第4話 罪の無い人々を傷つけたお前は許さない!
オレたちが到着したとき、村の建物は幾つも破壊されて村人たちが逃げ惑っていた。つい先ほどまで平和だった村が、今は阿鼻叫喚になっている。
「みなさん、森へ逃げてください!」
オレが目の前の光景に圧倒されて絶句していると、聞き覚えのある声が放たれた。
ルネットちゃんが声のした方へ走り、オレも追いかける。
逃げる村の人たちを誘導しているのはシラノさんだった。頭から血を流している。
「お父さん!」
「二人とも、どうしてここに⁉」
「村が襲われる音を聞いて戻ってきたの」
「魔族の狙いはフウキ様なんだぞ! 一緒に戻ってくるなんて!」
珍しく語気を強めるシラノさん。ルネットちゃんが肩を落としたので、オレが割って入った。
「怒らないで上げてください。ルネットちゃんは村の人たちが心配だったんです。……それにシラノさんのケガもオレのせいですよね。すみません」
「いえ、フウキ様のせいではありません。悪いのは魔族です。とにかく、みんなで早く……」
「やっと見つけたじゃん!」
シラノさんが言い終える前に、その言葉を大声が打ち消した。
オレたちが目を向けた先には、あいつがいた。神殿でオレを襲おうとし、この村をメチャクチャにした魔族、パルパル!
パルパルの肩には、さっきルネットちゃんの家の窓からオレを覗いていたピンク色の鳥が乗っていた。その鳥は右の翼でオレを指し示す。
「あ、ほら、やっぱりこの村にいましたよ! デシ!」
「そんなことは分かってるじゃん! 勇者を見つけたとかいうクセに、その家を忘れたとか役立たずもいいとこじゃん!」
あのピンク色の鳥、魔族だったのか!
「そ、そんなに怒らないでくださいよぉ……。ポピーだって頑張ったんですから」
「うっさいじゃん」
パルパルはピンク鳥、ポピーを掴むと力任せに地面へと叩きつける。
「デシッ!」
ポピーは悲鳴を発してバウンドするとオレの足元に転がってきた。
「い、イタいですぅー、ご主人様。どうかお許しを……」
「あんたみたいな無能は、そこで勇者と一緒に死ぬがいいじゃん!」
「そんなぁー……」
ポピーが翼で顔を覆ってメソメソと泣く。
パルパルが薄ら笑いを浮かべて掌を向けてきた。その手に暗黒色の光が収束していき、渦巻いて球体となっていく。
「勇者様、危ない!」
ルネットちゃんがオレの左手を引いて下がらせようとするが、遅かった。
パルパルが漆黒の光弾を解き放つ。逃げる余裕もなく、オレは棒立ちになるしかなかった。
そのとき、オレの内部から突き上がるような力が湧き上がる。一瞬、視界が金色に包まれたかと思うと、黒い光弾が爆発を上げた。
閃光と爆音に包まれたオレは右腕で顔を庇う。数秒後、爆風が収まって目を開けた。
黒煙と焦げた匂いが立ち上るなか、オレたちの立つ地面の周囲は抉れて穴になっている。オレたちは、何とか無事みたいだ。
「勇者様、これは?」
「わ、分かんないけど、助かったみたいだな」
「おおー! ポピーまで助けて下さったのですね。新ご主人様ぁー!」
「誰がご主人だ! 足に縋りつくな!」
それにしても、いったい何が起こったんだ? 死んだと思ったけど、金色の光がオレたちを守ってくれたような気がした。
「バカな……。上手く逃げたみたいだけど、運がいいじゃん?」
パルパルが動揺しながらも、再び攻撃の姿勢を見せる。まずい!
「魔族ッ! これ以上、みんなを傷つけさせるのは許さないんだから!」
ルネットちゃんがお返しとでもいうように両手を突き出す。
「食らいなさい。〈
ルネットちゃんの声と同時に、その掌から四本の炎の矢が発射された。その炎はフヨフヨと空中を飛んでいくが、簡単に避けられそうな遅さだ。
炎の矢はパルパルの身体に当たり、ポンと弾ける。
「何か、温かいじゃん……?」
パルパルが炎の当たったところを撫でているけど、特にダメージを与えた様子は無い。
「くッ! わたしの最強の魔法が効かないなんて!」
「マジかよ、ルネットちゃん⁉」
オレは絶望感に身を包まれて頭を抱える。
あの程度の魔法しか使えないのに魔族と戦おうとか命知らずだ。ロックすぎるぜ、ルネットちゃん!
「あっはははは! 次は直接ぶん殴ってやるじゃん!」
パルパルは鋭い爪を振り上げて突撃してくる。
ああ、もう無理だ。死んだわ、コレ。
「勇者様、ごめんなさい」
諦めたオレが立ち尽くしていると、ルネットちゃんが左手を握ってきた。それと同時に、再び身体のなかから力が湧き上がる。
爪を振り下ろすパルパルへと、オレは咄嗟に空いている右手を突き出した。
その瞬間、金色の光がオレの全身を包む。その光に激突したパルパルが弾き飛ばされ、数回転して寝転んだ。
上半身を起こすパルパルの右手は千切れ、腕からは白煙が揺れていた。
「い、今のはなんじゃん⁉」
オレに聞かれても分からないって……。
「フウキ様。今のは勇者の力ですッ」
後ろで見ていただけのシラノさんが言った。
「でも、オレは最弱の勇者で力なんかないはずでしょ?」
「神殿の召喚術式には勇者に魔力が宿すように書き換えられていました。今のフウキ様の体内には魔力が宿るせいで神の力である神通力が打ち消され、勇者の力が使えないのです」
「だとしても、どうしてさっきは勇者の力が使えたのさ」
「それは……。何かきっかけがあるはずです。それが分かれば」
それが分かれば苦労しないっての!
いや、待てよ? 確かさっきはルネットちゃんがオレの手を握っていてくれた。光弾を防いだときも同じだった。
でも、神殿から逃げるときもルネットちゃんはオレの右手を掴んでくれていたよな。
ルネットちゃんが手を繋いでくれるのが鍵みたいだけど……。
「このパルパルを怒らせてくれたじゃーん⁉」
パルパルが両手に極大の光弾を形成する。渦巻く黒い光弾から発せられる気流が周囲の雑草をたなびかせ、土埃を舞い上げてパルパルを彩った。
「勇者様……」
ルネットちゃんが怯えたようにオレの左手を握った。
そのとき、オレの体内を溢れるような力が満たす。金色の光が全身を包み、放射状に発する風圧がビリビリと空気を震わせた。
「そっか。ルネットちゃんがオレの左手と手を繋いでくれることが、この力の条件なんだ」
「フウキ様の体内には神通力と魔力が同居しています。魔法使いであるルネットが左手を握ることで、魔力が安定して勇者の力が使えるのかもしれません」
「それじゃあ、わたしと手を繋いでいると勇者様が本当の力を発揮できるんだ」
「ああ、そうみたいだね」
オレとルネットちゃんは頷き合って眼前のパルパルを見据えた。
「どうでもいいじゃん! このパルパルの力で消え失せろじゃーん‼」
パルパルが凝縮した光弾を発射。空間を砕いて迫る一撃をオレは怖気づくことなく迎え撃つ。
左手にルネットちゃんの掌の温もりを感じながら、オレはパルパルに右手を向けた。
「何の罪もない人々を傷つけたお前は許さない!」
オレの右手から金色の光条が照射され、漆黒の光弾を貫通。そのままパルパルの全身を押し包んだ。
「ガルラゾーテ様と一緒にお菓子でできた豪邸に住みたかったじゃん……!」
その言葉を最後にパルパルの肉体が爆発。
オレの右手から放たれていた光が消え去り、村のなかは平穏を取り戻した。
「勇者様!」
ルネットちゃんがオレに抱き着いてくる。その柔らかい感触に思わず頬が緩んだ。
「新ご主人様ー!」
ポピーが足に抱き着いてくる。お前はいいんだよ。
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