだ興奮している自分が怒りを発散させる目標を逃してしまう。




「お前ら先に帰ってろ…ミホかーさんが心配するから」




 そう言い残すとユウキは家から反対方向に歩いていく。ソラはそんなユウキに怒りをぶけようと遠くなっていくユウキの背中に怒声をあびせる。




「どこいくんだよ!逃げんのか!?負け犬!!僕のグローブを返せ!!」




 だがどんなに叫んでもユウキは振り返ることはなかった、完全にユウキの姿が見えなくなりまだ胸の中で煮えくり返る怒りを抑えられず拳を握りしめる。




「ソラお兄ちゃん…」 「ソラ兄…」




 フミとハヤトがソラを心配しながら見つめる。すると…




「………ってやる………」




「えっ?」




 ソラがぼそりと呟き、フミが聞き返すが反応はない、ただソラは踵を返して家の方角に歩いていく。フミとハヤトは距離を置きながらソラについていった。そして今、ソラの心中は…




『……出てってやる………早くあの家から』




 まずは部屋に戻って、私物をまとめようとソラは決意しすずらんの家に向かった。その後は家についたソラは子供部屋に閉じこもり現在に至る。






 ーーーーー子供部屋の前にてーーーーー




「ソラ君いる?入るよ?」




 子供部屋に向かった美穂は子供達が共用する寝室の部屋をノックする。部屋の中にはソラがいるというが反応はない、美穂はそのまま扉を開けて中の様子を伺うそこには………




「うぅぅぅ………ぐすぅ………うぅぅ………」




「ソラ君………」




 子供部屋の端、ソラのロッカースペースの前、荷物のリュックを纏めた傍らでうずくまるソラを見つけた。

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