第四話 新生活

ソラ君がすずらんの家に来て数週間がたった。あれから様々な手続きを済ませ、彼がもともと通ってた小学校も転校することになり新しい学校生活を送っているが、あまり状況は芳しくない。すずらんの家でも他の子供たちは一緒に食事をし、勉強をし、遊んでいたが、どこか浮いた存在である彼は遠く離れた場所で大事なグローブを抱え、みんなをひっそりと眺めている。

 美穂は、ソラが少しでも心を開いてくれるよう、何度も声をかけていたが、ソラはなかなか心を開いてくれなかった。ある日、美穂はソラを自分の部屋に呼び出した。


「ソラくん、ちょっと話があるんだけど、一緒に聞いてくれるかな?」


 美穂はそう言ってソラに微笑んだ。ソラはうなずき、美穂の部屋に一緒に入る。部屋には、大きな本棚やデスク、ソファーがあり、まるで小さな図書館のようだった。美穂はソラをソファーに座らせ、


「すごいでしょ~ソラくん、私ね、小説が好きでね。趣味で書いたりもしてるんだ」


「そうなんですか………」


「もし本が読みたくなったらここにおいで」


「はい………それで話って?」


 あまり気分のすぐれないソラに話を切り出す。

 数週間を共に生活してみてソラは、同世代の子供達より賢い。まずは些細な事から、ゆっくりとソラの本心を聞き出すことにした。そうして、ソラの緊張がほどけたくらいに本題にうつすことに


「うん、それでソラ君はさ…ここにきて少し経つけど、新しい学校生活はどうかな?」


「特に…普通ですよ」


 そういうソラ君の表情は暗く、無理をしているように見える


「そっか………ならここのみんなとはどうかな?仲良くできそう?」


「別に、仲良くする必要はありませんし………」


「そんな悲しいことは言わないで…私たちは家族なんだからもし辛いことがあったら私にでも………」


「ッ!………あの!」


 ソラは美穂を睨みつける。どうやら何かの琴線に触れてしまったらしい。


「僕を引き取ってくれらのは感謝しています。でも僕はただの居候です………あなたたちのかぞくじゃないです。」


「そんなことは………!」


「僕にはもう家族はいません………」


「ッ………」


「ここにいる間は、ご迷惑はかけないのでこれ以上は僕にかまわなくても大丈夫です。もう僕からは何もありません………」


 まるでここからいち早く抜け出したいとの思いでソラは部屋から出ていってしまう。


「………失敗しちゃったな、でも」


 ソラを傷つけてしまう形にはなったが、


「無駄じゃなかった」


 美穂は体を起こして、次にユウキを呼び出すことに、


「どうしたの?ミホかーさん?」


 ほかの姉弟達と遊んでいたユウキが部屋へやってきて


「ごめんね、遊んでたのに」


「大丈夫!それで?話って何?」


「うん、ソラ君の事なんだけど………」


 ユウキは今、ソラと同じ学年で同じクラスに入っている。学校での話はユウキに聞くのがうってつけだ。


「学校だとどんな感じかなって」


「あぁ~あいつね………」


 ソラの名前が出た瞬間、渋い顔になるユウキ


「何かあるの?」


「いや、むしろ何もないっていうか………」


 ユウキの話によると、ソラは学校に通い始めて最初こそは転校生という立場でクラスの同級生に多くの関心を持たれていたが、ソラ本人があまり周りと馴染もうとしないため今ではほぼ孤立した状態で、尚且つ、いつもグローブを持ち歩いているためか事情をしらないクラスの子はソラをおかしな子と認識し近寄りがたい存在になってるらしい。


「ユウキはソラ君と遊んだりしてないの?」


「おれだって何回か遊びに誘ったよ!グローブ持ってるから昼休みにキャッチボールにも誘ってもあいつが無視するんだ!」


「そっか………」


「それに…あいつの事なんか気に入らねぇ………」


 兄貴肌のユウキの言葉に驚く美穂。


「どうして?」


「だって、何考えてるのかわからないし薄気味悪いもん」


「それは………」


「それに、あいつが言ったんだ『お前らは違う』って」


「えっ?それって…」


 さっきのソラの言葉がフラッシュバックする。

 『あなたたちのかぞくじゃないです』


「わかんない。でも俺たちとは仲良くしたくないってことじゃないの?」


 そうユウキが答える。あながち間違いではない、彼は私たちとあえて距離を置いているんだ。それでも………


「それでも、ユウキお願いがあるの?」


「ん?なに?」


「ソラ君のこと、お願いできるかな?たとえソラ君がそれを望んでても一緒にいてほしいの」


「……………………」


 押し黙って難色をみせるユウキに言葉を続ける。


「ユウキはこの家のお兄ちゃんだからできるよね?」


「………わかった!おれ頑張ってみるよ!」


 ユウキは美穂の頼みに元気よく返事をする。

 美穂はそんなユウキの頭を優しく撫でてあげる。これで少なくとも孤立せずにはすむと美穂はそう思っていた。


 しかし、これをきっかけにとある事件が起きる。

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