第4話 ドラゴンと
次の闘技はすぐにやってきた。
闘技場に出る支度をしていると、顔見知りとなった看守がぼくに声を掛けて来た。
「調子に乗って、ロベルトのようになるんじゃないぞ」
看守は意味深な言葉を残して、ぼくの前から去っていった。
どういうことだろうか。ロベルトのようにというのは、どのような状態なのだろうか。
ロベルトは勝って、この牢獄から脱出できたのではないのか。
そんなことを考えているうちに、闘技場への扉が開いた。
今回は、ぼくひとりだけだった。仲間はいない。
反対側にある扉がゆっくりと開けられていく。
「あの
観客席で誰かが大声で叫んでいる。
地響きがした。
扉の向こう側から現れたのは、大きなドラゴンだった。
そもそも、ドラゴンなんて実在したのか。
ぼくは驚きを隠せなかった。
ドラゴンの体のあちこちには鎖が巻き付けられており、数人の兵士たちがドラゴンを闘技場の中央へと連れてくると、その鎖を解いて逃げていった。
「さあ、戦え。
また観客席で誰かが叫んだ。
目の前にいるドラゴンは、のっしのしとゆっくりとした動作で動いた。
全身は硬い鱗のようなもので覆われており、鋭い牙と爪、そして背中には大きな翼を持っている。
「お前が、ハルか」
ドラゴンはぼくと目を合わせると話しかけてきた。
「ああ、そうだ」
「お前は、わしを倒すのか」
「そのつもりはない。けれども、あなたを倒さなければ、ぼくはここから出ることは出来ない」
「なるほど、ここから出たいのか」
「もちろん出たいよ」
「よし。じゃあ、わしの背中に乗れ」
二人の会話は誰にも聞こえてはいなかった。もし、聞こえていたとしてもドラゴンが何を話しているのかわかるような人間はここにはいない。
ぼくは意を決して、ドラゴンの背中に飛び乗った。
観客たちにはぼくがドラゴンをやっつけるために飛び乗ったように見えたのだろう。会場が割れんばかりの大歓声に包まれる。
「さて、行くか」
ドラゴンはそういうと、翼を大きく動かした。
「悪いが少し、ゆれるかもしれん。あいつら、わしの翼を傷つけて飛べないようにしようとしたからな」
「だいじょうぶなの」
「ああ。わしも飛べないふりをしているのが大変だったわ」
身体が浮いた。そんな感覚があった。周りを見るとドラゴンが空高く飛び上がっていた。
闘技場に、大勢の兵士たちが出てきていた。
兵士たちは上空にいるぼくたちを見上げて騒いでいる。
槍を構えて投げるもの、落ちている石を拾って投げるものなどがいたが、どれもドラゴンには届くことはなかった。
「人間の世界ともおさらばだな」
「どこへ行くの」
「静かなところがいいな。ハルはこの世界の人間ではないのだろう」
「うん。よくわらかないけれど……」
「まあいい。共に
ぼくはドラゴンの背に乗って、遠くの森へと辿りついた。
上空から見る限り、近くには人間の住むような場所はなかった。
ドラゴンは森の中に着地すると、崖の下に開いた大きな洞窟の中へと入っていった。
そこはゲームに出てくるダンジョンみたいな洞窟だった。
ドラゴンによれば、
きょうから、その
洞窟内には見たこともない動物たちがいた。角の生えたウサギや双頭のオオカミ。巨大なネズミもいたし、一つ目の巨人もいた。
なぜかその
ドラゴンによると、それがぼくの力なのだという。
ぼくは森の中で
そんなことをしているうちに、噂が噂を呼んだらしく、つぎつぎと見たこともないような魔物たちが集まってきた。
見た目はちょっと怖いけれどもみんないい子たちで、ぼくは彼らをとても可愛がった。
そして、ぼくが可愛がることによって、彼らもぼくに心を許していった。
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