第3話 ユニークスキル発動
控室に戻ると、ぼくの腕には星型の焼印が押し付けられた。とても熱く、皮膚が焼ける臭いがした。不思議と痛みはあまり感じなかった。
ロベルトの太い腕には、すでに3つの焼印が押されており、今回4つ目の焼印が押された。
焼印が5つになれば、監獄から開放されるそうだ。4つの焼印を持つロベルトはあと一度勝てばこの監獄から出られるのだ。
次の闘技は、いつ行われるかはわからなかった。
闘技の日程は、急に看守から発表されるのだ。
だから、いつ闘技が来てもいいように身体を鍛えておく必要があった。
ロベルトは、ぼくに剣技を色々と教えてくれた。
でも、運動が得意ではないぼくにとっては、苦痛の毎日でしかなかった。
あと1回勝てば、ロベルトは晴れて自由の身となる。だから、ロベルトの気合いは違っていた。
闘技では、何人もの囚人が死んだ。でも、新しい囚人がすぐにやってくるため、監獄内の囚人の数が減るということはなかった。
そして、また闘技の日がやって来た。
今度はロベルトとは一緒のチームではなかった。
背の大きな囚人と太った囚人が一緒だった。
「おい小僧、おれの邪魔をするんじゃねえぞ」
太った囚人が鎖の先に鉄の玉が着いた武器を持ちながら言う。
ぼくは盾と小さな剣を手に、闘技場へと出た。
闘技場内は大歓声に包まれていた。
背の高い男は長い槍を持ち、頭の上でぐるぐると回している。
「来るぞっ!」
太った方が大声で言った時、向かい側にある鉄の扉が開いた。
出てきたのは、大きな熊だった。
こんな大きな熊は動物園でも見たことは無い。
長い槍で先に攻撃を仕掛けたのは、背の高い男だった。そのリーチを生かして、槍で熊の脇腹を刺しに行く。槍は熊の脇に刺さったが、それで激昂した熊は立ち上がり、背の高い男に襲いかかってきた。
槍は熊によって叩き折られ、背の高い男の体は熊の鋭い爪で切り裂かれてしまった。
「くそっ、人間様を舐めるな」
大声を上げながら太った男が突進していった。
鎖から放たれた鉄の玉が熊の足に当たり、熊が一瞬よろめく。
行けると思ったのか、太った男は熊に組み付いていた。
人間と熊。組み合ったらどっちが強いのか。それは、誰もがわかることだろう。
なぜ、勝てると思ったのか。太った男に聞きたかったが、それは叶わぬことだった。
太った男は熊に噛みつかれ、
残ったのは、ぼくだけだった。
ぼくは盾を構えながら、じりじりと熊に近づく。
熊は仁王立ちとなり、ぼくの前に立ちはだかった。
あまりの大きさに、ぼくはどうすればいいのか、わからなかった。
『ユニークスキルを発動します』
突然、頭の中から女の人の声が聞こえてきた。
なにこれ、どうなっているの。
ぼくは思わず辺りをキョロキョロと見回す。
『ユニークスキル名、飼育係』
「え? なに?」
ぼくの声に頭の中の声は反応することはなく、それっきり黙ってしまった。
一体何なんだ。飼育係がどうとか言っていたけれど。
「ハル様、私はあなたを襲ったりはしません。どうか、その剣で私を刺す振りをしてください。そうすれば、この試合は終了します」
「え?」
「さあ、はやく」
ぼくに話しかけてきているのは、目の前で仁王立ちになっている熊だった。
どういうこと?
わけが分からずにいると、しびれを切らした様子の熊が自分からぼくに覆いかぶさるようにしてくっついて来た。
「ほら、刺してください。私はこのあと倒れますので、あなた様はその剣を天に向けて突き挙げるのです」
そう言ったかと思うと、熊は突然倒れた。
ぼくは熊に言われた通り、剣を天に向けて突き挙げた。
観衆が爆発したかのような大歓声をぼくに送ってくる。
そのままぼくは、控室へと戻っていった。
「すごいじゃないか、ハル」
すれ違いざまだったが、ロベルトがぼくに声をかけてきてくれて、ぼくたちはハイタッチを交わした。
それが、ぼくとロベルトの最後の会話だった。
ぼくはすぐに別室へと連れて行かれて、あの焼印を腕に押された。これで2つ目。あと3つで、ぼくはここから出られるのだ。
それにしても、あの声は何だったのだろうか。
最初の女の人の声、そしてぼくに話しかけてきた、熊。
なにがどうなっているのかわからないけれど、ぼくはこうして無事に戻ってこれた。
その日から、ぼくは同じ囚人たちから
全然闘っていないのに、そんな名前で呼ばれるのはどこか変な気分だった。
色々とあったことをロベルトに教えたい。
そう思っていたけれど、ロベルトの姿はどこにもなかった。
ロベルトは星を4つ持っていた。あと1つで解放される数だった。きっと、ロベルトは勝ってこの牢獄から出ていったのだろう。ぼくは勝手な想像を膨らませていた。
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