Mischief the Magic

廣海 奈央斗

第1話

人は時々誰もがどうしたらいいのか分からなくなり困惑する。

それは当たり前のこと。泣きたかったら泣けばいい。

逃げたかったら逃げればいい。

インターネットの世界ではそういってる大人たちが無数にいる。

でも、現実ではそう簡単に逃げることはできないしどうするか分かっても

それを行動には移せない。


「ねぇ、ここはどこ...」

「母さん...父さん...どこにいるの...?」

突然、真っ暗になり身動きが取れない。



まるで、何かに拘束されてるかのように



目を開けても真っ暗なため、何も見えない。

「では、お願いします。」

聞き覚えのある声だ。母さんだ...

11歳の僕は必死に叫ぶ。

「母さん、何をしようとするの!!」

「早く、ここから出してよ!」

でも、聞こえなかった。もしくは、聞こえないふりだった。

僕にはどっちか分からなかったが届いてないのか分かった。

そのうち、意識が遠くなっていく。

死を感じたため、聞こえなくても大声で叫ぼうとした。

でも、意識を消す魔法が僕にかかり眠ろうとしてた。

それでも、僕は踏ん張ったが数分もしてしまうと魔法に負けてしまった。



現実世界の記憶はここで強制的に遮断された。

その間は、ただ真っ暗な空間が広がるだけだった。

どこまで歩いても真っ暗な空間が続く。

そんな気がしていた。早く元の世界に戻りたい。

でも、出口はどこにも見えず一人ぼっちだった。


一人呆然と座っていたら背面から突然光が差した。

どこへ続くのか僕には全く想像ができなかった。

三途の川へ繋がってしまうかもしれない。

でも、死んだら仕方ない。もう、どうなってもいい

そんな気持ちで僕は光の方へ歩き出した。

でも、一向に出口にたどり着かない。

歩いてもたどり着かなかったので走った。

走った。かなり走った。

すると、突然光がこちらに差し迫ってくる。

来た方へ戻ろうとしたが遅かった。

僕は眩い光の何かの中に入ってしまった。


...

....

.....

次に目を覚ますと、僕は薄汚い水色の天井にいた。


ここはどこなのか分からなかった。


辛うじて、名前と日本語という言葉は思い出せた。

身体を動かして逃げようと脳が神経に発信しようとするが身体は全く応答しなかった。

それどころか、お腹のところと目の前にある機械が太いチューブで繋がれていた。

それでなんとなく病院なんだって理解した。

ここから逃げるため動こうとする。


しかし、それと同時に激痛が走った。


じっと我慢してこらえるレベルではない。

なので、看護師を呼ぼうとする。しかし、来ない。

しばらく耐えるという選択もあったがそれではとてもじゃないけど持たなかった。

来ないので叫ぼうとする。

でも、もう声を出し切ってしまったため叫ぶことはできなかった。


まるで、地下深くにいて誰も助けることのできない拷問のようだった。


すると、お腹と繋がっている機械からアラーム音が鳴った。

とても、うるさかったがすぐに看護師っぽい人が来た。

「駒宮さん、どうかしましたか?」

駒宮?誰だそいつ。僕は黒部だ。

疑問が浮かんだ。間違いを指摘しようとすると慌てるように

看護師が言う。

「あらら、駒宮さん血が出ちゃってますね。すぐに止血しますね。ちょっとお待ちくださいね」

その言葉と同時にお腹の方を向くとさっき激痛で動き回ったせいか、機械とお腹のところから

大量に出血をしていた。それは床下まで垂れてた。

僕は血が怖くなってしまい、しばらく上を見ていた。



どのくらい時間が経ったのか分からない。

また、眠ってしまいそうだった。

眠ってしまいたいがなんだか起きていないと死んでしまうような気がしたから眠らなかった。

どれだけの時間が経っても状況の整理はできなかった。

すると、さっきいた看護師と夫婦らしい人がいた。


「お子さん、今、がんばっていますよ。意識がありますから声をかけてあげてください」

すると、夫婦みたいな人の奥さんが僕に話しかけてくる。

「聴こえる?ねぇ、...ねぇ...」

後半は全く聞き取れないほど小さな声で話してた。

でも、どこかで聞いたことのある声だった。

どこかで....

誰かは思い出せそうだけど、名前が出てこない。


ただ、なぜか懐かしい声だった。

田畑が広がる美しいところが目に浮かんだ。

空は大きな積乱雲があり、辺りは虫がうるさく鳴いていて

どこか故郷のような感じがして....


でも、なんだかいつも僕は怒鳴られたりして....

思い出していいのか、思い出さない方がいいのか僕にはわからなかった。


僕は返事に答えないと失礼なので「はい、」と力一杯に言った。

聞こえたみたいで夫婦は喜んでいた。

続けてゆっくりとできる限りの声を振り絞って話した。

「あなたたちは誰なのですか?」

すると、夫婦は笑顔でこう言った。


「新しいお母さんとお父さんだよ。

 今までのお父さんとお母さんは事故で亡くなったんだよ。」



僕は理解が追い付かなかった。言ってる意味が分からなかった。

すると、彼らは続けてこう言う。


「これからは幸せな生活だから残りの時間楽しもう。でも、まずは病気を治さないとね」


僕はこの人たちを信用していいのか分からなかった。

まるで、悪い取引をしようとしてる気分だった。

頭の中が暗くなっていくうちに、僕は自然とこの人たちに恐怖を抱いてた。

僕はどこかに連れていかれて人体実験の材料にされるのか!?

それとも、チョコレートに溶かされて世界中に食べられるのか!?

いや、それは無いな。

そんなバカみたいな考えで僕の新しい家族になるわけがない。

じゃあ何だ?お金絡みか。そのくらいしか思い当たる節がない。

クッソ、思いつかない...

てか、チョコレートの話してたらお腹すいてきちゃった。

食べたいな...ってそっか。治療室だからまずい食事しかないのか。

あーも、さっさとここから出てやりたい。

それを考えてるうちにだんだん身体から力が抜けてくる。

辺り一面、暗くなっていく。

でも、そうはさせるかと力を振り絞る。

でも、薬のせいでどんどん視界が狭くなる。

あぁ、もう...

そう思い、半分諦めた状態で僕は眠ってしまった。



目の前にあった大きな壁掛けの時計を見ると、午前10時を回っていた。

目を覚ました瞬間は「これは全部夢だった!」と嬉しさを思い浮かべたかった。

信じたかった。でも、現実は変わんなかった。


「同じだった。変化しなかった」



怪しすぎる夫婦が今日も来て、僕と話してる。

話したいことは無数にあるのに口元と脳が言うことを聞いてくれない。

それでも頑張って喋ろうとしたけど、うまく口を動かすことはできなかった。



仕方ないので、僕は50音の表を持ってきてほしいと頼む。

でも、話せないんじゃ意味はない。

そこで、微かに動きを取り戻した指でひらがなの「あ」と書く。

そして、続けて「い」と書くが途中で疲れてしまい書くのをやめる。



その時、夫婦の旦那が何か察したのかのように翌日に予定通り50音の表を買ってきてくれた。

こっちのもんだ。僕はその表を使って色んな事を聞いた。

職業は何か、住んでるところはどこなのか、闇取引をしていないのか


彼らからはいつも正しく的確な答えが出てきて、とても分かりやすく教えてくれた。

聞いてるうちにどうやら国の官僚夫妻みたいだ。

他にも海外の支援活動の実績などがあり子供医療には詳しかった。

むちゃくちゃエリートでそのうち、非の打ちどころがないくらいだった。

話を聞いてるうちにこの夫妻のことを自然と信用していた。


彼らは僕の身体がまた動くようになったときになったときリハビリや日常的な世話を

つらい顔見せず、手厚くサポートしてくれた。

その甲斐があってか、僕は一般病棟へ移れるまで回復した。

こんなに心身的に僕のこと気にかけてくれるなら、

夫婦が僕のお父さんとお母さんなんだと受け入れるしかなかった。


なかった。


気づいたら、病室内でハンコとサインをしていた。

抵抗をしようとしたけどどことない安心感に浸ってしまい、押してしまった。

世界の果て目ではついてきてほしくないけど僕の世話をしてくれるなら、この選択肢しかない。


それに早くこんな機械だらけの狭い世界ではなく、もっと、自由な世界へ行きたい。

「この夫妻とてきとうに喧嘩して、家出したっていう風にしておいたら警察も本気では探さないだろう」

僕の作戦はカンペキだった。



でも、脳から口へ意思表示することへはあんまり回復しなかった。

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