プロローグ(2)





 日差しの強く雲一つない快晴の下でとある森の中、鈍い音が響く。そこにはまだ10歳前後の少年が薪を叩き割っておりその周りには幹のない切り株が点々とあった。そして最後の薪を割ったあとに一息つく。




「よっと……!ふぅ~ここにある薪はこれで最期かな~」




 そこに大柄の無精髭を生やした男性が少年に声をかけてきた。




「今日はここまで、帰るぞ……」




「はい!お疲れ様です!レンさん!」




 元気よく返事をする。俺はそのまま割った薪を集めて帰りの準備を整える。




「レンさん。。準備できました!」




「……重くないか?」




「大丈夫です!むしろ軽いくらいです!」




 俺は後ろで大量に積まれた薪を背負いながら軽々しくジャンプしてみせた。若干引いたような顔をしたレンさんがポリポリ顔を搔きながら「重かったら言えよ」とぶっきらぼうに言う。無口で無愛想な人だが、一緒に生活してみてなんだかんだで優しい人だとわかった。




「それじゃ、帰りましょうか!」




 そのまま、レンさんと並びながら家に向かう。無口なレンさんとは会話がないため、鳥のさえずりと地面を踏みしめる音が聞こえてくる。ふと足を進めながら思う。




 ………ここにきて一か月がたった。


 目覚めたのが見覚えのない森の中で裸のまま寝ていた。それに自分の姿を確認してみたら、背は縮み声音も幼くなっていた。記憶も曖昧で自分が成人男性で家族がいたことまでは、覚えているただその肝心の家族の姿が霞がかかってるように思いでせない。そんな自分に混乱してた時に出会ったのがレンさん…茂みの中から大柄な男が姿を現したら誰だってびっくりするだろう。ちょっと漏らしたのは内緒だ。とはいえ、それが全ての始まりだった。レンさんは、裸の自分を担ぎあげたと思ったら何もいわずどこかに運び出した。その時、腰が抜けて力も出せず、命乞いもしたが聞く耳持たずな感じで担ぎ運ぶ姿にとって食われると思いレンさんの肩で漏らしたのも内緒。




 


 そんなレンさんが俺を連れてきたのは、集落でその中でも大きな家。そこで降ろされると目の前にはダンディーな男性が、ビクビクしながら震えているとその男性が話かけてきた。そのダンディーな男性は村長さんらしい、でも俺が驚いたのは言葉が理解できたこと、てっきり運ばれたとき言葉が通じないと思っていたのだがレンさんが元から無口な人だと後から知った。俺はと言うと言葉が通じ合える安心感に半泣きになりながらも、その人に事情を話した。目が覚めたらあの森にいたこと、記憶が曖昧なことも、ただ相手を混乱させないために、自分の中身が大人な事と家族の事は伏せておいた。ふと、




「それで君の名前は?」




「あっ!えっと…かっ…上条龍一です!」




「カミジョウリュウイチ………名前が長いな」




「あっ名前は龍一…リュウって呼んでください!」




 それが俺のこの世界での名前になった。


 その村長さんは黙って俺の話を聞き終えたあとに、レンさんと話し合っている。ところどころで「人攫い」とか「妖精の仕業」だとかのワードが聞こえてくるが…最終的には話がまとまったのか、俺はレンさんの家で保護される形で引き取られることになることに。


 それからも、この一か月はいろいろあった。俺自身も驚きと戸惑いで何もできなかったが、レンさんとレンさんの奥さんのカヤさんに助けられ、今もこうして生活できているし、レンさん夫婦も子供がおらず、まるで自分の子供のように可愛がってくれるから何一つ不自由はなかったが、あまりにもよくして貰ってた為、後ろめたさもあった


 でも、そんな俺にも転機があった。ある日、何もしてない自分に少しばかりの罪悪感が芽生えレンさんの仕事の手伝いを申し出た。レンさん達も最初は大丈夫だと言ってくれたが俺の気持ちに折れる形で仕事についていくことに、レンさんの仕事は猟師兼木こりで今は薪用の木を売って生活している。そんな最初の仕事はレンさんが割った薪を集めて村まで運ぶこと、俺は細かく割られた薪を積み上げて自分の膝まで積んだ薪を持ち上げてみることに、しかしここで違和感を覚えた…軽いのだ、薪が流石に少なすぎたかと荷を下ろして今度は腰まで…それでも軽く腰から肩の高さ挙句のはでには自分の背ほどに積み上げても軽々しく感じられた。最終的に調子に乗って自分の背の倍くらい積みあがった薪をレンさんに持ち上げて見せると案の定、レンさんは腰を抜かしてしまっていた。後に村長さんに相談してみたが、これは『ギフト』と呼ばれる才能の可能性があるらしい。


 補足をするとこの世界は文明は前の世界より発達はしてないが魔法が存在しており、生活に必要な火や水などを魔法で補っていた。この村にきて当初、魔法を使う村人を見て真似をしてみたが結局何も起こらず恥ずかしい思いをしたことがある。どうやら魔法を使える者と使えない者が半々らしく俺は使えない側の人間だったのかと肩を落としていたが、このギフトと呼ばれる力は20人に一人が発現するものらしくこの村でも3人しかいないようでギフトの力にあった職業に有利に働くそうだ。それを聞いて俺はものすごく喜んだが結局それもぬか喜びで終わる。ギフトが発現した者は直感的にそれがどのようなものか把握できるらしいが俺のこの力持ちになるギフトがどんなやつなのか把握できおらず、村長いわく俺の力持ちになるギフトはまだ覚醒前でありこれはただのギフトの予兆で覚醒しなければギフトの力の真価が発揮できないようだ。それでもギフトはいずれきっかけあれば覚醒するし、今のこの力も十分使いどころがあるから気長に待つことにした。




 そんな感じで一か月、今では薪割りまで手伝えるくらいに仕事にもなれて平和の生活を送っている。そんなもの思いにふけっていると…




「村についたぞ」




 レンさんに話かけられ我に返るといつのまに村についてた。




「お帰りー今日もごくろうさん」




 村の門番のおっちゃんに労われ挨拶を返す。




「ただいまです。おじさんもお仕事頑張ってください~」




 そのまま村の門をくぐりカヤさんの家に向かう。


 途中、村人のおじさん、おばさんも俺に話かけて優しく接してくれている。この村の人口は100人を少し超えるくらいの小さな村で比較的に子供が少ない。この村の若者は大半が都会に出るため、俺みたいに幼い子供(見た目)は可愛がられるようで、優しく接してくれる。途中におやつをくれる人もチラホラ…そんな感じで足を進めていると、




「おかえりなさい~」




 すこし、離れた家の前で洗濯物を持っている女性が、あれが今おれがお世話になってる。家でレンさんの妻のカヤさんだ。




「ただいま、カヤさん」




「うん!今日もいっぱい持ってきたね~重かったらこの人持たせていいからね」




 カヤさんは、隣のレンさんをバシバシ叩き、レンさんは微動だにせず叩かれる。




「大丈夫ですよ。これくらい全然余裕です!」




「そうかい!さてお腹もすいたろう。ご飯にしようか!」




「はい!」




 カヤさんのご飯おいしいんだよな~家に入り食卓に座るとカヤさんがシチューとパンを持ってくる。




「カヤさんのシチューだ!」




「ふふっ、そんなにあたしのシチューが好きかい」




 ゴロゴロとした大きな肉と野菜に目を光らせスプーンで掬い頬張る。肉体労働のあとだからか普段よりもおいしい。




「とっても、おいしいです!」




「そうかい。作ったかいがあったよ」




 カヤさんも満足そうに頷く。その後も会話をしながら楽しい時間を過ごす。




「それにしても、いい食べっぷりだね~作ったかいがあるってものだよ」




「それは、こんなにもおいしかったらそうですよ。それにレンさんもおいしく食べてますよ」




「この人は、反応が薄すぎるんだよ!もうちょっと反応してくれたらいいのに~」




 バツが悪そうにシチューを食べるレンさん。




「まったく、リュウがきて、賑やかになったよ。二人の時はあたしが一方的に話すだけさ」




「ははっ、想像できます」




「これからも、3人・・で楽しくご飯が食べれたらいいね~」




 カランっと床にスプーンが落ちた。それはリュウが持っていたスプーンで…




「おっと、どうしたんだい?」




「………あっ!ごめんなさい!すこしボーっしちゃったようで………」




「そうかい…それならスプーン取り換えてくるから少し待ってな」




 カヤさんが俺の落としたスプーンを取り換えに台所にいった。




「………大丈夫か?」




 心配そうにレンさんも話しかけてくれる。




「大丈夫です!そんなことよりスープ冷めちゃいますよ!」




 そんなこんなで食事が終わり、お風呂で体を洗ったあとに用意されたベットで横になる。




「……………………」




 普段ならすぐに眠りに落ちるが、




「3にん…家族…」




 そうだ…俺も三人家族で一緒にご飯を食べてたっけ…




「………元気でいるかな……そうだといいな」




 そう、まだ思い出せない家族の姿を思い浮かべ、俺は眠りについた。


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