浜田由美

 「今日カラオケ行かない?」

浜田恵美は親友の田嶋由井にそう尋ねる。

「ごめん。私今節約中で。昨日グッズ買っちゃったんだよね」

「そっか。じゃあ公園でランチでもしますか」

「かたじけない」

由井は侍言葉を多用する。例えば「拙者」この言葉は由井が一番使う言葉だと思う。中学生になってから彼女と知り合ったが既にその時には侍言葉を使っていたような気がする。私としては面白い友達は大歓迎なのでいつも仲良くしている。

そんな由井は「嘘をつく」

これは悪意があってのことではないだろう。本人は話したがらないが、いわゆる家庭の事情というものが絡んでいるらしい。

 そして私は「由井の嘘だけがはっきりとわかる」

別に何か技能があるわけではない。ただ、中学からずっと一緒にいれば自然とそうなるのではないだろうか。

中学の時人生で初めて親友ができた。それには私自身に問題があるのだと由井はいう。

「すべての休み時間に読書する人間は陰キャか心が病んでいると決まっておりますぞお嬢さん」

あまりの偏見に絶句したのは事実だ。由井がそこまでの偏見を持ち合わせていたとは思ってもみなかった。だが、読書をしていると話しかけにくいオーラが出ていることに間違いはないらしい。

 そこで私は騙されたと思って昼休憩に読書をやめてみた。ぼーっと黒板を眺めているとあら不思議。男女関係なく話しかけてくれるではないか。友達も数人作ることができた。

 由井にそのことを伝えてみると彼女は大喜びした。廊下が壊れてしまうか心配なくらい飛び跳ねていた。

「なんでそんなに喜んでるの?」

「拙者のたくらみが成功したからでござる」

にやりと由井は笑みを浮かべる。

「たくらみ? 聞かせてよ」

「恵美ちゃんの頼みとあらば仕方ありませぬ。拙者は恵美ちゃんのように寂しそうな子を陽の世界に連れ出すことを生業としておりまする」

「私寂しそうだったの⁉」

「私にはわかるよ。あ、待って拙者には分かっております」

「わざわざ言い直さなくても……」

そこで由井はわざとらしい咳払いをした。

「拙者には陽の世界へ行きたい人間を見分けられる力があるのでござる」

「へ~。それで私は寂しそうに見えたのか。でも、別に平気だったけどな~」

「そんなことない! 誰だって一人じゃダメなんだ! あっ、またやってしまった。拙者は…」

「ストップ! 言い直さなくても伝わってるから」


 そんなこんなで由井とは親友になった。後に知ったことだが彼女は幼いころに両親を亡くしてしまったようだ。理由は教えてくれなかったが無理に聞こうとはしなかった。

 田嶋由井は笑いを振りまいてくれる存在で、私とは正反対の人間だった。

私はと言えば、成績はそこそこで特別何か才能があるわけでもない。由井のように周りを笑顔にしてあげられるタイプでもない。こういうタイプは稀に名家に生まれてくるものだが生憎、家は共働きの一般的な家庭である。しかしながら、私は恵まれている人間だと思う。それは由井と比較してのことだ。由井は幼いころに両親を失って金銭面では相当苦労したらしい。

今でもその癖は残っているらしく買い物に行く時は必ずボロボロのエコバッグを持参してくる。

現在は幾分マシになったらしいがバイト五つ掛け持ちとは、脱帽ものである。

大学の学費も結構堪えるらしい。いつも目には濃い隈があって倒れてしまわないか心配だった。

今日試しにカラオケに誘ってみたがグッズを買ったと嘘をつくくらい切羽詰まっているようだ。そういう嘘が見抜けるようになってしまった自分が憎い。

自分よりひどい境遇にいた子に助けられた。なのに恵まれている自分には何もできなかったのが歯痒かった。

ある日、私の家に一通の封筒が届いていることに気が付いた。

『浜田恵美様へ

今回浜田様にはあるゲームに参加していただきたいと思っております。このゲームは一生あなたの心に残り続けるでしょう。スリル満点のゲームにあなたを招待いたします。

さて、現在日本人の生涯年収は二億円から三億円と言われております。そこで、我々は三億円をゲームクリア後あなたにお支払いしたいと思っております。一生忘れられない体験ですから妥当な金額であると考えています。

また、ゲームを優位に進めることができればあなたは三億円以上のお金を手に入れることができるでしょう。

 是非ご参加ください。

 場所日時は以下の通りです。』

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